表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/81

0070 エンドレスレース(1)

 心苦しい時間になることは覚悟していた。

 

 だが、まさかこれほど悲惨な結末を招くなんて想像もしていなかった。

 

 長きに渡って培われたものは崩壊し、それどころか遺恨を生む。

 

 大嫌い、と。面と向かって突き付けられた『言刃(ことば)』の通り、私はつーちゃんに憎まれた、恨まれた。好意は悪意へと変貌し、一切の容赦なくそれを叩きつけられた。

 

 いったい何がいけなかったんだ。どうすればよかったんだ。

 

 頭を抱えたくなる。つーちゃんとの友情は壊れたりしないと信じてたのに――。


『大切なものを大切にしている限りは簡単に壊れたりしない』

 

 ふと、監督から送られた助言が浮かんで反芻してみる。すると、腑に落ちた。


 想像もしていなかった――。

 信じてた――。

 それがダメだったんだ。


 悲惨な結末は、私の一方的で甘い考えが原因だ。

 とどのつまり、私は大切にできていなかった。


 現に、陽菜との姉妹関係は壊れないよう再三の注意を払ってきたけど、つーちゃんとの友情崩壊を危惧したことなんて、一度たりともなかった。


 親友に戻れるのは当然だと慢心を抱き、つーちゃんの望みを打ち砕いておきながら、自分の望みを押し付けた。


 私は自分勝手だ。振った後にいけしゃあしゃあと、『私達親友でしょ!』なんて言う奴があるか。そりゃ、つーちゃんも怒る。


 己の軽率さにほとほと呆れた。後悔に苛まれ、時間を巻き戻したいと実現不可能な願いを抱く。


 誰か私にタイムマシンを……。


 ――ダメだダメだ。


 平手で頬を打ち、気持ちを入れ替えた。後ろ向きな思考を振り払って無理矢理前を向く。

 

 だって見据えるべき先は、前にしかないから。

 

 後悔は尽きないけど、それに苛まれて止まっている時間なんてないんだ私には。

 

 過ぎ去った時に対してはなにもできない。だけどこれからやってくる時にだったら、いくらでもできることがある。

 

 スマホを取り出し、時刻を確認した。


 午後六時前。今から行けばまだ間に合うはずだ。

 

 行先は白百合女学園。今から剣さんと会って話がしたい。

 

 山の斜面を踏みしめて、東屋の方へ上りなおした。目指すは頂上。そして山の向こう側。海帝山から歩いて白百合に行くには、実はこの公園を山越えするのが一番の近道だったりする。


 何回か散歩して確かめたことがあるのだ。おそらく駅まで戻る方が時間がかかるから、今回はそのルートで行こうと決めた。

 

 地面はぬかるみ非常に歩きづらく、滑って転びそうになる。安全面を考慮するならばゆっくり行きたいところではあるが、そう悠長にしていられないのも現実だ。


 白百合は強豪だから、ある程度遅くまで練習しているだろうが、今日がたまたま早く切り上げられていたらどうする。あるいは休みだったら……。

 

 不安を抱えながら山を越え、あとはひたすらアスファルトの道だ。


 力の限り走る、とにかく走る。傘を差していても、雨は風に乗って横から容赦なく攻めてきた。六月のぬるい雨だろうと体に当たれば冷える。


「寒い……ことはないか」

 

 全力で走って火照った体にはちょうどいい。相殺だ。


 そう思い込んで、弱気を吹き飛ばした。日々行う地獄のような練習のおかげもあって、少し走ったくらいで疲れるひ弱な精神と体力ではない。

 

 二十分は走っただろうか。


 身長を優に超える高い塀、それらを凌駕する高い建物が煌々と悪天候の中を光で照らし、目印となった。あれが白百合女学園だ。


 塀に沿って走っていると、門が見つかった。四車線程度の幅がある広い正門だ。ここから中に入れる。だが、入門が一筋縄ではいかないことを瞬時に悟った。

 

 透明なレインコートの下で威圧を放つ濃淡の制服。厳格な雰囲気漂う記章付きの制帽。

 

 そこには、まるで部外者の行く手を阻まんとばかりに、辺りに目を光らせる警備員が複数人いた。


ご覧頂きありがとうございます。

よろしければブックマーク、評価、コメント残して頂けると幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