辺見ハヤトの正解
「なら、生きなきゃだろ。その分」
辺見ハヤトは最適解を叩きだす。
本当に思っているかなんて誠実さはいらない。三十秒未満、素人が切り取ったワンフレームが、コンテンツの寿命の一長一短を決める世界に、情熱もこだわりも必要が無いのだ。
分かりやすくて、一発で人目を引き付ける、馬鹿でも見れる企画。
因習村で撮影中に大学生が連続失踪のノンフィクションドキュメンタリーなんて中々撮れない。創作ならありふれているがこれは現実だ。自分にしか撮れない。どんな大手が投資したって人なんか殺せないのだから、唯一無二のエンターテイメントがこれだ。
万物のエンターテイメントを、プラットフォームに受けるためにリサイズしていく必要がある。簡単な話、辺見ハヤトがこのまま撮影をしてそれを公開すれば、平野マナが障壁になることは確実だった。それを堀井ユリが思わぬ形で排除してくれたが、この調子を見るに反対しかねない。なにより堀井ユリの両親も、問題があるタイプではないのでこのままいくと映像の公開を拒否してくる。
拒否をされれば対立構造によりどちらかに批判が向く。堀井ユリの両親に問題があれば、後々の暴露で形勢逆転も可能だが、このままでは辺見ハヤトの分が悪い。再生数稼ぎで人の死を利用したアマチュアで何者にもなれずに終わってしまう。
クリエイターになるには、物語が必要だ。
──生き残ってしまった自分に何が出来るか考えました。
──これが罪滅ぼしだと思います。
そう言えば、観客は騙されるだろう。死は人間の心や価値観を動かせる演出としてかなり強い。
エンタメで必要とされるのは、万人が応援できるキャラクター。
「生きて、村を出よう。みんなの分まで、生きよう」
辺見ハヤトは堀井ユリを励ます。
生き残った監督志望の大学生の衝撃的な映像に、きっと業界は食いつく。倫理の問題は残された者が死んでしまったものの想いを引き継ぐ体裁を取ればカバーできるし、なにより感動を生む。そこで知名度を上げればあとは何もせずとも業界に沿い物を作っていけば、広告媒体が辺見ハヤトを利用する。あの話題作を新進気鋭の映像クリエイターの手でと、凡作の彩にして業界の部品に組み込めば、その後の出来がどうだろうと成功の道しかない。そこで下手に個性や自我を主張すれば失速するが、多数決のマジョリティに属し続ければいいだけの話だ。損切りのこの時代に、観客は質なんか見ない。いかに自分が正解を選んでいるかだけ。内容についての評価は業界人の嫉妬で終わる。
「荒破翼を見つけよう。漫画家を探してるって言ってたし、漫画家はもしかしたら、山の上の社にいるかもしれない。さっき屋敷にいなかったし」
辺見ハヤトは高みを目指す。
クリエイターとしての、高みを。
◇◇◇
辺見ハヤトは堀井ユリを励ましながら村の奥へと進んでいく。
スマホのバッテリーはまだ十分残っている。安堵しながら現状を整理する。
自分たちは、荒破翼を狙っている。
荒破翼は何も知らない。自分たちをただの大学生だと考えるだろう。
こちらが有利だ。確信しながら進んでいくと、不意に懐中電灯の光が不規則に茂みを照らしていることに気付いた。咄嗟に姿勢を低くし、目を凝らすと、男女が歩いていた。
荒破と──福爲だ。
「作家さんってどんな人が多いんですか? やっぱ天才みたいな、すごい偏屈な感じなんですか」
「いや……普通にWEB小説だと四十代が前線にいるし、子持ち主婦多いし、男だと拗らせ童貞と五十代くらいの文学少年から直列繋ぎで今に至るややこしい男と、本当に普通の、自分なんか才能ないですっていう男女が多いね」
「へー……仲いいんですか?」
「知らない。こちらが依頼するからさ、相手からしたら断わりづらかったり、これやだって思っても今後に響くかもとか、視点があるじゃん。うまくやってます、仲良くできてますって主観だしさ、向こうは、出版社だから将来を考えて付き合ってるだろうし」
「あぁ」
「なんだろう、めっちゃ私のこと小説のなかで殺してくる人いる」
「なんすかそれ」
福爲が苦笑している。
「普通にモデルが私。最初はこれ私か? って思って気のせいかと思ってたんだけど、聞いたらうんって言われて。殺人事件の話なんだけどさ、毎回殺される人は出るわけじゃん。だから毎回出る人は好きな人のほうがいいからって言われた」
「毎回出るって主人公がいるじゃないですか」
「主人公はねえ、その人の周りの尊敬してる人をモデルにしてるらしい。こういう人のこういうところ素敵だなって、言いたいけど言えないから、人物に落とし込んでるとかって……すごいピュアな人なのよ」
「でも小説の中で荒破さんのこと殺してるんですよね?」
「ね、その人が元から書いてた人物と噛み合わなくなるんじゃないかなって一瞬思ったんだけど、元々書いてる人物も私っぽいから、まぁ、作家本人も楽しんでるしいいかなって」
荒破翼も、村で話をしていた時よりずっと楽しそうだった。まるで創作仲間を見つけ語っているかのような柔らかな雰囲気で、逆説的に初対面の時、いかに自分を警戒していたか、よく分かった。
「普通に編集部で動かしてるレーベルアカウントがあるんだけど、皆で呟いてるのに私が呟いてるのピンポイントで当ててくる奴とか。作家アカウントでスクショしてさ、これ多分担当さんだと思うって呟くの。全部合ってんのよ」
「え、それ、荒破さん殺す作家さんですか?」
「いや? 全然違う。ほのぼのスローライフ書いてる」
「なんか、濃いですね」
「そうかなぁ、なんか、IT系のが濃いよ。エンタメの濃い人って明るく見える暗く見える程度だし」
「コンサルでしたっけ。なんか、イメージ違う」
福爲は苦笑する。サークルにいる時、見たことが無い笑い方だった。




