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【完結済】此彼村で漫画家を探しています  作者: 稲井田そう
【第十一章】此彼村・本殿
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凶論

 進んでいけば扉が見えてきて、押し開こうとしても開かない。蹴破ろうとすれば山田さんが「さすがに、ここは私が」と、希乃ちゃんをこちらに預けてきた。


 そして山田さんが思い切り扉に体当たりすると、バン、と扉が開く。


「いいんですか公務員が器物損壊を」

「先ほどの状態は監禁にあたりますので」


 山田さんは「えへへ」と誤魔化すように笑う。


「でも、二手に分かれてますね、どうしますか」


 漫画家が不安そうに左右を見比べる。


「選ぶ必要消えたよ」


 右手から老婆がゆっくりと歩いてきた。


 その背には、大量の黒髪の靄のようなものが蠢いている。先ほど私たちを襲ったものと同じものだろう。


「走れ‼」


 私は声を上げた。


「山田さんすいません先生を支えてください」

「はいっ」


 山田さんが漫画家を支え走る。


 私は希乃ちゃんを抱えながら走っていくが、老婆はゆったりと、老婆の背にある毛髪のなにかは、老婆を追い越しものすごい速度でこちらに向かってきた。


 あの髪の毛の塊は、福爲を追っていたものと似ている。


 廊下を駆け抜けていると、廊下の向こうからは鋸を持った平野マナが現れた。前を走っていた漫画家が足を止めてしまい、つられて山田さんも足を止める。私はすぐに山田さんと漫画家を傍にあった部屋に押し込んだ。


「ど、どうしよう」


 漫画家が狼狽えている。


「横の部屋ぶち抜く、ちょっと希乃ちゃんよろしく」


 そう言って漫画家に希乃ちゃんを預け、私は金属バットで壁を殴る。山田さんは扉を押さえ始めた。


「あの、荒破さん」

「なんです、今忙しいんですけど」

「ありがとうって、感謝してもらえて嬉しかったです」


 山田さんは微笑む。優しくて子供みたいな笑顔だった。


 山田さんには感謝しているし、言ったことはあるがどれか分からない。


「ここ何十年、ずっと辛かった。怒鳴られてまだ何も言ってないのに責められて、何にもしてないのに、私は毎日頑張ってるのに、ネットでは税金泥棒とか公務員なんてって言われて……仕方ないって、ずっと思ってたけど辛くて……」

「……」


 震え声で目に涙を浮かべる山田さんを漫画家がじっと見ている。私は壁をバットで崩す。少し穴があいてきた。同時に扉がガタガタと震える。


「公務員試験に合格して……親に祝ってもらった時、先輩と仕事の話をして明日も頑張ろうって思ったこと、働いていくうちに忘れてしまっていたこと、思い出せた。私は、最後まできちんと人々を支える人間でありたい。身内は……みんな川の向こうにいます。やっと会える」


 山田さんは瞳から涙を溢れさせた後、「ありがとうございます」と続けた。


「ありがとうございます。私は幸せだった。この仕事につけてよかった。私は──人の暮らしを支える、公務員です──貴方たちと会えて、本当に良かった」


 そう言って山田さんは笑う。


「僕が扉を押さえています。その間に、逃げてください」

「知らね~~‼」


 私は大声を出した。持っていた金属バットで壁を破り、山田さんが押さえる扉を押さえる。


「先生ほら、希乃ちゃん連れて山田さんと逃げてください。でないとデビュー作の一ページ目から台詞全部暗唱します」

「ひえ」


 漫画家は山田さんを連れて行こうとする。


「荒破さん‼」


 山田さんは私を責めるように叫ぶ。


「大きい声出して自分が囮になんかなろうとするからでしょう」


 私は悲痛な面持ちの山田さんを見返す。


「自己犠牲はエンタメだからこそ美しいんですよ。生きた人間がいたら生々しくて見るに耐えない」

「しかし」

「山田さん公務員なんですよね? 国に勤めてる人間が自己犠牲を望む姿勢を、見せていいんですか? 問題あるんじゃないですか? 歴史的に」


 私は即答した。彼は私が何を言いたいかすぐに察したようだった。


「……っ」


 山田さんが言葉を詰まらせる。この論理において、山田さんは絶対に反論が出来ない。


「さっき貴方たちと会えて良かったなんて言っちゃったんですから。今私たちの為に死んだら、貴方は公務員として国民を生かしたんじゃなく、最後の最後に一個人に肩入れした公務員になります。公務員が寄り添うのは国民であり、特定個人の肩入れは──許されやしない」


 私は口角を上げ、山田さんを見据えた。


 前職の悪い癖が出た。


「荒破さん……」

「だからここから出て、生きて支えてくださいよ。国民のこと」

「……はい」

「一か八か、扉開いた瞬間に奴らは入ってきます。その隙に、隣の部屋から廊下に出て、逃げます」

「はい」


 山田さんは漫画家と共に隣の部屋にうつった。私は隙を見計らい──、

 バットを構えたまま、扉を開いて廊下に出る。


「荒破さん‼」


 山田さんが絶叫した。


「漫画家を絶対に村から出せ‼ ワンチャン全部の怪異を止める鍵になる! 札とお神酒で出れる‼」


 山田さんの考えた、扉を押さえておく作戦は穴がある。


 何故なら隣の部屋から廊下に出たとき、怪異が近いので狙われやすい。


 私の作戦は違う。一人部屋に出て、囮になり怪異を引き付ければ、残った人間は安全に出れる。


 最高効率だ。


 私は転がるように廊下から出た。



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