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【完結済】此彼村で漫画家を探しています  作者: 稲井田そう
【第八章】此彼村・屋敷外周
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作家のメモ

 両親のセンスは無駄を排し洗練されたものである。二桁もいかない年齢の子供が好む色やデザインを、両親は嫌った。人の才能は子供の頃の環境で決まるという持論で娘の世界の色彩、彩度、明度、すべてを管理できたが、娘との時間は管理できなかった。一緒に遊ぶことも食事をすることも、両親の仕事量が許さない。


 平野マナと両親は一緒に住んでいたが、平野マナと居たのは五十インチのテレビが映す映像だ。だから、平野マナは映像制作の道を志した。


 両親の反応はあっさりしていた。「いいんじゃない」その一言だけ。デザインの道ではないゆえに、なにか言われるかと思ったが、「デザインで食べていくのは大変だからね」と続けた。


 父、母、どちらの言葉か覚えていない。他人の家庭は父と母で最終決定権が違うような話を聞いたことはあるが、平野マナの家はそうではなかった。なにかあれば自分で責任を持つこと。平野マナは何をするにでも自由だった。両親は「マナの好きにしなさい。その代わり失敗しても文句言えないよ。それがいやだったらやめなさい」それだけ。だからマナは、きちんと責任感を持って挑戦した。自分の責任は自分で取る。


 人が誰かと関わるにあたって当然にもつ責任感から、一人だけ逃れている。


 それが平野マナから見た福爲である。その印象はこの村に入って急速に強まっている。


「ねぇ、ユリ先輩に何したの? 本当はなにかしたんじゃないの?」

「いや、分かんないですよ」


 何もしていないのに疑われたなら、もっと反論するはず。そんなことないと言うはず。しかし福爲は感情を見せず、まるで平野マナの言葉が届いてないことを示すように平坦な調子で返す。


「あっそう」


 途方もなく疲れた。対話なしに理解などし合えないのに。対話を放棄している人間と協力なんて出来ない。平野マナは荒破がどこかにいないか室内を確認しながら、荷物を置いている部屋を目指す。福爲は自主的に部屋を探すことなく、平野マナの後について、適当に見て回るだけだ。


 自分はそんな風に雑な仕事はしない。


 何も見落とさない。


 使命感にかられながら探索する平野マナは、棚の隙間に隠れた四つ折りのメモを発見した。


 自分はちゃんとこういうことに気付ける。


 平野マナはすぐにメモを確認した。


≪このメモを見つけた方へ≫

 よくホラーゲームで人間が危険な場所でメモを書き残すと思います。断片的にあって、探していくとなにかのヒントになるものです。これはそれと同じです。私はこの村の本を出したものです。タイトルは書きません。なぜならその本のせいで多くの読者がこの村に来て、おそらく儀式の犠牲になったからです。私は書き手の責任として村に向かうことにしました。読者を犠牲にした責任を取ります。私でなんとかできなかった場合のことを考え、あらかじめ、こうして執筆し、各所に残します。何かあった時の為に。


 拡げてみると、論文の一ページをプリントアウトしたような紙だった。


 本──、平野マナには覚えがあった。いわくつきの地を特集し、サークルがこの村にやってくる原因となった本だ。きっとその本の著者だろう。


「なんですかそれ」


 福爲がのんびりした調子で聞いてくる。


「この村について書いてあった本の著者だよ。多分。この人、ここに来てたんだ」


 平野マナは部屋から出た。福爲は「いいんですか?」と突っかかってくる。


「何が」

「さ、探さなくていいんですか」

「探したし。っていうか各所に残すってあったから。なんでそんなこと聞いてくんの?」


 平野マナは、はねつけるように返す。福爲は黙る。そんな風になるのなら最初から言わなければいいのに。平野マナはため息を吐いてから次の部屋に向かう。


 そこには同じような場所にメモがあった。


≪このメモを見つけた方へ≫


 儀式はこの屋敷では行われません。山の頂上にある本物の三戸家で行われます。この家には男しかいないので、女は山の頂上にある三戸家に運ばれるのでしょう。ただ、みしゃわ様の器として相応しくない人間は、輪になるしかありません。この屋敷に入って、向かって右側の塀は作りが甘いです。穴があいている。そこからロープなどを使えば、山道に出れます。まずはそこから脱出するのがいいと思います。ただ、崖みたいになっているので気を付けてください。クッションがあれば別ですが。 


 平野マナはメモを読み、次の部屋に向かおうとする、しかし、もう荷物を置いている部屋に来てしまった。平野マナは急いで堀井ユリと自分の鞄を手に取り、部屋を出る。福爲を見るとぼんやり立っていた。


「荷物は?」

「いや、え、あ」

「早く取りに行ってよ」


 平野マナが注意すると、福爲はそそくさと男子が荷物を置いている部屋に向かった。苛立ちがピークに達した平野マナは、作家のメモを鞄に入れた。



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