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婚約破棄



「アリサ、いたずらに時間がすぎてゆくだけだ。もうそろそろ潮時だと思う。婚約を破棄する。今後はおたがいに縛られることなく、ぼくはぼくの、きみはきみの、それぞれの伴侶と人生を歩めばいい」


 わかっていた。婚約を破棄されることを。

 だから、婚約破棄を告げられても、「ああ、ついに」というくらいで衝撃を受けたほどではない。


 それに、彼がわたしを愛していないのとおなじように、わたしも彼を愛していない。


 彼とわたしは、幼馴染。だから、当たり前のように親どうしがそう取り決めただけのこと。


 たったそれだけのこと。


 それだけのこと。


「来週、王宮で行われる舞踏会でこのことをおおやけにするつもりだ。だから、きみも出席してくれ。いつもみたいに図書館にこもっているんじゃなくってね。そのとき、きみに紹介するよ。ぼくの新しい伴侶をね。ソフィア・ティーカネンだよ。その場で婚約発表もするつもりだ。当日は、ぼくの両親も彼女の両親も出席するからね。楽しみでならない。というわけで、アリサ。きみは脇役なんだ。脇役がしっかりと脇をかためてこそ、主役がひきたつ。だから、ぜったいに来てくれよ。じゃあ」


 彼は、一方的に告げるとさっさと去ってしまった。


 いつものように顔を横に向けたまま、それをわたしの方に向けようともせずに。


 この日、わたしが司書を務める王宮内にある図書館で、婚約を破棄された。




 ふっきらなければ。


 もうすぐ王太子殿下がお見えになる。


 今回は、西方地域にあるアイヤラ帝国とその近隣諸国の文化と宗教の本をご所望されている。


 本じたいは、書庫に準備が出来ている。


 あとは、わたし自身をどうにかしなくては。


 休憩室で愛用の鏡を使い、左半面を髪で丹念に隠し直す。


 それから、もう一度鏡でチェックしなおした。


 大丈夫よね?これなら殿下にご不快な思いをさせずにすむわよね。


 いつも緊張してしまう。


 王太子殿下にこの醜い顔を見せてしまっては、と不安でたまらない。本来なら、他の司書に役目を譲らなければならないのに、なぜか殿下はわたししかいないときに約束をされる。


 王太子殿下に出会ってから、もう何年になるかしら?

 わたしが司書になる前からだから、十年以上?


 かわいらしい王子は、いまでは立派で美しい王太子に成長された。


 一方、わたしは年齢を重ねている分背は伸びはしたけれど、あいかわらずおとなしくって消極的で根暗な本の虫。しかも、左半面には醜い火傷の跡がある。


 それは、ガブリエルに婚約を破棄された理由の一つ。いえ、それを理由にすることで、彼はわたしが納得するだろうと勘違いしている。


 鏡の中の醜く暗い表情の顔を見ながら、ついさきほどの婚約破棄の一幕に思いいたってしまう。


「もういいじゃない。すっきりしたわ」


 口にだして言ってみた。

 それが本音であるかのように。


 ガブリエルとの関係が白紙になったことで、肩の荷がおりたことはたしかなこと。だけど、後見人の叔父様と叔母様は面白くないでしょうね。


 嫌味を言われるのならまだいいけど、屋敷を放り出されるかしら?


 婚約破棄されたことより、そちらの方が憂鬱だわ。


 あ、いけない。


 休憩室の窓の向こうに、王太子殿下が王族付きの親衛隊の兵士をしたがえてこちらにやってくるのが見えた。


 出迎えるため、慌てて休憩室を出た。



「アリサ」


 王太子殿下は、いつものように両開きの扉を豪快に開けて入ってきた。


 王族付きの親衛隊の兵士たちは、図書館の外で控えている。


 王太子殿下が中に入らないようお願いしているからである。


 この王宮内の図書館は、国民にも開放されている王宮内の唯一の施設である。ここには貴重な文献や資料が山ほどある。それを上流階級というかぎられた人々しか利用できないということは、この国の文化発展の妨げになる、と王太子殿下が国王に直訴くださったのである。


 国王は許して下さった。たしかにその通りである、とおっしゃって。


「読書をする王族や貴族など、一人をのぞいて見たことがない。それならば、一人でも多くの国民に活用してもらったほうがいい。この国の文化にとっても、本自身にとってもな」


 国王陛下は、そうおっしゃったらしい。


 陛下のおっしゃった『一人をのぞいて』の一人が、王太子殿下であることは言うまでもない。


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