0073 エンドレスレース(4)
誰もいなくなった校舎裏へ足を踏み入れ、次は私達の番だ。私が校舎を背にし、剣さんは塀を背にする。言葉を交わさなくても自然と向き合った。
さあ、ケリをつける。
「今日は時間をくれてありがとう。単刀直入に言うね、告白の返事にきた」
先手を打った私だが、剣さんに驚きはなかった。
「そうでしたか」
ただ、俯き気味で、微笑みが少しぎこちなくなっている。
早くも悲壮感漂う姿に伝えづらさを覚えたが、ここで躊躇していては終わりも始まりもない。
間もそこそこに次なる一手を打つ。というより、これで終いだ。
「待たせちゃってごめんね。で、肝心の結論だけど――」
「ちょっと待ってください」
と、そこで言葉を遮られた。剣さんは深呼吸をひとつ挟んで顎を上げる。
……⁉ 驚いた。
さっきまでの自信なさげな表情はどこに消えたのか、その目は真っすぐに私を見、強い光を宿していた。
「その前にわたくしの話を聞いて頂けませんか?」
突然の申し出、どんな話をされるのか想像もつかず、あっけに取られた。
だが断るのも失礼な話だ。元より突然の度合いで言えば、アポなし訪問した私の方が大きい。
「いいよ」
「ありがとうございます」
目の光には力強さが加わり、ビリビリと痺れるような威圧を感じた。
いったいどのような話を展開するのだろうか。
「私には夢がありますわ」
壮大な切り出しだ。
「まず高校バスケで一番の存在になりますわ。わたくしが誰よりも活躍して、この学校に日本一の看板をプレゼントしますの。卒業したら内部進学して、鳴り物入りで大学バスケの世界へ。穴吹さんと一緒に」
「……私?」
「はい。今みたいに敵味方別れるのでなく、同じ大学で共に一時代を築き上げたいですわ」
告げられたのは少し先の未来の展望だった。
同じ大学でバスケをやろうと。
ただの勧誘に過ぎないように聞こえるが、私には告白に近しいと感じた。
「大学卒業後は、海を渡ってプロになりたいですわ。ね、穴吹さん」
「……それも一緒なんだ」
「はい。力を合わせれば本場アメリカだって腰を抜かしますわ。二人で大暴れして名声も名誉も独占し、バスケ界の歴史に名を刻みますの。そして華々しく引退した後、わたくしは父の後を継いで剣コンツェルンを経営しますわ。穴吹さんはそのときも側にいてください。わたくしが社長で、穴吹さんが副社長。共に剣コンツェルンを世界一の企業に成長させましょう」
次に告げられたのは、もっと先の未来の展望だった。
日本だけに留まらず、世界まで見越した大舞台で、私は剣さんと共闘している。
展望はまだ続いた。
「老後は自由気ままに色んな国を旅しますの。最期まで穴吹さんと一緒に」
最期までときたか。
剣さんが語った未来の展望は、大きな野望と愛に満ちていた。
遠い先まで見通したそれには、常に私が隣にいて寄り添っている。
「穴吹さん、改めて告白させてください。あなたのことをお慕いしております。わたくしと共に未来を歩んでください」
溢れんばかりの光を放つ、希望に満ちた表情だった。私に向かって伸ばした手から、取ってくれという想いが伝わってくる。正直、言葉に困った。ケリをつけようと意気込んでいたのに、ここまでされるとさすがに躊躇する。
しかし……。
――私の気持ちは、どうやら声に出さずとも伝わっていたようで――
「……ふ、ふ、ふ、ふええん」
光は突如崩壊した。
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