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0044 ライバルとボーリング(1)

「ラーメン、本当に美味しかったですわ」


「私が勧めておいてなんだけど、寿司屋から出てきた人が言う台詞じゃないね。ま、気に入ってもらえたのならなによりだけど」


「ラーメンって専門店もありますわよね?」


「むしろそっちが主流だね。もっと美味しいよ」


「なら今度行ってみたいですわ。連れて行ってください」


「うん、いいよ」


 ラーメン屋に行くくらいなら、ハードルはさして高くない。

 

 回転寿司屋を出て、またラウワンに戻る。さまざまなエンターテイメントがあるから一日いても飽きないのがいいところだ。ま、他に行くところもないというのも理由だけど。


 入店すると、当然ながらまたゲームセンターが目に入る。


「クレーンゲームやる?」

 

 さっき興味を示していたし。


「それもいいですけど、これをやってみたいですわ」


「どれ?」

 

 剣さんは壁に貼られた館内マップを指差している。向けた先にあるのは六階にあるボーリング場だ。


「ルールは知ってますけどやったことがありませんの。この機会に是非」


「いいよ。腹ごなしにちょうどいいかもね」


「きっちり勝敗がつく遊びは燃えますわ! 勝負しましょう!」


「は、ははは……」

 

 会話が全然かみ合ってない。なんだこの温度差は?

 

 とはいえボーリングをすることに異論はなかったので、一階で受付を済ませ六階まで上がる。


 休日とあって空いているわけではなかったが、待ち時間も発生せず、しかも運良く隣のレーンが空いていた。プレイしやすくていい。

 

 ちなみに料金、これは先払いですべて剣さんに出して貰った。どうしても私に財布を出させたくないみたいで、プレイ代はもちろん百円の貸しシューズ代まで。


 おまけにいつのまにやらアイスカフェラテを両手に携えており、そのうちのひとつを「よかったらどうぞ」と手渡された。至れり尽くせり、もう貢がれているようなものだ。

 

 なにはともあれプレイスタート。計三ゲームのプラン。第一投は私からだ。


『女性にオススメ』というポップの元にあった十ポンドのボールを振りかぶり――。

 

 ――ストライク。


 回転をかけたボールは見事なカーブを描き、開幕早々すべてのピンを倒した。


「すごいですわ穴吹さん!」


「ふふん」

 

 柄にもなく得意げになってしまった。

 

 別に私はボーリングが得意というわけではない。頻繁にやっているわけでもない。

 

 ただ幼少期の頃から運動神経には自信があって、ボーリングで叩き出すスコアも150を下ったことはなかった。


「ではわたくしも続かせて頂きますわ」


「おーがんばれ」

 

 私の適当なエールに送られて、剣さんがレーンの前に立つ。手にはなんと、16ポンドのボールを持って。

 

 ちょうどいいですわ、なんて言いながら選んだ一番重いボールだけど、大丈夫かな?

 

「ふん!」

 

 しかし心配は杞憂に終わる。


 腹の底からうねり出すような掛け声と共に放たれたボールは、見たこともない速さで真っ直ぐピンに迫り。――ストライク。


「やりましたわ!」


「ええ……なにあれ……」

 

 ちっとも回転のかかっていない、つまりはストライクが取りづらいとされている状態のボールが力だけでピンを倒した。というより、なぎ倒した。テクニックなんてどこ吹く風。もうめちゃくちゃだ。

 

 それにしても、全くプレースタイルが違う。

 

 私が運動神経を駆使した『技』ならば、剣さんは身体能力にものを言わせた『力』。まさに両極端だ。


 しかし相反するこの構図には深い馴染みがあった。

 

 そう、力と技。これら互いのスタイルの違いは、バスケでもまったく同じだったりする。

 

 そしてそれに気付いたとき、私は心の奥底でグツグツと煮えたぎるものを見つけた。

 

 熱い、負けたくない。

 

 ――ボーリングなんてただの遊び。

 ――バスケの大会じゃあるまいし。

 ――剣さんの好戦的な性格も困ったものだなあ。

 

 別に最初から張り合おうと思っていたわけではない。むしろ俯瞰していた、のに。


「勝負か、いいね」

 

 バスケと通ずるものを見つけ、剣さんの燃え上がるような闘争心に私の心も呼応した。


 互いを隔てていた温度差は、もうない。


「絶対負けないよ。剣さんに負ける以上に腹立たしいことなんて存在しないからね」

 

 お遊びムードは消し飛んだ。心変わりが言葉に乗り、腑抜けた表情もおそらくは変わっていることだろう。この闘志むき出しの姿勢が、剣さんと対峙するときの元来の私だ。

 

 一方で剣さんは驚きの表情を浮かべていた。しかしやがてニヤリと口の端を上げ、


「わたくしに勝てると思いまして?」

 

 女王様みたく高飛車に言い放つ。これが元来の私達だ。

 

 バスケのコートからボーリング場に舞台を移し、真剣勝負が幕を開けた。

 

ご覧頂きありがとうございます。

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