0005 妹から(1)
体育館を閉め、鍵を返し、帰路につく。
職員室ではデスクワークによる疲労で死にかけのような顔をした監督に小言を言われたが、耳に入らなかった。
私だって疲れている。身体面も、精神面も。疲労困憊でクタクタだ。
こんな時は家と学校の距離の近さがありがたい。歩いて二十分もかからない距離だから、私はいつも近所に住むつーちゃんと徒歩で登校している。
つーちゃん……うううっ……。
悩みの種が脳内で激しく主張を始め、私を苦しめる。
『明日、いつものように家まで迎えに行くから! 一緒に登校しようね!』なんて言っていたが、どんな顔をして、どんな答えを持って会えばいいのやら。それに剣さんだって明日も来る気だ。
はあ……今日の夜が一生明けなければいいのに……。
起こりうるはずがない願いを抱き、フラフラになりながらも家に着いた。
最後の力を振り絞るように、玄関扉を開ける。
「ただいま」
呟くと、間髪入れずに返答があった。ただし『おかえり』ではない。
「遅い!」
玄関で仁王立ちしたその子から、罵声に近い出迎えの声を浴びせられる。
「ごめんごめん、ちょっと色々あってさ、連絡する余裕もなかったよ」
「信じらんない! バカ! バカお姉!」
穴吹陽菜、中学二年生。私の妹だ。
実は私と陽菜、血は繋がっていない。
数年前、私の父親と陽菜の母親が再婚したことにより、連れ子だった私達が姉妹になったのだ。
「早くご飯食べて! あたしもお腹ペコペコなんだから!」
「あれ、まだ食べてなかったの? 先に食べてくれてよかったのに」
「なんでそんなこと言うの! 意味わかんない!」
「ええ……」
なんでそんなこと言われなきゃいけないの! 意味わかんない!
私としては気を遣う発言だったのだが、なにが気に障ったのだろう?
「まったくもう!」と腕を組んで頬を膨らませる陽菜。
まあ、この年齢特有のなんにでも反抗してしまうあれだ。
そう、中二の陽菜は反抗期真っ只中。
攻撃的な言動にもそれがよく表われているが、最も顕著なのは容姿だろう。
毛先だけ青に染めた金色ツインテール。
なにかというと、陽菜の髪型だ。
中学入学直前に初めて染めて、当時は目の玉が飛び出るくらい驚いたものだが、未だに見慣れない。
こんな奇抜な髪の色をした人は陽菜かアニメキャラくらいだろう。
ちなみに陽菜が通う中学校は自由を校風にした私立校で、かろうじて許されているのだとか。
「ほんとにお姉はバカなんだから!」
口を開けばツンツン、奇抜な髪型は見る者の目をチカチカ。私の妹はこんな感じ。
でもそれが――。
「相変わらず可愛いなあ~」
リビングに向かおうと廊下を歩く陽菜を、私は後ろからギュッと抱きしめた。
「ウザい!」
「そんなことないでしょ~」
「暑苦しいから離れて!」
「もうちょっとだけ~」
嫌がる陽菜にスリスリと頬ずり。
こうしていると疲れが吹き飛んでいくんだよ。癒やしのひとときってやつ。
そう、私は『少しシスコン』だ。
周りの人からは『強烈なシスコン』と心外なことを言われるが、そこまでじゃない。
せいぜいプライベートな話題の大半を陽菜の事で占める程度だ。
これだけ可愛い妹がいるんだから、それくらいは普通でしょ?
「好きだよ陽菜ぁ~」
「あたしはお姉のこと嫌い! 大嫌い!」
「そんなこと言わないでぇ~。あ、さっき玄関で迎えてくれたのはずっと待っててくれたってことだよね? お姉ちゃんのことが大好きだからってことだよね?」
「うるさい!」
私は陽菜のことが大好き。この世に一人しかいない大切な妹だから。
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