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太平洋戦争の南雲忠一に転生!  作者: TAI-ZEN
第一章 真珠湾攻撃編
1/309

おれ死す

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ご注意


本作品は史実をベースにしておりますが

あくまでもフィクションであり

登場する人物、組織、国家はすべて

実像と関係ありません。


-------------------------------


■ 登場人物


おれ 南雲 忠一 一人称おれ 第一航空艦隊司令長官 中将

参謀長 草鹿 龍之介 一人称自分 少将 丁寧・真面目

主席参謀 大石 保 一人称オレ 中佐 豪放・単純


航空参謀 源田 実 一人称わし 中佐 酒豪・大阪弁・卑怯嫌い

航空参謀 吉岡 忠一 一人称わたし 少佐 冷静・明晰

航海参謀 雀部さきべ利三郎 背がひょろりと高くて、なかなか面白いやつ

通信参謀 小野 寛次郎 一人称私 少佐

機関参謀 坂上 五郎 一人称私 少佐

赤城艦長 長谷川 喜一 一人称私 大佐


淵田 美津雄 中佐 飛行隊長 総隊長 精悍でちょびヒゲ

板谷 茂 少佐 飛行士 潔癖なまでの正々堂々派

木村 健一 三等整備兵曹 小さくてかわいい

志垣 太郎 飛行士 戦士


田垣 直寛なおひろ 海軍軍医中尉 一人称私

比奈 かずこ 看護婦 一人称わたくし


山本五十六 太平洋連合艦隊司令長官 勢いあるが軽率な面もあり。一人称オレ

永野修身ながのおさみ 海軍軍令部総長 とにかく頭がいいし落ち着きがある。一人称わたし

第一章 真珠湾攻撃編



●1 おれ死す


 クラスの委員長がかけこんできたとき、おれは職員室でコンビニ弁当をぱくついていた。


「霧島センセイ!」

「……んなんだ?どした!」

「加賀山死ぬってよ!」

「ぶふぉっ!?」


 おれは盛大に口の中のものを吐き出した。


「早く!早く来てセンセイ!」


 委員長はいままで見たこともない必死の形相で、ぶんぶんと手招きをしている。


(ヤベッ!なんか緊急事態?!)


 おれは箸を捨て、立ち上がった。


「加賀山がどうしたって?」

「だから、死ぬんだってば!」


 委員長が手招きするまま、職員室を飛び出て廊下をダッシュで走り、一番近い校舎の出口からグラウンドにかけ降りる。


 そこには、二十人くらいの生徒がざわつきながら、校舎の屋上を見あげていた。


 おれも釣られて思わず屋上をみやると、そこにひとりの制服姿の男子生徒の姿が見えた。青白い顔をして、なんだか呆然と立ちつくしてる。


 ……あ、加賀山だ。

 あいつ、なにやってんだ?

 ……え?なに?

 ……飛び降りる気なの?


 委員長は屋上を指さし、裏返った声で叫んだ。

「あいつ、自殺するって。センセイなんとかしてよ!」


「マ……マジか」


 加賀山はおれの受けもちの生徒だ。小さくて、気が弱くて、みんなからよくイジられていた。つまらないことで馬鹿にされたり、そばを通るたんびに友だちに小突かれてもいた。


 そんな加賀山を、ふと体育館のすみで見かけたのは三日ほど前だった。一瞬だったが、妙に暗い目をしておれを見てたっけ……。


 なんてこった、あれが、サインだったんだ。

 

(くそっ!)


 おれはふたたび校舎に入ると、階段を二段飛ばしで駆けあがる。屋上に出るための、いつもはカギがかかっているはずの鉄扉のノブが、なにかで壊されていた。


 その扉を力まかせにひっぱり、埃くさい屋上に出る。


 うそのような青空が広がる。


 埃っぽく汚れたコンクリートの床が足元にひろがる屋上には、少し風が吹いていた。


 ぐるりには腰ほどのフェンスが設けられている。その金網のむこう、ちょっぴりはみ出た町と空との境目に、加賀山は立っていた。


「やめろ加賀山!」


 加賀山はすっとふりかえり、無表情のまま、もういちどゆっくり前を向く。


 驚く気配がないのは、もしかすると校舎に駆け込むおれをみてたのか?


