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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第三章 覚醒編
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再び太平洋へ!

●25 再び太平洋へ!


 空母翔鶴の飛行甲板を爆撃機がつぎつぎに飛び立っていく。

 船首からながれる蒸気の筋が、やや乱れているのは、荒れ始めた風のせいか。


 おれは艦橋にいて、その様子を見ていた。


 昭和十七年四月十八日。おれたちは呉から廻航してきた空母翔鶴にのりこんで、日本を出発した。


 もちろん翔鶴だけではない。今回は広い太平洋を未知の航路で接近する敵艦隊を補足するため、広範囲かつ、多くの僚艦が必要だ。


 足らない空母をおぎなうための小型空母鳳翔、瑞鳳をはじめ、駆逐艦三日月、夕風や、愛宕を旗艦とする第二艦隊、摩耶の第四戦隊、重巡羽黒、妙高の第五戦隊、そのほかの艦船多数がおれの配下となっていた。


 さらにトラックに停泊中の第六艦隊にも南方の海域を警戒発令、陸軍も防空、新型高高度対空砲の配備を行うなど、まさに挙国一致の迎撃態勢を整えている。


 そのうえ、おれには史実にもとづいた知識があるから、アリューシャンからの北方ルートを重点的に警戒するため、横須賀から北東方面へと展開するつもりだった。


 おれの傍らには山口多聞、草鹿もいる。伊號潜水隊も今回の作戦に含まれているが、船足がおそいため草鹿は乗船せず、以前と同じように参謀長として同伴、山口は大石のかわりに主席参謀とした。そして……。


「空でなく、ここにおるのは、落ちつきまへんなあ」

「そうかい? 期待してるよ淵田くん」


 以前と変わらぬチョビ髭をなでるのは、淵田美津雄だ。

 おれは航空参謀として、傷の癒えつつある淵田を抜擢した。


「例の新型エンジン機は誰が乗るの?」

「あ、あれでっか。板谷と高橋ですわ」


 おれが航空工廠で見たあのエンジンが、試験機として二機だけゼロ戦に搭載されていた。十日間という短い工期で仕上げてくれたのは、中島飛行機の尽力だった。


「ところで、今回はちゃんとパラシュート積んでるんだろうな」

 軽く淵田を睨む。

「おーこわ! 飛行士を殺さないことが大事……わかってま。みんなにも何度も説明しましたから」


「それでいい」

「敵さん見つかりますかね」

 草鹿が緊張した顔で言う。


「わからんが、見つかるまでは作戦継続だ。おれたちの目的はただひとつ」

「爆撃機搭載空母の飛行甲板、ですな」

 山口が得意の双眼鏡を構えた格好で答えた。


 すでにおれの意識も、南雲ッちの経験と胆力が、あらゆる方面へと注がれている。

 おれはあの夜、三人でした料亭での会話を思いだしていた……。




「まもる?」


 おれが言った「日本を護る」という発言に対して、山口が不思議そうな顔をした。軍人らしからぬ、消極的なセリフだと、聞こえたのだろう。案の定、彼は不服そうにやや口をとがらせて、おれを難詰する口調で言った。


「護る、じゃなく、敵艦隊を撃滅する、ではないですか?」

 草鹿もわが意を得たり、とばかりにうなずく。

「そうですよ。南雲長官には似合わない、後ろむきなお言葉です」

「そうじゃないんだ」


 目の前に並べられたお膳に手をのばして、おれはことさら冷静に話す。


「すべての作戦には達成すべきポイント、要諦というものがある。たとえば真珠湾は敵艦の撃沈、工廠の破壊、燃料タンクの破壊とかだ。インド洋では、イギリスの通商ラインを分断すること。わかるかい?」


「わかってますよ」

「もちろんです」


 おれにつられて、二人も食事に手をのばしはじめる。いつの世も、どんな時も、腹が減っては戦はできぬだ。


「では、今回の作戦の要諦は、なんでしょう? はい、多聞くん」


 おれは箸の先を山口にむけてうながした。彼の眼にはそれがかなり行儀のわるい仕草に見えたのか、ちょっとむっとした表情になる。


「そりゃあ、敵艦隊の撃滅でしょう」

「ぶ――――!」


 ブザーの音の擬音でハズレを表現したつもりが、ただ単に不思議な顔されてしまった。彼らにはなんのことかわからないみたい。


「ざんねんでした間違いです。ではつぎ、草鹿くん」

「ううん、じゃ、本土防衛……ですか?」

「せいかい!」


「し、しかし、敵空母を叩く絶好の機会じゃないですか!アメリカがたのみとする最後の二隻がノコノコとやってくる。しかも今のところこちらに察知されていることはわかっていない。これを機としてこれを撃滅せん、と欲するは当然……」


