表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】此彼村で漫画家を探しています  作者: 稲井田そう
【第十一章】此彼村・本殿
45/63

奉納娘子

『第一代 奉納娘子』


 三沙輪様のお力が弱っている。


 お話をいただき、力になりたいと思いました。


 両親に先立たれ、孤独な私を選んだのは必然でしょう。


 途川様は申し訳ないと詫びてくださいました。


 それだけで、なんだか少し、嬉しかったのです。


 まだ、私の死を儚んでくれる方が、此の世にいらしてくださった。


 こんな幸せはありません。


 どうか雨が降りますように。


 私は、ようやく父と母に会えます。


 私は幸せです。


 次のページは『第二代 奉納娘子』と記されている。書体は異なる。おそらくその代の人間が一ページずつ自由に書き、それを綴じて居るのだろう。


『第十六代 奉納娘子』

 奉納娘子に、妹が選ばれてほしくないなと思っていた。


 高いところ怖いって言うし、儀式失敗させそう。


 なにより、妹が死ぬのは嫌だから。


 両親は妹じゃなくてほっとしてるだろうなって思っていたけど、泣いてた。


 私のことばっかり怒るし、妹に優しいし、私のこと褒めないからいらないんだって思ってた。


 違ったらしい。


 しっかりした子になってほしくて、精いっぱいだったんだって。


 それで傷つけたから、妹にはそうしないようにってしてたんだって。


 私にも優しくしたかったけど、今更褒めても、許してほしいみたいで私の為にならないのか迷ったらしい。私のこと、いらないわけないって泣いてた。


 先に言ってよって思っちゃった。


 なんだよ~って。


 でも最後に聞けて良かった。


 ぺらぺらめくっていると、名前の記されたページが見つかった。


『第二十五代 途川 咲乃』

 私は初めて自ら志願した奉納娘子となります。


 この村を束ねる途川の娘として当然です。


 皆、最後は嫌がったと聞きます。


 私は何も怖くない。


 醜くなって老いて。


 誰にも感謝されずに死ぬ惨めな人生なんて嫌。


 美しく在りたい。


 美しく。


 この身を捨てて、私が新しいみしゃわ様になります。


 なんにもできない三沙輪様に成り代わって、輪が出来るような神様になります。


 美しい神様。


 此岸と彼岸のはざまの中、永遠の存在に。


 これからの奉納娘子へ、私はあなたたちを待っています。


 次の代はどうなっているかと思えば、半紙はまだらに血痕がついていた。


『第二十六代 奉納娘子』

 死にたくない。


 あれは本当にみしゃわ様なのだろうか。


 先代の儀式は失敗したのではないだろうか。


 人間の女のようだった。顔面におびただしい量の札が貼りつけられている。


 あれは封印されているも同然なのではないか。


 私はこの村の為に犠牲になるつもりだ。


 この村が豊かになるために。


 しかしあれは、果たして神なのか。


『第三十八代 奉納娘子』

 民のため。それ以外に無し。


 この命ひとつで民が助かるのであれば安いもの。


 民が救われれば我が生涯百まで生きられずとも本望。


 思い残すことなどあるものか。


 そう思っていたが、迷いがあるのもまた事実。


 神の姿が、おかしい。


 奉納娘子たる者、神の姿が見えるならば、あれはまさしく神であろうが。


 

 あれではまるで魍魎ではないか。


 こういう小道具が最初からあるというのは便利だ。しかもよくできている。年季を感じさせるし、舞台に説得力を持たせるには、こういう細かなディティールが大切だ。辺見ハヤトはスマホを向ける。五十年前、この村では殺傷事件があったと聞くがどうだろう。最後のほうだろうかとページをめくった。



『第四十八代 三戸志保』

 私は、二十五代ぶりに自ら志願した奉納娘子になります。


 しかし私は、ただの逃げです。


 母の重圧から逃げただけ。


 奉納娘子になれば母は喜ぶ。実際喜んでいました。


 村の人間も母を讃えています。親孝行だと。


 いつかの世、はぐれ者のような私でも、存在を承認される世であればと祈るばかりです。


 そして、生贄なんてなく村が回る此彼村であればと思います。


 

 ここで手記が途切れている。この後に、事件が起きこの村は過疎化したのだろう。


 スマホを向けていると、堀井ユリが「撮ってるの?」と声を潜めながら問いかけてきた。


「うん」


 面倒に思いながら辺見ハヤトは撮影を認めた。


「何で……?」

「村を出るヒントにならないかなって。さっき、荒破翼がいたのに、色々揉めてチャンス逃したじゃん」


 こういえば堀井ユリは責任を感じて鎮まるだろう。しかし辺見ハヤトの予想とは異なり、堀井ユリは

「チャンスって……何?」と不快感をあらわにした。


「え、なんで?」


 面倒くさい。こういう時はどんな理由を言っても納得しない。そういう気分に入ってしまえば論理なんて無駄なので、場を納めることに努めるしかない。


「だって、チャンスも何もなくない? 奪うとかじゃなくて普通に合流すればよかったし。そうすればこんなところ来なくてよかったじゃん」


 堀井ユリの声がうるさい。今のところすべての行動でミスをしているのに、自覚がないのだろうか。


「落ち着いてよ。俺は、全員で生き残りたいと思っているから、堀ユリは確かに、平野のことで色々大変だったけどさ、俺はちゃんと考えてるよ」


 辺見ハヤトの言葉に堀井ユリは納得いかない顔だった。緊急時だから仕方がないとはいえ、機嫌を変えたところで何も解決しないのに。自分が人を殺したという動揺を、こちらに共有しないでほしい。自己責任だ。全部。大学生なんだから。そんな状態で社会人になったらどうするのか。


 呆れるが、所詮他人事かと思い直す。


「俺、ちょっと危険がないか見てくるよ。堀ユリはここにいて」

「え」

「手洗いにも行きたいしさ。色々探してくるから。隠れてて」


 そう言って辺見ハヤトは堀井ユリを蔵に残し、出ていく。目指すのは老婆のところだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