 下の方で、生徒たちの騒ぎ声が聞こえるのを、加賀山は誘われるように首をのばしてのぞきこむ。


「加賀山!ちょ、おま、なにやってんだ!童貞のまま死んでどうするんだよ!生きてりゃいいことあるぞ?キレイなお姉ちゃんがいいことしてくれんだぞ?!」


 われながら変な説得だよ。でもこんな状況じゃまともに頭も働かない。


「ま、まさかおま、童貞じゃないとでも……?」


「そこかよ!」


「じゃあ童貞だなっ!」


「童貞童貞、うるせえ、アンタこそ素人童貞だろ」


 ぬおおおおお!


 コイツ、なかなか痛いところを突いて……って、だめだだめだ。相手のペースに巻き込まれるな!


「じゃ、じゃあ恋愛はどうだ? おまえ、好きな女の子はいないのか? なんなら先生が愛のキューピットになって、つないでやろうか?」


「生徒から手紙もらって喜んでる教師になんか、いわれたくねえよ!」


「キ、キサマなんでそれを……」


 おれはそっと近づく。


「じゃ、じゃあこういうのはどうだ? マッチングアプリでヤリモク素人女を釣り放題! やりかたは懇切丁寧に指導します!」


 金網に体重をあずけてひょいっと手をのばすが、加賀山はもうちょっとのところで横にずれてかわす。


「それ、素人じゃねえだろ。常識的に考えて」

「いや、素人だろ!」

「そこ言いあうとこかよ」

「くっそめんどい! いいからこっち来いよ!」

「行かねえって、ほっとけよ」

「ばかやろう!」


 おれは思い切って1メートルあまりのフェンスを乗りこえた。


 加賀山は身長百六十センチほど、体重だって五十キロはなさそう。


 おれはこう見えても二十五歳で身長百七十六、体重だって六十八キロだ。だから腕力にだけは自信があった。掴みさえすれば、たぶんだけど、なんとかなる。


「いいからおれにまかせろや」

「まかせたらぜったいダメだろ」

 加賀山が逃げる。


 おれは横に移動した加賀山を追って、二、三歩歩いた。それがいけなかった……。


 ズルッ!


(……あ)


 右足を踏みはずした。

 身体がバランスを失って、斜めになる。


 やべっと思って左手をフェンスに伸ばしたが、空を切った。


(あ―――――――――――ッ!)


 加賀山の姿が一瞬目のはしに映る。青空が流れて見えた。


 空中の姿勢をたてなおすこともできず、どっちが上か下かもわからなくなり、おれはただ身をすくめた。


 ごおっと風を切る音がしたかと思うと、全身が激しく硬いものに叩きつけられる。


 ガン!!!

 ゴキン!!


 花壇のふちのコンクリートに頭をぶつけ、自分の頭蓋の割れる音を聞く。


 キ――ンという音、鉄さびの匂い、激しい頭痛。


 意識が遠のいていくなか、最後に思い浮かべたのは、好きだった女子生徒のあどけない表情だった。


(……佐伯……七海ななみちゃぁん)


 ああ、おれって、つくづく、バカだ……。






 …。

 ……。






(うあああああああああ!)


 身をおこすと、むっとした南国の空気と波の音。

 そして、目の前にはおだやかな青い海が広がっていた。


「……はぁ、はぁ」


「霧島くんさあ、君の卒論だけど……」


「え?!」


 おれの横には……。すげえ水着姿の女!


 なんでこの人、若い豊満な肢体をド派手な水着につつんで、砂浜に優雅に寝ちゃってるの?


