0058 金のメダルと青き春―フェイズ陽菜―(3)
数日後、ママは新しいパパと予定通り結婚した。
同時にあたしはとんでもない人を姉に持つことが正式に決まり、生活もガラッと変わった。
賃貸マンションを出て相手方の持ち家である一軒家に引越し。神奈川県内の移動に留まったが、学校は転校することになった。
「ごめんね陽菜」とママに謝られたが、別にどうでもよかった。友達もいなかったし、愛着があるわけではなかったから。
それと、家で一人でいる時間が極端に減った。
学校から家に着いた時点では一人なのだが、二・三時間もすればバスケの練習を済ませた新しいお姉ちゃんも帰ってくる。
「陽菜~ただいまあ~」
甘ったるく間延びしたその声に何度イラついただろうか。
玄関扉が勢いよく開く音がしたかと思えば、ドタドタとこちらに駆けてきて、くっつく、抱きかかえる、頬ずりする。
「今日学校でね、給食でね、冷凍みかんが出たんだよ!」
「知ってる、あたしも同じの食べてるから」
「あ、そっかあ! そうだよね! 陽菜はみかん好き?」
「別に好きでも嫌いでもない」
「えー、じゃあさ、オレンジは?」
「一緒じゃん」
「微妙に違うよお。あ、イヨカンとポンカンってどう違うんだろうね?」
そしてどうでもいい話を振ってきて、どうでもいい質問をぶつけてくる。心の中に土足で踏みこんでグチャグチャに足跡をつけられるような、そんな不快な気分がした。
正直に言おう。うざくて仕方ない。
でも相手は血の繋がっていない元々赤の他人だ。正直に告げるのは憚れて、波風立てぬよう静かに距離を取ろうとした。
「陽菜ー、どこ行くの?」
「近くの図書館」
「じゃあ私も一緒に行く」
「……なんで?」
「陽菜と離れたくないから」
それでも向こうからグイグイ距離を詰めてきて、小学二年生で行動範囲が狭かったこともあり、逃げきれない。行く先々で新しいお姉ちゃんが付いて回った。
鬱陶しいし、腹立たしい。こんな人を姉と認めたくないと思った。
だからせめてもの反抗で、あたしは一度たりとも『お姉ちゃん』と呼んであげなかった。
あたしから呼びかける数少ない機会では「あの」「その」みたく感嘆詞で切り出し、必要最低限の言葉しか発さなかった。
すると、他人行儀が伝わったのか、新しいお姉ちゃんは一瞬寂し気な表情を浮かべる。
それを見て『してやったり』と思う反面、『やりすぎかな』と後悔も残った。
けれどすぐにいつもの元気な表情に戻りベタベタされると、『やっぱりこれくらいの反抗は当然だ』と懲りない態度に辟易した。
そんなある意味退屈しない毎日を過ごしていると、時の流れは以前よりも早く感じられ、気づけば寒さが身に染みる冬がやってきていた。
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