キスマーク ムカデ ハンバーグ マヨコーン
俺の名前はハンペン。殺し屋だ。ちなみに妻のペンペンも殺し屋だ。あ、もちろんコードネームだぞ。本名を教えるつもりはないからな。
そんな俺たちは今、回転寿司に来ている。仕事じゃなく、ただ夫婦で寿司を食べに来ただけだ。
俺は回転寿司に来るとハンバーグとマヨコーンしか食べない。この2つが最強だからだ。最強以外を食べる意味、ないだろ?
「あなた、何考え込んでるのよ。茶碗蒸し来たわよ」
そう、茶碗蒸しも食べる。さっきのは寿司の話だ。
「ああ、ありがとう。スプーン取って」
「あなたの方よ」
「あ、ほんとだ」
スプーンは寿司が回っているレーンの屋上に置いてあるのだが、若干俺の方が近かったみたいだ。
「はいどうぞ」
「ありがとう、あなた」
殺し屋夫婦だけど、フツーにラブラブだぞ。夫婦喧嘩が殺し合いとか、店内でバトルとか、そんな展開はないからな。そもそも夫婦喧嘩なんてしたことないしな。
「あなた、あんかけなのね」
「そうだよ、あんかけの方が絶対美味いからな。同じ値段だし。あんかけ以外食べる理由がないよ」
「あら、普通のも美味しいわよ?」
「いやあんかけだね」
「普通のよ」
「あんかけだね」
「普通のよ!」
「あんかけ!」
「普通の!」
「わからず屋!」
「バカ男!」
「クソブスキモキモゲボ女!」
「ハゲハゲ口くさ下痢貧乏オヤジ!」
「⋯⋯怒った顔も可愛いな」
「あなたこそ、カッコイイ⋯⋯」
喧嘩になると思ったか?
俺も思った。危なかった。危機一髪だった。ヤバかったぁ。
マヨコーンうめーなぁ。
「あらあなた、その首の痣なに?」
首に痣なんてあったか?
「どこ?」
「左側のそこよ」
手鏡を出して見てみると、何かで吸われたような痕があった。いつの間にこんなの⋯⋯
あ。そうだ。昨日ターゲットの家でガキに見つかって仕方なく遊んでやった時に変な吸盤つけられたんだった。こんな痣になってたのか。
「よく見たらキスマークじゃないの! どういうことよ! 私一筋じゃなかったの!?」
え!?
「もういい。『ムカデの刑』よ」
「ムカデの刑ってなに!?」
「2度とあそこを使えなくしてやるのよ!」
次の瞬間、俺の下半身は吹き飛んでいた。机の下からバズーカでやられたのだ。後ろの席も、その後ろの席にも俺と同じ被害が及んでいた。
「な、なにするんだ! これはキスマークじゃ⋯⋯」
「次行くわよ!」
妻は俺の言葉など聞く気もないようで、俺の後ろの客の方へ向かっていった。
スパーン
スパーン
何かを切るような音が聞こえたと思ったら、レーンに生首が回ってきた。もしや、後ろの客たちの首をはねてるのか!?
こんなことしたら絶対捕まっちまう! 俺は動けないし、どうすれば⋯⋯!
「ただいま」
妻が何かを担いで戻ってきた。⋯⋯腕が2本ある。
「下半身なくなって可哀想だから、くっつけてあげるね」
「何する気だ! やめーろ!」
「やめーろ?」
「やめろー!」
「やめないわよ! ホラァ!」
チク
チクチクチクチク
「うぎゃあああああああ亜阿合有明阿合阿合阿合阿合阿合阿!!!!!!」
妻が持ってきたのは腕のついた人間の胸部だった。それを今、俺の体に縫い付けている。
「よし、これで手が4本ね。あと48⋯⋯」
「48だと!? そんなことしたら、手が100本になっちまうぞ!」
「なればいいじゃないの!」
妻が次の遺体を運んできた。胸がある。今度は女性のようだ。
「はーいちょっとチクッとしますね〜」
プスッ
針の音はするものの、感覚も痛みもない。それもそうか、今刺されてるのはさっき人の胸なんだもんな。
でもちょっと待てよ? 俺腹から下なくなってるけど痛くないぞ? これ大丈夫なのか? ⋯⋯なわけないよな。痛すぎておかしくなってるんだろうな。
「次行くわよ! あと47!」
それから俺は暇すぎて眠ってしまった。
「よし! ムカデ完成!」
妻の声で目を覚ますと、俺はムカデになっていた。龍のようでもあった。体が信じられないほど重い。腕力だけで移動しなければならないのに、ビクともしない。500kgは軽く超えてそうな気がする。
「ムカデなあなたもカッコイイわね」
「ありがとう。でも、君の美しさには敵わないよ」
「まぁ、あなたったら!」
喧嘩になると思ったか?
俺も思った。危なかった。危機一髪だった。ヤバかったぁ。
マヨコーンうめーなぁ。
「それにしても、ムカデって百足って書くよな」
「あら、そうなの?」
「これじゃ百足じゃなくて、百手だね、はは」
「⋯⋯⋯⋯」
あれ、笑わない。
「ミスった⋯⋯」
この世の終わりのような顔をする妻。
「よし、予定変更だ!」
何かを思いついた妻が、また人を殺して回った。いやお前ら、さっきの段階で帰れよな。普通に寿司食ってんじゃねーよ。店員も寿司握るなよ。
妻はさっきのムカデの材料をたくさん持ってきた。俺を長ムカデにする気か?
「あと450人分くっつければ千手観音になれるわね!」
「えぇ〜っ!? あんまりだぁー!」
こうして俺は数時間に及ぶ手術の末、千手観音となった。見た目はさっきの10倍長いムカデだけど。ていうか千手観音って足あるよな? でもまた余計なことを言うともっと長くされそうだから黙っておくことにした。




