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【完結済】此彼村で漫画家を探しています  作者: 稲井田そう
【第九章】此彼村・外周
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老婆の日記

「まあ、漫画家見つけてから考えようかなと思うけど、ワンチャン、外部からの介入もあるだろうし」

「外部?」

「編集長に言ってるから。自動的に通報されるけどね」

「何をですか?」

「変な村に行くので私から5時間おきに連絡が来なければ警察に通報してくださいって」


 私は、この村に来る前、編集長から漫画家のPDFの転送メールを受け取った。


 その返信に書いたのだ。


「5分程度の遅れは一切考慮せず完全に5時間過ぎた時点で死んでるかもしれないって通報って前提でお願いしてるから、今から5時間後私から連絡が来てないって編集長が分かった段階で地元の警察に連絡がいく。一緒に乗ったバス、十三時発車じゃん。十八時になった段階で、編集長は電話する。五時間連絡が取れない程度で通報かよってところもあるけど、管轄外の警察署から地元警察に連絡が行ったりを考慮すれば、妥当かなって」

「そんなことまでしてたんですか、お札持ってきたりとか、なんか妙に……準備万端というか」

「準備とかパターン想定してないで行き当たりばったりも怖くない?」

「まぁ……」


 福爲は納得してるんだかしてないんだか分からない相槌をうつ。


 私は念のため、黒電話のまわりを調べた。


「そこ触るんですか、さっき電話鳴ってましたけど」

「電話のまわりって、メモとかあったりするじゃん。だから、何か分かるかなって」


 黒電話の置かれた台には電話帳がある。名前の横に電話番号が記載されているが、そこに三戸志斐の文字があった。


 老婆の名前だ。


 電話帳の横には古い缶があった。蓋を開けると、一筆箋が入っていた。

≪●●ちゃんへ≫

 村の人間は勝手なことばかり言うけれど、一緒にお山で遊んでいた貴女なら分かってくれると思うの。だから私の大事な荷物持ってて。途川の元へ行く前に、必ずおうちに寄るから。もう会えないけれど、村を出て落ち着いたら連絡するからね。 三戸志斐

 これは三戸志斐の手紙だろう。しかしその手紙には大きなバツ印が記されていた。


 缶の中には、和綴じの帳簿らしきものが入っている。三戸志斐の手紙と同じ筆跡だ。おそらく日記だ。


「これ、あのお婆さんの日記だよ」


 私は福爲に知らせてから、日記を捲る。日付は百年前だ。おそらくあの老婆が若い頃……二十代か十代くらいの頃だ。


 今日から私は三戸家の嫁。


 重役と聞いていたが、会社ではなく村の重役でしかなく、役回りも祭の補佐だ。


 そもそも村そのものは途川家という家が仕切っている。


 三戸家の他にも補佐の候補は沢山ある。


 三戸家はその立場を奪われないようにと旦那は言う。


 

 この村は身捨輪様という神様を信仰しているとのことだった。


 女は夜に出歩いてはならないらしい。


 嫁入りの前に聞いていない。


 夜這いか何かの風習が残っているのだろうか。


 汚い。これだから田舎者は。


 娘が生まれた。


 周りは可愛いだろうと言うが、可愛いと思えない。 

 産み損だ。跡継ぎになれない。腹を痛めただけだ。


 こんなことなら産婆に頼まず川にでも流してしまえば良かった。


 旦那は私の言葉を窘めたが、自分の家の責任も持てないのか。


 旦那が叱責してきた。


 こちらは働いているというのに。大して甲斐性もない分際で口だけは一丁前。


 旦那曰く、娘は身捨輪様の依り代になるから貴重とのことだった。


 なら生贄にでもするかと言えば、旦那は血相を変えた。


「あの、それ、なんて書いてあるんですか」


 日記を読んでいると福爲が聞いてきた。


「なんで」

「険しい顔してるので、なんか、あったのかなって」

「胸糞自己愛モノローグが飛び出てきちゃって、危険があるとかではない」


 私は日記を読み進める。三戸志斐の日記は、娘の二十歳の記述まで同じ調子だ。


 娘が自ら身捨輪様にその身を捧げると言い始めた。


 旦那に聞くと、やむを得ないと言う。


 子が親の予想から外れるなんて育児の失敗だ。


 周囲には私が推薦したと話をした。


 途川家が感謝を示してくれた。


 今まで三戸家の尽力なんて眼中になかったのに。


 

 身捨輪様に身を捧げる娘を預けると、途川は感謝し、三戸家を顧みる。


 村の人間もだ。


 今まで三戸の地位を羨んでいた家も、三戸に敬意を示すようになった。


 自らの子を犠牲にしてまで村を守ろうとしてくれたと皆、涙を流す。


 産み損と思っていたが、少しは役に立った。


 私は正しかった。


 村の願う通りにした。


 なのに処刑とは。


 身捨輪様に女を捧げなければこの村の安寧はない。


 だから攫った。だから殺した。


 依り代なしにこの村は存在できないのだから。


 途川もこの村の人間も恩を返すということを知らない。


 恩知らず。


 身捨輪様に祟られてしまえ。


「カスオブザデッドじゃん。カス」


 思わず呟く。福爲が「カスって……」と怪訝な顔で見てきた。


「なに」

「編集者って言葉を、扱う仕事では、無いんですか」

「編集長みたいな注意しないでほしい」

「注意されてるんですね……」


 福爲は呆れ顔だ。


「いや……カスはカスだし……」


 私は老婆の日記をそのまま元の場所に戻した。



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