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0009 妹VS幼馴染み

「ごめん、ちょっと行ってくるね」

 

 チャイムを聞いた私は逃げるように玄関へ向かった。


 陽菜から逃げたのではない。自分と向き合うことから逃げたのだ。


 逃げなければ、なにかが壊れてしまう気がした。

 

 玄関扉を開ける。そこにいたのは案の定つーちゃんだった。


「おはようみーちゃん。ずっと会いたかったよ。この日を待ち望んでた。一五時間ぶりだね」


「十五年ぶりレベルのノリだね」

 

 溢れんばかりの好意をおかしなノリで伝えてくるつーちゃん。

 もちろんばっちり制服を着て、つやつやの髪には寝癖ひとつない。


 一方の私は、パジャマ姿に、ボサボサの頭。

 陽菜と色々やってたせいで結局準備が間に合わなかった。

 

 いや、色々やってたって言うとなんだか含みがあるように感じるな。

 

 私はただ、陽菜を抱きしめようとしただけだ。いつもと同じように。

 

 って、そんなこと振り返ってる余裕はない。急がないと遅刻だ。


「ごめん、見ての通りまだ準備できてなくて」


「いいんだよ。みーちゃんのためならいつまでも待つから。二年でも三年でも」

 

 それは遅刻どころの騒ぎじゃ済まない。


「すぐ準備するから上がって待ってて」


「ありがとう。おじゃまします」

 

 うちに上がったつーちゃんは私の隣に並ぶ。

 なにをするのかと思えば手を伸ばし、腕を組んできた。


「あ、あの、つーちゃん?」


「ふふふ、朝からこんな風に過ごせるなんて幸せだなあ」


「でもこれじゃあ着替えもできないし……」


「大丈夫、わたしが全部やってあげる」


「未就学児じゃないんだから」

 

 若干おかしな方向の圧の強さに困惑していると、どこからか「ガルルル」と猛獣の鳴き声が聞こえてきた。


 朝の情報番組で動物特集でもやってるのかな? 


 でも、それにしては声が生々しいし、そもそもさっきまでテレビはつけてなかったような……。

 

 鳴き声のした方に目をやる。途端、私は震え上がった。

 

 陽菜がリビングから顔を覗かせ、それはそれは恐ろしい鬼のような形相で睨んでいたのだ。


 どうやら一連のやりとりを目の当たりにしたらしい。そして「ガルルル」と発する。


 ええ⁉ 猛獣じゃなくて陽菜の鳴き声⁉

 

 つーちゃんに対し敵意をむき出しだ。そんな陽菜はこちらに詰め寄ってくる。


「あっ、おはよう陽菜ちゃん」

 

 対照的に余裕綽々なのはつーちゃん。

 しかし陽菜が逆の方の腕を組むと、少し表情を変えた。


「なにしてるのかなあ?」


「うっさい、この泥棒猫」

 

 おお、泥棒猫ときましたか。


 つーちゃんが登校前に迎えにくるのは毎日のことだけど、いつもと違うべったりした態度に陽菜も察したみたいだ。自分以外に告白した二人のうち、ひとりはこいつだ、と。


「お姉はあたしのものなんだから。あんたなんかに渡さない」


「やだなあ。ねえみーちゃん、もしかしてあのこと話した?」


「う、うん。まあ、話した、かな?」


「もう、おしゃべり」

 

 つーちゃんは言いながら、私のほっぺたをツンツン。そしてその手を陽菜が払った。


「あたしのお姉に触らないで」


「陽菜ちゃん嫉妬してるの? やだかわいい」

 

 そう思ってた時期が私にもありました。


「うん、嫉妬してる。だってお姉はあたしの彼女にしたいもん。だから泥棒猫は離れて」


「……へえ」

 

 どうやらつーちゃんも少し事情が違うことを察したみたいだ。

 目の色が変わる。これは臨戦態勢だ。


「泥棒猫とか言ってるけど、どっちがそうかな? みーちゃんとの付き合いはわたしの方が長いんだよ」


「ふん、あたしはずっと一つ屋根の下で共に過ごしてきたもん。密度が違う」


「そ、れ、は、家族だからね」

 

 私を挟んで幼馴染みと妹がバチバチ言い争ってる。

 今日一日が平和に終わらないことは覚悟していたけど、それにしても朝から波乱すぎる。


「あのー早くしないと本当に遅刻するんですけど」


ご覧頂きありがとうございます。

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