0078 リトルシスターシンデレラ(4)
「お姉!」
くるりと振り向いた陽菜が飛び込んできた。今度は私が不意をつかれたわけだ。
驚きながらもよろめくことなく抱きかかえ、胸の中で涙を流す陽菜に言った。
「返事が遅くなってごめんね」
「ううん、そんなことない」
顔を上げた陽菜は、にへらと笑う。
「あたしもお姉のこと大好き」
「ありがとう」
「えへへ、これであたしはお姉の彼女だ」
そう、陽菜は私の彼女だし、私は陽菜の彼女。二人合せて恋人同士。ついに念願叶い、想いが形になった。
目を潤ませたその子は、最愛の妹であり、最愛の恋人。つまりはいつもの二倍愛おしい。
抱きしめているだけで幸せな気持ちになる。この時間が永久に続けばいいのにと願う。金色の髪が顔に当たったくすぐったさすらも、もっと噛み締めていたい。
これにて一件落着、二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。ちゃんちゃん。
と言いたいところだけど――。実は一つだけ懸念がある。
姉妹関係、壊れてないよね?
というのも、今の陽菜はツンを取り払ってデレに全振りしている。胸の中で表情を緩ませてスリスリと頬ずりし、「お姉しゅき~」と甘えた声を出している。
嬉しいし可愛いんだけど、私の中ではツンツンした反抗的な陽菜こそ妹の象徴みたいなところがあって。
非常に贅沢で恐縮だけど、なんというか、物足りない。
「まだ閉園まで時間あるね」
しかしなにかを決めつけるには早計すぎる。
とりあえず、恋人になって初めてのデートをするとしよう。
「ジェットコースター乗ろうか」
「うん! ちょうど乗りたいと思ってた!」
「ビックサンダーなんとかってやつ?」
「そうそう! お姉とラブラブしながら乗りたいなあ……♡」
「おお……」
脳を蕩けさせる言葉に気を取られ、ここで私は思わぬことを口走る。
「SNSに書いてたもんね」
「うん! ……え?」
「え? ……あっ!」
致命的なうっかりミスだ。こっそり仕入れた情報源を堂々とバラしてしまった。やばい!
「……見たの?」
最愛の子が怖い。顔の赤色はそのままに、表情はこわばって私を睨む。
「な、な、なにも見てないよ! 見てないったら見てない!」
とりあえず誤魔化してみた。目を逸らして、しどろもどろになっちゃったから効果は薄いと思うけど。
「絶対見たでしょ! 青髪金りんご!」
「なにその名前⁈ そっちは本当に知らないよ!」
「そっちは本当に〜?」
「あっ!」
どうやら私は嘘をつくのが下手なようだ。
「やっぱり見たんでしょ! 金髪青りんご!」
「ずるい! カマをかけたんだね! いつからそんな悪い子に!」
「コソコソ人のSNSを覗いてるお姉に言われたくない!」
ド正論だ。私は押し負けて何も言えなくなり、
「……すいませんでした」
「ほんと信じられない!」
「ほんとすいません。好奇心を抑えられずつい」
平身低頭で謝る。すると真っ赤になって怒っていた顔が、なぜか青白くなった。血の気が引いて震えているようにも見える。そんな陽菜は「じゃあもしかして」と切り出したかと思えば、
「一緒にお風呂に入って裸でイチャイチャしたい、ってやつも……」
「え? なにそれ?」
私が見たのは人生ゲームをした三週間前以降の投稿。それ以上過去を遡ってはいない。
てことは、三週間より前にそんな投稿していたということか……ほほう。
陽菜は墓穴を掘ったことに気付いたのか口を抑えて目を逸らした。
これはいい仕返しの材料だ。
「陽菜〜ほんと私のこと大好きだね〜」
そう言って煽ると、陽菜の顔はまた真っ赤になった。
「うっさいバカお姉! 大っ嫌い!」
「私は陽菜のこと大好きだよ」
「あ〜もう! うっさい!」
「そんなこと言わないでよ。ほら、早くしないと閉園しちゃうよ」
ようやくいつもの調子が出てきたところで、ジェットコースター乗り場に連れて行こうと手を取った。すると陽菜は繋いだ手をジッと眺めて、不満を表情に浮かべる。
「どうしたの?」
「こうでしょ、バカお姉」
指摘を受け、陽菜の指が動き出す。私の指を一本一本絡めるようにして、これは恋人の手の繋ぎ方だ。
「いいね、すごくいい」
バカと呼ばれ、恋人繋ぎ。
私と陽菜、もとい姉と妹の恋愛関係として、最高の形がそこにあった。
明日は投稿休みます。
あと、残り3話です。




