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【完結済】此彼村で漫画家を探しています  作者: 稲井田そう
【第九章】此彼村・外周
35/63

民家にて

「お神酒は、どうする、足す?」

「いや……」


 福爲はリュックを漁った。瓶を手に取り、触れた後「無事です」と私に返そうとする。


「持ってなよ。札使ったんなら。正直、どういう差があるか分からないけど」


 僧侶から貰った札は退魔、神主から貰ったお神酒は清めるものと聞いている。「じゃあ清めようがないものはどうなりますか」と聞いたが、邪悪だったら消えるらしい。固形洗剤と液体洗剤の違いな気がする。


「でも、これ、大事なやつなんじゃ……」


 福爲はそれでも私にお神酒を返そうとしてきた。


「大事……まぁ、大事だねえ」

「じゃあいいですよ」

「なんでよ。普通に使えると思うし。札は、もう一枚しか無くて。漫画家に渡したいから、だからお神酒は持ってな」


 福爲には申し訳ないが札を渡せないのでお神酒で頑張ってもらいたい。


「ど、どうしたんですか、札、一枚しかないって……」

「色々出会いがあったんだよね。っていうか西ヶ住希乃ちゃん生きてたよ」

「え」

「それで、まぁ、色々ありましてねえ……あの、どっから話そうかな……札なくなるってことは、やばい目に遭ったと思うんだけど、ヤバい村ですここ」


 私は福爲に宣言した。福爲はさっきから「え」しか言わない。相手の言葉の処理に時間要するタイプなのだろう。私はそのまま話を続ける。


「そんで、三戸志斐ですって言って福爲たち案内してたお婆さんいるじゃん」

「……はい」


 福爲はどうやら覚えがあったらしい。頷いた。


「五十年前? 行政の書類上では、三戸志斐は死んでる。結果的に、あのババアは、五十年前に死んだはずのババア、もしくは死んだババアを名乗って、この村に不法侵入してるヤバいババア、どちらにしても最悪な二択が起きてる。狙いは、若者と若い女。多分若い女のほうが優先度高そうだけど」


 と、いいかけたところで福爲が「あの」と自発的に口を開いた。


「橋本、いるじゃないですか」

「あのバンドマンです、みたいなやつ?」

「し、死んでました。化け物に、やられて……煙草吸いに行くって言ったら……いなくなって」


 福爲はショックを受けているようだ。関係性は薄そうに感じていたが、死にショックを受けるタイプらしい。


「自責の塊みたいな顔してんじゃん」

「自責の、塊?」

「自分のせいですみたいな。煙草吸う奴に、しかもこんな、普段ないシチュエーションで吸うなは無理だよ。まぁ、災害救助とかの現場でさ、救急隊員も後から、もっとうまくやってればこうしてればって考えるってあったけど、大学生には無理ある」


 私は辺りを警戒しながら、福爲の落し物がないか確認し、立ち上がった。


「まぁ、あれは自分じゃどうしようもないなぁって分かるまで、時間はかかるでしょうけどな」


 私はしゃがむ福爲に手を貸す。福爲はその手を取らずに自分で立ち上がった。


「荒破さんいたら、なんとかなった気もしますけどね……自分なんかじゃなくて」

「そうしたら、西ヶ住希乃ちゃんは、誰にも見つからず死んでた可能性もあるからね。あの子出てきたとき、めちゃくちゃ怖かったから。ぺたって太もも触ってきたの。完全にホラーちびっこの出方だった」   

 そう言うと、福爲は少し複雑そうな顔をした。どう返していいか分からないのだろう。


「じゃあ、一緒に行くか」


 私は福爲に声をかけた。予想通り返事は「え」だった。


「いや、公務員の同行者でもいればその人と一緒に仲良く下山して……っていうか、屋敷から離れてって言ってるところなんだけど。今いないから。私は漫画家探したいし。一人で行けって言っても、ねぇ、迫りくる髪の毛に無抵抗で、降ってくるし。私と一緒に行くほうがマシな気がして」


 一応提案してみるが、どう出るか分からない。答えが出るまで待っていれば、福爲は「じゃあ、行きます」と、流されてるんだか迷った末なのかよく分からない返答をした。


 よく分からない返答だが、私は福爲を伴い村の中央を目指した。中に漫画家が隠れている可能性もあるので、一応、目についた民家は探索しながらだ。


 玄関の泥の調子やガラスの散乱状況を考慮しつつ、土足で室内に入っていくと、福爲は「あの」と声をかけてくる。


「なに」

「荒破さんも……やっぱり気にされてるんですか? 祟りとか」


 なんだか福爲が妙に嬉しそうに聞いてくる。ヲタクがヲタクを見つけたみたいな顔だ。


「なんで?」

「さっきから荒破さん、金属バットとか持ってるわりに、壊さないように気を付けてるなって。引き出し漁ってもちゃんと戻すし」


 なるほど、どうやら私を祟り怖がり仲間だと認識していたらしい。


 申し訳ないけど違う。祟りなんか怖くない。


「あんまりこう、人の家のものに触るの抵抗あるっていうかさ、いわくつきで……あってもこの土地を持ってる人がいて屋敷を建てて手入れしてた人間がいるわけじゃん。だから……勝手に漁ってるけどさ、荒らしたりはしたくないなって」


 私は辺りを見渡す。民家の内装は、私が村に入り下肢のない男と遭遇した家と同じく、硝子の類がすべて割られ、鏡が砕かれていた。大嵐にあったとしか思えない惨状だ。



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