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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第三章 覚醒編
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日本を護るのはだれ

●24 日本を護るのはだれ


 大慌てで列車を乗り継ぎ、海軍省にもどると、永野軍令部総長、山本司令長官、そして海軍大臣の嶋田繁太郎が待ちかまえていた。そして、見たことのない若い青年将校がひとり……。


「はじめまして。陸軍パナマ機関の真島です」


 どうやら、諜報を動かしている特務機関の人間らしい。


「では、後から来られた南雲長官にも、再度軽くご説明いたします。今から約四時間前の現地午前零時、パナマ運河のクラカーチャを、アメリカの大型空母二隻、巡洋艦四隻、駆逐艦四隻が通過したとの極秘無電が、トラック、ウェークの両島を経由してありました」


「空母……二隻?!」


 あいつら、なに考えてんだ?


 目の前に、太平洋の大きな海図が広げられている。


「この艦隊は、いまごろはパナマ湾に出て、おそらくは夜明けを待って出航、サンフランシスコか、真珠湾にむかうものと思われます」


「夜中のパナマ通過とは、日本の潜水艦攻撃がよほど怖かったと見えるな」


「うむ、草鹿が同じルートでホーネットをやりましたからな」


 と、山本と嶋田大臣が、ホーネット撃沈を自分の手柄のように話している。


「問題は彼らの狙い、だよ。なにしろこの太平洋には、帝国の基地が多い。空母艦隊の的はたくさんある」


 永野総長は、いつものように沈着だ。


「ねえ、真島くん」


 おれは特務機関の真島に目を向けた。


「はい」


「真珠湾の諜報活動って、ほぼ壊滅してたんだっけ?」


「日本人はほぼ全員強制収容所に入れらており、数千人規模いた諜報関係者も活動がほぼ停止状態ですが、ほんの一部の日系人、現地人には、かろうじて命令が可能です」


「連絡はどうやって?」


「暗号による短波ですが、暗号表は前のままですね」


「それじゃ使えないなあ」


 おれは腕組みをした。


「おれが去年報告したように、昔の暗号は完全に解読されていますよ。使い物にはならないんです」


「真珠湾の諜報が使えれば、その空母の入港や出航が確認できる、と南雲君は言いたいんだね?」


 さすが永野さん、理解が早い。


「ですが、その命令も、返事も、暗号がないとどうにもならないですよ。なんらかの作戦行動のために出てきたんでしょうから、それを確認したいのですがね。……パナマの諜報からは、他になにかなかったかい?」


 おれは真島の階級章を確認しながら、そう言った。襟には中尉の印が刻まれている。


「いえ、パナマの諜報員からは、艦隊のごく簡単なようすだけです。目測での大きさや、甲板のようすなど……」


「ほう、それはどんな?」

 おれは身をのりだす。


「空母は全長二百超、幅三十、二隻のうちの一隻は、甲板上に二十機以上の双発大型機を認めむ、ですね」


「大型空母ですなあ」


 嶋田大臣が腕組みをする。


 たしかにその大きさなら、ほぼエンタープライズやサラトガと同じだ。


「ん? 二十機がなんですって?」


 なにかがひっかかった。


「はい、二十機以上の双発大型機、です」


「ドーリットルだ!!!」

 おれは思わず叫ぶ。


 たしかに、史実でもこの時期、反抗を画策するアメリカ海軍は、マーシャル・ギルバート諸島や、ウェーク島などの日本軍基地へ、散発的な攻撃を加えている。しかし、大型機が二十機以上といえば……この特徴はもう完全にドーリットル空襲じゃないか!


