0077 リトルシスターシンデレラ(3)
平日、閉園間際、そしてさっきまでの雨天。
三拍子揃った今の園内は、驚くほど空いていた。
人通りはかなり少なくて歩きやすく、アトラクションの入り口で待ち時間を示している看板も、五分や十分といった珍しい表記が並ぶ。
入場の際に受け取った園内マップを開きながら、目当てのお城がある場所へ。
沢山の光の中を歩いて。そろそろかなと予感させ。
やがて、周りとは一風変わった光が視界に飛び込んできた。
遠くから小さく見えただけでも、わかる。
「わあ~」
陽菜から感嘆の声が漏れた。
自然と小走りになり近づくと、悠然とした迫力により、次第に声すら出なくなる。
圧巻の一言だ。
ライトアップされたシンデレラ城は全体をダイアモンドでコーティングしたような真っ白の輝きを放っていた。全てが煌びやかな園内でもその存在感は群を抜いており、陽菜は目を奪われ、釘付けになる。
人が少ないのはこの場所も同じく。所々に残った水溜まりがお城を映す鏡になっており、まるで地面に星屑を零したような幻想的な雰囲気が広がる。
機は熟した。私はお城を見上げる陽菜の背後にこっそり回り、そっと抱きしめた。
「お、お姉⁉」
不意を突いたからか慌て気味だ。
「ダメ?」
「ダメじゃないけど……恥ずかしいから……」
「誰も見てないよ。それに私が陽菜とこうしてたいんだ」
耳元に唇を寄せ、囁くように語りかける。
すると、抱きしめたその体が熱くなった。
「もう、バカ、バカお姉。最近家でしてくれなかったくせに、こんな所に限って」
「ははは、ごめん」
こんな所だからこそ、いつもより抱きしめる力が強くなる。妹への愛情だけじゃなく、別の愛おしさも感じているからだ。
「今日部活サボっちゃった」
「なにやってんの」
「つーちゃんと剣さんに断りを入れてきたんだ」
「へ」
陽菜の肩がぴくりと跳ね、そのまま固まった。
「告白のね。申し訳なかったし、つらかったし、勇気がいった。でもそうしないと胸を張って好きな子と一緒になれないから」
その好きな子は、顔を耳まで真っ赤にさせていた。
抱き寄せたまま頭を撫でるが、今度は不思議と熱を感じない。
どうしてだろう……? あ、なるほど、おそらく私も同じくらいの熱を持ったからだ。
陽菜が火照る。私も火照る。互いに火照って、合わさって一つになっている。
だから特段なにかを感じたりしないんだ。二人で一つ、いい響き。
「私、これから今日一番の、いや、人生一番の勇気を出すね」
ここまでくるのに一筋縄ではいかなかった。
大切な姉妹関係が壊れることを危惧した。だから関係の維持を目標とし、陽菜の想いに寄り添わず時間的解決を目論んで、踏み込むことをしなかった。
でも、守り一辺倒のそれはなにも意味をなさなかった。それどころか風化してひび割れて、むしろ破壊を加速させてしまうと聞いた。そんなの絶対嫌だ。私はこの子にとってたった一人の姉。いつまでもそうありたい。
そしてそれだけじゃ満足できないのもまた事実。私はずっと自分の気持ちに蓋をして、寝かせたままにしていたのだ。
この子にとって、もっとかけがえのない存在でありたい。
姉妹関係だけじゃなく、甘美かつ刺激的な新しい関係性を加えたい。
体の熱が、眠れる想いに点火する。
華々しい大輪を咲かせるべく、蓋を破って打ちあがる。
「陽菜、」
色んな言葉が思い浮かんだ。伝えたい言葉がたくさんあった。
でも、頭の中がごちゃごちゃになって、わけがわからなくなって、一度整理する。
すると、ものすごく単純な言葉に収まった。いいかなあこれで――。
いや、これがいい。
「好きです。お姉ちゃんと付き合って下さい」
オシャレでもない。カッコよくもない。可愛くもない。面白くもない。
けど、姉として捧げる恋愛感情を真っすぐに表したこの言葉が、一番いい。
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