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【完結済】此彼村で漫画家を探しています  作者: 稲井田そう
【第十一章】此彼村・本殿
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最終的な依り代

 この村の言い伝え。


 煙草を吸うなとか男に触れるなは、生贄用だろう。


 反射するものを使うなというのは、もしかして、反射されると困るということではないだろうか。


 女は夜出歩くなとあったが、ひとまとめにしてしまった可能性がある。それこそ、きちんとした神様向けの村の習わしではなく、老婆の独断で習わしを変えている可能性だって否定できない。


 因習ホラー系の話だと、夜に化け物が出て逃げられると困るから夜に出歩くな、もあるけど……。


 私はこの村に来てすぐ、鏡を執拗にわられていた部屋の様子を思い出す。


 姿を見られたくない……自分の姿が、弱点。


 私はしばし悩んでから、鏡を拾った。


 その瞬間──、

 そのまま障子の部屋を出て、廊下に一歩踏み出すと──

「荒破さん‼」


 福爲に腕を掴まれた。なんだと思えばそのまま引きずられ、私はダッシュする福爲に合わせ走っていく。完全になにかに追われている。振り返れば怪異ではなく辺見ハヤトだった。


「なんでおまえこんなよく分かんない村で同じサークルの奴に追われてんの?」


 走りながら私は福爲に問う。状況が一切つかめない。


「知りませんよ‼」

「あれ生きてんの?」

「はい‼ 多分お神酒を狙ってて、殺す気です」

「堀井さんは?」


 そう言うと、福爲は黙った。それが完全に答えだった。消息不明なら知らないと答えるだろうから。私は「空から降ってきたり廊下から飛び出てきたり何なんだよお前もう」と話題を変えた。


「知りませんよ。っていうかその鏡なんなんですか」

「知らん。ただ、決定打になるんだと思う。出方が完全にゲームのキーアイテムだったから」

「そうなんですか?」

「知らない? 私もゲーム詳しくないけど、ゲーム転生系の出方だったからそうかなって」

「うちゲーム駄目な家だったんで」

「うちもだわ。アニメも禁止?」

「そこまでじゃないです」

「なんだよ」


 私は福爲とひたすら廊下を走っていく。辺見ハヤトは傍にあったスタンド式の燭台を掴むとこちらに投げてきた。ガシャンと足元で燭台が転がってくる。


「あっぶねなんだあいつ。福爲何、彼は、足も速いし部活やってたの」

「高校とか中学でリレーとかやってたんじゃないですか」

「そうなの?」

「知らないですけど」


 福爲は適当なことを言う。緊急時でパニックになってるのか同じサークルの人間に興味ないのか分からない。


「そっちは何か情報はあったの?」

「よく分かんない儀式の会場に通されて、多分、そこから出てくる変な女が、元凶です。その女に多分鏡を見せてお神酒をかければ、どうにかなると思います」

「多分が多いなぁ‼ でも鏡落ちてきてるからそうなんだろうねえ‼ 生贄さえいなければって幻聴聞こえたから」


 しかも三戸志斐と対峙した後に聞こえたので、おそらく……鏡でなんとかしろということなのだろう。


 明らかに死んでいる平野マナが操れるなら私も操ればいいのにと思うが、そうしなかったということは、おそらく死体しか動かせない。


 そして死んでる人間は、お神酒に触ることは出来ないか、鏡に触れないのかもしれない。


 私は鏡を見る。


 いわゆる神器っぽい手触りで、江戸時代あたりの美術展示に紛れ込ませても問題なさそうなビジュアルだ。これを老婆にはりつければ、鏡の接触の真意について分かるだろうが、決定打を失う。確かめられない、辺見ハヤトは燭台があればこちらに投げてくるのでどうにもならない。


「っていうか大広間は」

「もうすぐです‼」


 大扉を開き、広間に入る。


 舞台の傍で老婆が立っていた。


 完全に挟み撃ちだと悟り、私は福爲の腕を思い切り引いた。


「わっ」


 不意打ちだったので、福爲がこちらに飛び込むように突っ込んでくる。


 福爲の立っていた場所に、辺見ハヤトがスタンド式燭台を剣のように振り下ろしていた。


「お前同じサークルだろ、なんなんだよ」


 思わず責めると、辺見ハヤトは「口が悪いですね」と苦笑した。話にならない。


「ちょっと映像映えはし辛いかな」

「こんな状況でいつまで映え気にしてんだよカス」

「気にしますよ。こんな状況だからこそです。このまま生きて帰ったところでサークルはいわくつき扱いです。ピンチをチャンスに変えるのはビジネスとして正しいでしょう」

「そのビジネスとしての体裁を保ってない」

「それは、作品を全部見てからいってくださいよ」

「エンタメとしても満たしてないんだよ。制作の間に人間が犠牲になり死んだりないがしろにしたコンテンツなんか」


 橋本ヒロキ、平野マナ、堀井ユリと犠牲者が出た時点で、エンタメではない。


「荒破さんとは価値観が違うんでしょうね。人と人が理解し合うのは、難しい」

「価値観の話じゃない。業界構造とビジネス構造とエンタメ構造の話をしている。お前さっきもだったけど分が悪くなると感情論に持ち込むな。慣れてないの? ディスカッション」


 それまで余裕そうに笑っていた辺見ハヤトから表情が消える。


 そして老婆に視線を映した。


「まぁ、結局、その場に適していればいいんですよ。ねぇ」

「はい。荒破翼様──貴女は、本儀式において多数の妨害を行い、身捨輪様を冒涜されました。しかし、予定していた奉納娘子を失った以上、こちらも考えを改めなければ」

「は?」

「貴女は奉納娘子に適していないと考えていました。しかしそれはこちらの手の内にあった奉納娘子と比べればの話。用意していた奉納娘子が消えれば、貴女で丁度良くなる」


 つまり、最初は西ヶ住希乃ちゃんがいたので、それを奉納娘子にするつもりだった。その後、漫画家が来たのでそちらを、その後、大学生を泳がしていたのは、そちらが良さそうならそちらを。


 でも全員消えたので、私を、ということらしい。



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