 となると、大型機は……。


「B25、アメリカ陸軍機ですよそれ」

「どういうことかね?」

 と、嶋田大臣。


「え~と……」

 おれは説明の方法を考えた。


「彼らにはもう空母が二隻しか残っていない。だからそれを丸ごと太平洋に投入してきたのは、あきらかに異常ですよ」


「それだけ、われわれが怖いのだよ」

 山本長官、ちょっと黙ってて。


「そして十六機もの大型機というのは、やはり爆撃機でしょう。アメリカはいち早く高度と航続距離の長い爆撃機を開発運用してますからね」


「われわれの調査とドイツとの情報交換においても、B18、23、25、26などの爆撃機保有が判明しています」


 この真島っての、なかなか優秀だね。


「んで、おれが思うに、空母から爆撃機を離艦させるなら、双発で短距離離陸のできるB25にちがいありません」


 なぜ知ってる? とは誰も気がつかない。

 おれは続けた。


「つまり、この時期、これだけの数の大型爆撃機を乗せてくるっていうのはただごとじゃない。太平洋の島々をちょこっと空爆するような、そんな小規模な作戦のはずがない」


「で、ではトラック島か?」


 嶋田大臣と山本長官が顔を見合わせる。


「そういえば、トラック島には先日工作員も来ましたからね。マッカーサーの意趣返しということも……」


 おれは首を振った。


「サンフランシスコやハワイから見ると、トラックも東京もそうたいして距離に違いはありません」


「まさか!」

 全員が席を立ちあがった。

 おれは一人すわったまま、彼らを見回す。


「彼らの狙いは、本土です」

 海図にある日本列島を、彼らは呆然と眺めていた。




 海軍作戦部フランシス・S・ローのアイデアをもとに、立案したニミッツの計画は、けしてケチなものではなかった。やる以上は最善の努力をし、最大の効果をあげねばならない。


 弁の立つマッカーサーがワシントンで暗躍し、ニミッツが海軍作戦部を動かす。アーネスト・キングが陸軍にも話を通し、その結果、ジミー・ドーリットル中佐が、作戦の指揮官に選ばれた。


 B25はもともと短距離離陸能力があったが、増設タンクをつけ、通常の三分の一の滑走路で離陸する訓練をくり返した。また、空母の飛行甲板は八メートルも延長改造した。


 ここまで万端の準備を、この短期間でなしとげたのは、やはり劣勢を挽回し、日本に一泡吹かせたいという、軍部全体の意識が一致したからに他ならない。空母二隻巡洋艦四隻、駆逐艦四隻という大艦隊は、本土の空襲がうまくいけば、そのまま太平洋地区にいすわり、日本の支配地域を脅かす予定だった。


 この作戦にどうしても乗船参加したいという理由で、ワシントンからわざわざ飛行機に乗り、サンフランシスコで待ちかまえている人物がいた。


 マッカーサーとその副官、ジョン・D・マクルリーである。


「閣下、もうすぐですね」

「うむ」


 マッカーサーはシガーを吹かして目の前の海を見つめている。


 サンフランシスコの埠頭から見る海は、青く穏やかだった。


「やつらはイギリスの講和に目が向いている。まさか、われわれが日本本土を空襲するとは夢にも思わないでしょう」


「その通りだ中尉。わが合衆国は、イギリスの弱腰どもとは違う、ということを、教えてやらねばならん」


 優秀なこの副官は、マッカーサーとニミッツが手を組んだこの作戦が、戦争終結を目指す一部の平和主義者へ、痛烈な打撃を与えることにも気がついていた。


「これで講和派も意気消沈しますね」

「そう願いたいところだ」


 マッカーサーはナグモのことを考えていた。


 原子爆弾の脅威を確かめるため、マッカーサーはワシントンでアメリカ国防研究委員会議長のヴァネヴァー・ブッシュと面談していた。


 それによれば、ウラン235による原子爆弾の可能性については、まさにナグモの言っていた通り、すでに合衆国内においてもその研究が進められているとのことであった。


 しかし、それがナグモの言うほどの威力を示すかどうかは、まだ誰にもわかっておらず、この開発がはたして戦況に決定的な影響をもたらすのかも、不明とのことであった。


 なにより、軍部もワシントンも、真珠湾から以降の、自分たちの敗戦に憤っており、戦争遂行への決意は固かったのだ。


(この作戦が成功すれば、少しは国民の留飲もさがり、講和への機運が高まるかもしれん……)


 少し風が出てきた。潮の匂いが強い。


 マッカーサーは、波立つ海のはるかむこうにある日本と、あの奇妙な日本人、ナグモのまぼろしを見つめていた。




「で、どうするんですか?」


 その夜、草鹿と山口を呼び、おれは経緯を伝えた。


「このまま黙って待ってるわけにはいかんでしょう長官?」

「いまごろは、大本営が蜂の巣をつついたような騒ぎになっとるでしょうな」

「われわれはすぐに発てますよ」

「翔鶴も呉から呼び寄せるなら、乗組員も非常呼集しますか」


 山口多聞も草鹿も、すでに出撃を決意しているようだ。


 ここは銀座の安い料亭だった。こういう事態だから海軍省からも離れるわけにいかず、さりとて腹は減る。しかも個室でないと話が漏れる。そんなこんなで、この時代の密談には、料亭が重宝なのだった。


「どうするんですか長官!」

 草鹿が料理にも手をつけず、おれに詰め寄った。


「もちろん出撃するさ。……なぜなら」

 おれはにっこりと笑った。


「日本はおれたちが護るんだからな」



いつもお読みいただきありがとうございます。ドーリットル空襲とは、太平洋戦争時、アメリカが実際に空母ホーネットでおこなった日本本土空襲のことであります。南雲の「その特徴はもう完全に…」モノローグは、ミルクボーイさんへのインスパイアです。(←どうでもいい

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