 山口がまだ納得できないような顔をして、言いつのる。


「だが、間に合わないんだ」


 そりゃおれだってそうしたい。でもそのためにはこっちもたくさんの空母艦隊をそろえる必要がある。なんたって、むこうは大型の空母が二隻もいる。しかしこっちは太平洋にアメリカの空母がいないと高をくくっていたから、最寄にはたいした船がいない。アメリカにしてみれば、まさに、こちらの意識がインド洋と南方に向いている今が、絶好のチャンスだったのだ。


「聞いてくれ」


 おれは箸をおき、とっておきの真面目な顔をした。これならつきあいの長い彼らには、おれの真剣さが伝わるだろう。


「今回、一番大事なことは、本土に指一本触れさせないことだ。そこのところを理解してほしい。そのうえで、この作戦を考えよう」


「……」


「いいかい、現在主要な空母はインド洋に出ていて太平洋じゃ数が足らない。その劣勢を挽回できないことはないが、万一その過程でB25を撃ち漏らすと本土に危険が迫る。したがっておれが考える今回の作戦はこうだ。まず本土から出来るだけ遠いところで戦い、B25を搭載した方の、空母の飛行甲板を破壊すること」


「それはわかります」

 草鹿が自分も酒を置いて、腕を組んだ。

「爆撃機を発進させないことが重要ですからね」


「以上だ」


「え?」

「なっ?!」

 二人がまさか、という顔になる。


「それが最初にして唯一の目的だってことだよ。もちろん、もう一隻の空母からも戦闘機が発艦してくるから、それへの対応も迫られる。だが大事なのはこちらからやたら哨戒艇などを出して発見され、先にB25を発艦させてしまうことなんだ。わかるだろう?」


 実際、史実ではこちらの哨戒艇が発見され、まだかなり本土への距離があったにもかかわらず、B25は発艦、結果的には空襲を成功させてしまうことになった。それは絶対にさけなければならなかった。


「だけど、哨戒艇を出さない、というわけじゃあないんだ。敵の位置をしることはなによりも重要だし、敵がどのようなコースで日本列島にむかっているのかをしることにもなる。それにB25の航続距離は二千キロ。つまりそれより以遠では、哨戒艇が発見されたってどおってことはない。その時点で発艦したとしても、当然ながら日本には届かず、海に落ちてしまうからだ」


「……」


 二人とも、くすりともせずおれの話を聞いている。


 ちなみに、史実ではB25が発艦したのは哨戒艇に発見されたと認識した日本から千二百キロの海域だった。ようするに,帰還は考えず、大陸に抜けて着陸を目指すとしても、限界は千二百キロなのだ。それより遠いところなら、いくら哨戒艇を出しても、問題ないことになる。


「だから哨戒艇はウェーク、アリューシャンからを重点的に、それこそアリの抜けだす穴のないほどにしっかりやってもらうよ。今回は本土を護る具体的な必要性があるわけだから、陸海が一致して、あらゆる手段を使って集中してこれにあたる」


「では、われわれはどうするんですか?」


「うん、そのうえで、おれたちは本土から千二百キロ、六百五十海里からこっちを受けもつ。爆撃機二小隊で哨戒隊を複数編成して、敵を見つけしだい攻撃するんだ。もちろん、敵の爆撃搭載空母の方をな」


「なるほど」


 山口がやっと腑に落ちた顔をしてつぶやいた。


「われわれの仕事はB25が発艦できないように飛行甲板を破壊することだ。そして万が一にも発艦してしまったら、これを徹底的に追尾して撃墜する。それでも逃したら本土に配備したレーダー連動の高高度高角砲でそれを狙う。さらにそれでも無理な場合は、陸軍基地の隼に三十ミリ機銃を装着して撃ち落とす」


「……むう」


 彼らにも、ようやく重要なことがなんなのか、わかってきたらしかった。二人とも、真剣に作戦を考えはじめている。


「もちろん、B25搭載空母の飛行甲板をやってしまったら、あとは自由だ。そろそろ敵の新兵器も警戒しなければならん段階だが、ようすを見て、空母二隻、やってしまってもかまわない。やれるもんなら、だけどな」


 と、おれは挑発的にわらい、ぐいっと……お茶を飲んだのだった。



ようやく日本を離れて太平洋です。史実では成功(?)した本土爆撃が、今回はどうなるでしょうか。南雲VSマッカーサー&ニミッツの死闘が、いよいよはじまります。

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[気になる点] 隼に30ミリ? 翼下にぶら下げる?まだ鍾馗は実戦配備じゃないから他に手は無いか。
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