0063 崩壊した日常(1)
「あっ、寝ちゃってた」
午後六時を過ぎた頃、陽菜が昼寝から目覚めた。軽いその声色を聞いて、食卓の椅子に座ってうつむいていた私は、体を震わせる。
「お姉?」
不審に思われているのか、しかし顔を上げられない。どんな表情で陽菜に接したらいいのかわからないからだ。
「お、おはよー。陽菜」
うつむいたままで棒読みだった。昼寝から覚めた者におはようもなんだかおかしい。
「うん、おはよ」
「イイテンキダネー」
「もう夜だけどね」
ダメだ、会話がかみ合わない。不本意ながら意識しまくっている。
「晩御飯の準備しなきゃ。お姉はそこでゆっくりしててね」
「あ、ありがと……ちなみにだけどさ」
「ん?」
「お母さんはいつ帰ってくるの?」
陽菜と二人きりは気まずい。だが、お母さんが帰ってきたらそれも緩和されるだろう。
「まだまだ帰ってこないよ。少なくとも夜十時までは帰ってくるな、晩御飯も外で済ませてきて。って言ってあるし」
うわあ、相も変わらず辛辣な扱いしてるし。
「ママになんか用があるの?」
「そういうわけじゃないけど」
「ふうん……」
「あ、陽菜と二人っきりが嫌ってわけじゃないよ!」
勘違いされた気がして、立って大きな声で否定する。
ようやく見れた陽菜の顔は、私の勢いに驚いたのか目を見開き唖然としていた。
「あっ、いや、その……」
そんな表情をさせてしまった恥ずかしさと、単純に目が合ったことによる恥ずかしさ。
顔が熱くなって悶えそうだった。言葉なんか、当然うまく出てこない。
「わ、私、宿題しなきゃ!」
そしていつもはサボっている宿題を盾にし、二階へ逃げた。
自室に飛び込んでへたり込む。
薄暗い中、けれども照明をつける気力すら湧かず、私は絶望に打ちひしがれた。
もうダメだ――。
さっきのぎこちなさすぎる態度や、いまも額を流れる冷や汗、不快な胸の鼓動。
大切な姉妹関係が完全に壊れてしまったことを、それらすべてが物語っていた。
ご覧頂きありがとうございます。
よろしければブックマーク、評価、コメント残して頂けると幸いです。




