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【完結済】此彼村で漫画家を探しています  作者: 稲井田そう
【第十章】此彼村・中央道
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堀井ユリの最適解

「どうしよっか」


 辺見ハヤトは途方に暮れていた。探せど探せど、荒破翼の姿が見つからない。


 此彼村の立地は、平野マナが持ってきた本にあった地図で、ある程度把握しているつもりだった。二十代の大手勤務の編集者の運動量なんてたかがしてている。それに今、エンタメ企業はどこもリモートワークがベースと聞く。自主的に筋トレでもしてない限り山道なんて選ばない。村の中の歩きやすい道を進んでいれば、すぐに見つかると思っていたが、歩けども荒破の姿は見えない。


「山の上の社にいたら、マジで面倒くさいんだけどな……」


 本に記載された地図によれば、山の上には此彼村での祭祀を行う本殿がある。漫画家が取材に来たならば、本殿の写真を撮ろうと動くかもしれない。しかし荒破翼が編集者といえど、どこの部署の編集かが分からない。荒破の名刺にあった出版社は子供向けの図鑑、ファッション雑誌、ゲームの攻略本や画集と幅広く手掛ける会社のため、そもそも荒破が平野マナの持っていた本を読んでいるかどうか怪しいのだ。


 こういう時、橋本ヒロキがいれば運動部だった脚力を生かし足場の悪い場所の捜索はカバーできていた。声も大きいので荒破を呼べただろう。鉈の男のような存在が襲ってきても、橋本ヒロキがいれば二人で抵抗可能だった。そもそも鉈の男が襲撃した時、橋本ヒロキがいれば札を使うこともなかっただろう。


 福爲も、なにかに襲われた時など緊急時は一切役に立たないが、自我なんてあってないような男なので、押せば押されるがまま、探しに行けと言えば探しに行く。荒破の捜索には役立ったはずだ。なにより荒破との面識によるアドバンテージがある。


 平野マナは──どうか分からない。ある程度は役に立つ橋本ヒロキを死んだと言い、まだ使える段階の福爲を見捨てたようだった。しかも福爲はリュックにお神酒を入れていたのに、そのお神酒は回収せず見捨てた。


 どんなに有能であろうと、感情的な人間は非常事態において邪魔になる。それに鉈の男の襲撃の時、福爲も動けなかったが平野マナも動けなかった。


 咄嗟の対応が出来ない、言うことも聞けないなら、いらない。


 とはいえ、何もないのも困りものだと、辺見ハヤトはやや後ろを振り返る。


 平野マナを突き飛ばした手のひらを固く握りしめる、堀井ユリ。


 このまま士気が下がった状態だと、荒破と遭遇した時に困ると感じた辺見ハヤトは、「仕方なかったんだよ」と堀井ユリを落ち着かせるよう努める。


「仕方ないって何……何が、仕方ないの?」


 しかし、辺見ハヤトの予想とは裏腹に、堀井ユリは拒絶するような表情で顔を上げた。


「いや、だって、堀ユリ、ずーっと下向いてるから」

「当たり前だよ。マナちゃんが……」


 堀井ユリは言いかけて止まる。


 お前が殺したんだろ。


 辺見ハヤトは言いたくなったが、やめた。真実を伝えたところで堀井ユリは受け止めない。その器がないから今こうして自分に八つ当たりしているのだろうし。辺見ハヤトは想定される堀井ユリとの問答パターンをひとしきり想定してからため息を吐いた。無駄だ。


 ポケットに入れていたスマホを確認する。時間は十九時近くだ。日没により真っ暗なので、スマホのナイト撮影モードによりランプを点灯しながら撮影している。


 堀井ユリには言っていない。


 バレたら困るからだ。


 騒がれて、スマホを奪われ、駄目にされるシーンが目に浮かぶ。


 通信が生きていれば、クラウドに随時バックアップできる。この村から出られないことを知ってから撮影を続けていることに気付いた堀井ユリが、憤り、その怒りをスマホにぶつける場面を名場面に転化できる。


 今はその通信がない。どんな名場面も一瞬で没になる。無駄だ。


「俺には事故に見えたけど、違うの?」

「そんなわけないよ、マナちゃんが掴んできたから、離してって思って……そうしたら……」


 泣きそうな声だった。


 堀井ユリは、お世辞にも演技がいいとは言えない。顔はいいがミスコンでトップは取れないし、元々女子アナ志望で大学に入り、サークルは知名度アップのために入ったと二人で飲んだ時に聞いている。演技が上手ければ女優、歌が上手ければアイドルを目指していただろう。そしてどちらも出来ないから女子アナを目指し、結果的に就職場面で、本気で女子アナ対策している自分より可愛くはない女に負ける。女子アナ志望であったことを物語化しながら二十代を消費し、二十代後半で夢に折り合いをつけて妥協していくか──そんな人生が透けて見える女だった。


 堀井ユリがここから選べる正しい選択はひとつ。


 撮れ高をキープしたまま、話題性を保持し逃げ切ること。


 今のエンタメ業界やアイドル文化と同じだ。飽きられず王道に沿いながら差別化をして、視聴者の信頼と期待に沿い、満点を目指す。見た人間が良かったと思えるのであれば、結末も倫理も必要がない。


 面白ければなんでもあり。


 それを理解できない人間は生き残れない。負けて犬死に。



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