0080 with 麗華
玄関を出て、いつものように右と左に別れた。
「バイバイ」と手を振りながら、夜にはまたこの家で会えるのに、別れを惜しむ。
そのとき、スマホからピコンと音が鳴った。ラウィンが入ったのだ。陽菜が角を曲がってから確認してみる。
送り主を見て体が硬直した。剣さんだ。
『おはようございます』
本文は何気ない朝の挨拶。だが雨の中泣かせてしまった昨日のことが頭をよぎって、少し怖くなった。
どんな言葉を返そうか、無難に挨拶を交わしていいものかと逡巡していると、こちらの返信を待たずして、続けてメッセージが入る。
『わたくし、今日から早朝トレーニングを強化しましたわ』
早朝トレーニングなんてしてたんだ。しかも昨日の今日で強化したって?
驚きと感心が芽生えると同時に、怖さが方向性を変える。
腹の底から燃え上がるように湧き出たこれは、ライバルへの畏怖だ。
『おあいにくさま。けちょんけちょんにされるのはご自身ではなくて?』
「はははっ」
きっついなあ。笑うしかないよこんなの。
昨日の挑発を持ち出し、やり返された。人を見下したような煽りに、お嬢様口調がいらつきを加速させる。彼女と接すると心中穏やかではいられない。
――それでこそ、白百合の剣麗華だ。
私はすぐさま返信した。文章は推敲する必要もなく勝手に指が躍る。
闘志をむき出しにし、海帝山の穴吹水琴として、売られた喧嘩を買う。
『トレーニング頑張れ。そしてもっと強くなってよ。その方が叩き潰しがいがあるから』
送信。朝からなんてやりとりしてるんだろ、私達。
でも、これが私と剣さんだ。いつだって挑発し合って燃え上がれる。
なれ合いや安らぎなんか皆無の素敵な関係は、きっとこれからも長く続くだろう。それも紆余曲折あって、より強固になった気がした。
スマホをしまって前を向く。今日は雲ひとつ無い晴天だ。
いい日になりそう。……なんて期待するのは甘いかな?
剣さんとは違って、次は一筋縄ではいかなそうだもんなあ。
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