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【完結済】此彼村で漫画家を探しています  作者: 稲井田そう
【第十章】此彼村・中央道
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違和

 まるで社会人同士が話をしているような落ち着き。


 自分やサークルの人間と話をしているときは、福爲が弱いから合わせざるをえないのではなく、まるで合わせて処理していたとでも言いたげな変化。


「まぁ、論破が目的になってる奴が嫌いだから。論理は目的なわけ。人を助けるのが論理だと思ってるから、正しさの為に論理扱う奴心の底から嫌いだし、人のこと論詰めして質問攻めにして何言いたいか分からなくさせる奴全員ね、嫌いんだよね」

「じゃあ大変だったんじゃないですか。コンサル」

「でも、論理で一番強い人間が勝つところだから、勝ってたし、負けることも無かったけど。それだけだったから、辞めた」

「なんか、すごいっすね……」

「なにその間」


 荒破は問う。直接的な質問だった。


「え」

「なんか、過去のトラウマを刺激したかい」

「べ、別に」


 福爲は言いよどむ。やはり普段のサークルでの応答と違う。平野マナが似たような問いかけをしていたし、同じように「別に」と返していたが、感情が無かった。荒破に対しては、明確な誤魔化しがうかがえる。


 平野マナなら、このまま追及するだろう。しかし荒破は違った。


「今、何視点で聞いてますか? って聞くとね、沈むよ相手。論破目的なら。それで一撃。どういう前提を想定されてますか? とか。論破を目的にしてる奴らって論破される前提がマジでないから。自分が正しいと思ってるから。上で観察してる気持ちなの。腕掴んで引きずり落とせば何も言えないから。失敗するの怖くて。そこ叩けば沈む──もし、論破マンへのトラウマがあるなら、使えばいい」


 荒破翼の論理、その論理を、福爲は理解できているだろうか。


 甚だ疑問だ。福爲は自分の意見がない。それを平野マナに言及され、圧をかけられながらも何も言えないのが福爲だった。打ち上げは断るが緊急招集にはやってくる。掃除や整理のために残れと言えば残るし、橋本ヒロキがサボり気味でも文句は言わない。堀井ユリがジュースを買いに行こうと誘えばついていき、辺見ハヤトがどう思うか聞けば言葉を濁す。決断も思考力も大してない人間のくせに、なぜ荒破翼といるんだ。大手勤務の人間の論理を聞く権利がある?

 福爲のくせに。


 様子を見ていると、堀井ユリは「福爲、生きてるんだ」と呟いた。


 そこでようやく気付いた。福爲は平野マナに見捨てられ、消息を絶っていた。


 その福爲が、荒破に合流している。


 もし自分が福爲だったなら。


 札は四枚しかない。平野マナは辺見ハヤトや堀井ユリと結託して自分を蹴落としにかかった。ゆえに味方ではない。敵と考える。そして荒破に助力を求める。ほかの人間が荒破を狙っていると言って。


 福爲にそこまでの度胸があるかは疑問だが、平野マナは橋本ヒロキが死んでいる様子を福爲と見ていたとして、ゆえに福爲を見捨てたとしたら。


 福爲は橋本ヒロキの死体を見ていて、危機感を抱き通常より行動力が増していたとしたら。


「福爲、裏切ったのかも」

「え、なに? どういうこと?」

「平野が福爲見捨てたじゃん。あれ、平野が勝手にやったことなのに、俺たちが命令したって女編集者に言って、取り入ってるのかも」


 じゃないと、普段自分の意見も言えない福爲が、あんな風に話すはずがない。


 なのに堀井ユリは「福爲、そんなことするかな」とこの場で変数を出してくる。


「福爲、もしかしたら私たちの為に話をしてくれてるかもしれないし、元々、札を奪うみたいなの、出来なさそうだしさ……福爲、上手く言ってくれたんじゃないの?」

「根拠は?」

「根拠って……え、ふ、普通に、福爲、掃除とか片付けとか出てくれたじゃん」


 そんなもの、根拠でも何でもない。福爲が掃除に出ていたのは気の良さではなくただの逃げだ。飲み会に出ずともそこまで悪く言われないが、掃除に出ないとなると存在意図を問われる。そこを選別するだけの知能は持っている。なのにどうして、掃除に出るからいい人という安易なラベリングで人を見るのか。浅い。浅すぎる。しかし大衆はそんなものだし、ゆえに堀井ユリもこんなものなのだろうが、演者であるうちは勘弁してほしかった。現に堀井ユリは「普通に合流しようよ」と普通を繰り返す。


「でも福爲が裏切ってたらどうすんの? 殺されるかもしれない。平野が何したか分かんないんだから。その平野も、もういないけど」


 辺見ハヤトはあえてキラーワードを用いた。平野マナを殺したという事実がある限り、堀井ユリは辺見ハヤトに強く出られない。堀井ユリの物語では、この村から運よく出れたとしても、辺見ハヤトという存在から逃れられない。平野マナが勝手に居なくなり勝手に井戸に落ちて死んだとするか、堀井ユリが殺したとするか、堀井ユリの物語の分岐を決めるのは辺見ハヤト以外にいない。


「……」

「堀ユリ、落ち着こう。どうすればみんなで助かるか、考えよう」


 辺見ハヤトは考える。


 死んだみんなの想いを胸に、物語を届ける監督になるために。


 福爲も堀井ユリの存在も、コントロールして適宜編集しなければいけない。


「夜、女性がみだりに出歩いてはいけませんよ」


 振り向けば、老婆がいた。


 老婆は堀井ユリを見つめている。


「この辺りは、かつてよその乱暴者に荒らされた歴史がございます。多くの者が殺されましたから。鉈で、残酷にです。そうはなりたくないでしょう」


 村のならわし。


 ひとつ。みしゃわ様に対して無礼がないように。


 ふたつ、反射するものを使わないこと。


 みっつ、女性のみ、喫煙、男性接触、夜間の活動の禁止。


 辺見ハヤトは何も破ってない。


 自分は何も、間違えていない。



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