0048 ライバルのサプライズ(1)
すでに日は沈んでいたが、背中側にある建物が煌々と明かりを放っており視界は良好だ。
だが、ここがどこであるかまではわからない。
私が立ち入ったことがない場所であることだけはたしかだ。
「麗華お嬢様、到着いたしました」
「ご苦労様ですわ」
「結局ここはどこなの?」
どさくさに紛れて足を離し、会話に加わる。
以前連れて行ってくれた埠頭には絶景が待っていた。しかし、いま広がる景色にそれはない。
「中に入ればわかりますわ」
建物を指さした剣さん。車を出てみると、それは横も縦もひときわ大きく、視界に入りきらない。
靴を履き替えた剣さんにエスコートされ中に入る。エントランスは怖いほど静かで飾り気が無い。しかし、白を基調にした空間は清潔感に満ち、そして真正面にエレベーターがあった。
「最上階へ上がりますわ」
エレベーターに乗り込むと十七階までボタンがあった。
それを押し、モニターが階を刻んでゆく。
あっと言う間に到着して、ドアが開くと――。
「わあ……」
私は思わず声を漏らした。
待っていたのは照明がないガラス張りの空間だ。
明かりは外からやって来る光のみ。ガラスの先に広がる夜景に誘われ、一歩二歩と歩く。自身が夜空に溶かし込まれてゆくような、幻想的な雰囲気を味わった。
「いい景色だね」
これを絶景と言わずしてなにを絶景と言おうか。
ガラスの傍まで寄り、しばし見惚れる。
「穴吹さん」
ふと気づくと剣さんも隣にいて、声がかかった。
「メインは下ですわ」
「下?」
この下はちょうど駐車場の反対側にあたる。なにがあるのだろうと視線を下げて確認した。
「えっ、あれって……」
だだっ広い平地の縁に、点々と等間隔に立つ照明灯。それらが照らす真ん中に、一機の飛行機があった。
「飛行機じゃん!」
「はい、ここは剣家のプライベートジェットが飛び立つ私有飛行場ですわ」
へえー、プライベートジェットに私有飛行場。さすが他に類を見ないほどのお金持ちだ。
飛行機をまじまじと眺めていると、翼や運転席付近など、所々でランプが点滅していた。周りでは人があくせく動いている。
「これから飛び立つの?」
なんとなくそんな気がした。
「はい、わたくし達を乗せて飛び立ちます」
「へえー。……え? 達?」
ちょっと待って⁉ 今聞き捨てならないこと言ったよ⁉
私は剣さんの方へ首を九十度、ものすごい速さで回す。
慌てふためくこちらの心中などお構いなしに、剣さんはにっこりと微笑む。
「今からハワイに行きましょう」
「ハワイ⁈」
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