 ああ、この人には見覚えがあるぞ。たしか、大学の時のゼミの仁科にしなっていう女教授だ。いつもいいスーツを着て外車のシトロエンに乗ってたっけ。


「卒論のテーマが、第二次世界大戦の第一航空艦隊司令長官・南雲忠一とは、めずらしいよね。特にどうすれば勝てたのか、という歴史改変の視点は面白かったよ。もしかしてキミの親戚とかかな?」


「いえ、そういうわけじゃないっす」


 若い誰かの声がした。

 いや、誰かの声じゃなく、おれの声だ。おれが自分の口を動かして、しゃべっているのだ。


 なんだか奇妙な気分だった。頭の中に自分じゃない誰かがいて、そいつがおれを乗っ取って、口を動かしてるみたいなのだ。


「親戚とかじゃありませんけど……でも、ゲームで知って、そのあと本で読んで、そのうち太平洋戦争とが軍事が好きになって……。あの戦争に負けたのは、南雲中将のせいとかいう愚将論があるらしく……。彼がちゃんと空母を探して破壊しなかったからミッドウェーで大敗したんだとか。だから、この世界史のゼミのテーマを選ぶとき、彼の研究をしてみました」


 あれ?……この会話には覚えがあるぞ……?

 うん、たしかに昔やった。もう何年も前の、ゼミ旅行で行った湘南の海岸のシーンだ。

 てことは、これはデジャブか?

 それにしちゃ、リアルすぎだ。


 もしかして、おれは今、学生……?


 普通に受けこたえしている昔のおれがいて、それを傍観しているおれもいる。なんだか、意識が二重になっているみたいだ。


「ふうん、史実を研究してよく書けてたよ。インド洋でイギリス艦隊を破壊して植民地への補給路を分断すればイギリスとの単独講和が可能になってアメリカを孤立させることができるとか、対米戦には電波兵器や核開発が必要だとか。……優をつけといた」


「あ、ありがとうございます」


「ところでさ、君は中学社会の教師志望だってねえ。意外に熱血教師になったりするんじゃない?」


「は、はあ」


「おおーい!霧島ぁ!せっかくゼミ旅行で湘南来たんだから、サーフィンしようぜえ!」


 ボードを抱えたゼミ仲間たちが、遠く波打ち際で手を振っている。


 あれれ……?


 やっぱり、これ、学生時代の思い出だ。


 オヤジの影響で太平洋戦争ヲタクになって、そのせいで入った歴史研究ゼミのゼミ旅行のシーンだ!


 ああ……!

 あのころは楽しかったな……。


 湘南の海は面白かった……。

 空も青くて、いい波だった……。

 ……。




 ……ちょうかん


 しれい……ちょうかん


 目のまえには、大きな窓。


 その向こうに広大な青い海が広がっている。


「南雲司令長官!」


 黒の立派な軍服を着た偉そうな軍人がひょいと顔をのぞかせた。


「なんだ?!」


 おれは目をぱちくりさせた。


 この顔は……草鹿?


 くさか

 だな。


 え?……誰?


 草鹿って、だれ?


 参謀長の草鹿少将?


 頭の中にどっと記憶が流れ込んでくる。


 記憶ってのはバラした動画みたいなもんだ。


 子供のころからの、見知らぬ優等生の記憶が大量に表れる。


「ぼうずしっかり勉強しろよ!」

「はいお父さま」

「まあまあ!なあんていい成績なのかしら。これじゃすえは博士か大臣になれるわね」

「ううん、ぼく、軍人さんになるんだ!」

「はっはっは! そりゃあいい!」

「わーわー」

「おめでとうございます!」

「えっへん!」

「貴君を成績優秀につき、表彰いたします!」

「おう!」

「甲種合格!」

「ばんざーい!」

「ばんざーい!」

「……」


 な、なんだこりゃ?!


 おれは頭を抱えて、その記憶の奔流に耐えるしかなかった。


 うあああああああああ!

 どうなってるんだ!?


 おれは……だれだ!?

 おれは……。

 おれは。


 おれは、南雲忠一だ!

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[一言] 50キロを片手で持ち上げられるのか。中々凄いな。
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