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【完結済】此彼村で漫画家を探しています  作者: 稲井田そう
【第七章】此彼村・山道
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本棚と形跡

 二人で本棚をずらした。


「念のため、病原菌とかの問題があるので、触れないように。地図に印をつけるので、あとは、行政でやりますからね」


 山田さんが念押しして、遺骨に手を合わせた。


「はい」


 私は同じように手を合わせ、そばにあった帳面を手に取る。


「だから‼」


 山田さんが怒ってきた。


「遺骨はそうじゃないですか。本はギリギリ……それに、漫画家さんの手がかりになるかもしれないですし」


 私は帳面に目を通す。


 

 たすけて。


 まいにち、はさまれて、いたい。いたよ。しんじゃうよ。


 やめてよっていってもやめてくれない。


 なんでぼくなの。


 なんでみんなぼくをいじめるの。


 みしゃわさまはおかしい。


 みしゃわさまはたすけてくれない。


 みんなおやまのうえでおいのりしてる。


 ぼくいっしょにいってもらうひといない。


 かがみはわらなきゃだめっていわれた。


 まどもぜんぶわられた。


 さむいよ。


 みにくいおまえがいきてるだけでみしゃわさまはおこるっていわれた。


 だからふせてろっていわれた。


 かおがらすささっていたい。


 ぜんぶいたい。


 

 みしゃわさまはきれいでわかいおんなのこがすき。


 おとこはよりしろになれないからすきじゃないらしい。


 そのかわりわになってみしゃわをつくるんだっていわれた。


 みしゃわさまをたたえるわ。


 でもぼくはみにくいからだめっていわれた。


 ぼくいたいのはいやだからわはいやっていったらなぐられた。


 みんないじめないで。


 みんないや。 


 おなかいたい。


 あしいたい。


 もうないのに。


 したじき。


 たすけて。


「これって……」


 一緒に帳面を読んでいた山田さんが呟く。


「多分、この遺骨の男性の手記で……」


 そして、下肢のない男の可能性がある。根拠は……足痛い、もうない、という点だ。


「このみしゃわ様って……昔は法人登録出来るような宗教としてちゃんとしてる神様だったんですよね? なんでこんな、綺麗な女を依り代、醜いのは駄目みたいになってるんですか」


 美醜に囚われ続けた若い女みたいな発想だ。


「いや……みしゃわ様って、こちらが確認してる範囲だと、子供好きの神様で、子供が飢えて死なないようにっていう、豊穣の神様なんですよ。座敷童的というか。なんでこんな……多分、時代的には、五十年前の事件の頃のものだと思うんですけど」

「座敷童? みしゃわ様が? このあたりの町の人、みしゃわ様のこと聞いたら豊穣のって言ってましたし、よそ者が荒してからこの村はおかしくなったって──」

「それは分からないですけど、何もなかった土地を、みしゃわ様が復興させたって話なんですよ。法人的な範囲で言えば」

「それって……あの、祠の? 賽銭箱がある、斜面みたいなところにある」

「そうです‼ そこです。そこに、いつも座ってるて言い伝えで」

「座ってる」


 私は祠の看板にあった文言を思い出す。


 

 三沙輪様はこの此彼村に古くから伝わる神様です。


 木枯れ、かつては何もなかったこの土地は、三沙輪様の降臨により変わりました。


 川を引き、命を育み、生命の故郷に変えてくださった三沙輪様。


 此彼村にとって、三沙輪様はかけがえのない大切な神様です。


 三沙輪様は自然を愛し、この土地が豊かになり、子供が笑って生きられることを望みます。


 幸せであれ。


 幸せであれ。


 三沙輪様は豊穣の神様ですが、あなたの幸せを祈ります。


 同時に、言い伝えが三つ。


「あの、みしゃわ様って鏡、嫌いですよね? あと、煙草吸う女を嫌がったりとか、夜で歩く女もやだみたいな、男に触らせる女もアウトで、あとみしゃわ様を馬鹿にするなとか……」


 だから、下肢のない男と鉈の男に挟みうちされる前の民家の窓や鏡は、全部わられていたのではないか。しかし山田さんは怪訝な顔をした。


「なんですかそれ。みしゃわ様は豊穣の神様ですよ。小さい子供が飢えたりしないようにって……窓や鏡なんか、関係ないです。女の人にどうこうじゃなく、みしゃわ様は、多分普通の神様なので、いい行いをする人が好きなんじゃないですかね……?」


 それなら。


 鏡を嫌い、女に対して執着を持ち、村が信仰している『みしゃわ様』は、一体、何?

 ガタンッ

 山田さんと顔を見合わせていると、小屋の傍で物音が響いた。


 老婆だ。老婆は小屋の傍の草むらをゆっくりと歩きながら、無言であたりを見渡している。誰か……何かを探している?

 私は無言で山田さんを見て小さく首を横に振った。あの老婆は危険だ。老婆に見つからないよう、そっと壁に沿う。扉は開けたままだっただろうか。視線を向ければ閉じていた。山田さんが入ってくるとき閉めてくれたらしい。扉はすりガラスで反射しない素材なので、割られていない。


「ハァ……ウゥゥ……アアァ」


 くぐもった呼吸をしながら、老婆は小屋のまわりをうろついている。


 山田さんはおびえた様子で身を縮めている。


 私は金属バットを握りしめた。この老婆は五十年前に殺された三戸志斐の怨霊か、それとも五十年前に死んだ三戸志斐を名乗るなにかの容疑者かどちらだろう。霊感がないので分からない。


 無抵抗の老婆を金属バットで暴行した場合、心神喪失でもない限り暴行罪は適用されるだろう。場合によっては過失致死、相手が刃物を持っていた場合でも、正当防衛の判例を考えると中々厳しい。猟銃を持ちこちらに発砲した場合は違うが、老婆は何も手にしていない。



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