0034 純愛のカタチ―フェイズ紬―(1)
どこか距離感を覚える帰りの新幹線で、わたし、つーちゃんこと羽ノ浦紬は自身の振る舞いに対して懸念を抱いていた。
少しグイグイいきすぎかな?
重すぎるかな?
告白以後に繋がれた手は、全てわたしから歩み寄ってカタチを作った。向こうから来てくれたことはない。そう、みーちゃんはかなり引いている。
こちらとしてはアピールのつもりなのだが、おそらく逆効果を招いている。
やっぱりやめた方がいいかな?
……いや、これでいい。
アピールをやめたところでどうなる? 元の関係に戻るだけだ。
元の関係……居心地がいいだけの『なあなあの関係』が何をもたらすと言うのか。
そこに良さがあったとしても、わたしの描く理想とは大きくかけ離れる。
軽い思い出を数だけ重ねて忘れられるくらいなら、かなり重いくらいでちょうどいい。
立場上、わたしは挑戦者なんだ。現状維持ではなにも変わらない、恋してもらえないから、全てをぶち壊す覚悟で挑む。だってそうしないと負けちゃうから。
ねえみーちゃん、みーちゃんはまだ自覚してないだろうけど、わたしはわかってるんだよ。
みーちゃんは既に……のことが……。
――――
穴吹水琴は幼馴染で同い年の女の子だ。
わたしが物心ついたときから彼女は隣にいて、天真爛漫で人懐っこい笑顔に絆されて。
気づいた時にはその笑顔を独り占めしたいと思うようになっていた。
――わたしだけに笑顔を向けて。
――他の人を見ないで。
彼女以外、見てなかった。
それと同時に、彼女にもわたし以外を見てほしくなかった。
そこから彼女を自分のものだと誇示するように『みーちゃん』と呼び始めた。
すると彼女も応えるように『つーちゃん』と呼んでくれる。
まさに感無量だった。それだけで、独り占めした気分になれていた。
わたしは他の子たちとは違う。
胸の奥で湧き上がるのはそんな自負だ。
みーちゃんはわたしのことが一番好きなんだ。わたしにとって一番の親友がみーちゃんであることは言わずもがな。みーちゃんだってわたしを一番の親友だと思ってくれているはず。言葉で伝え合わなくともこの深い友情は共通認識だ。
…………友情?
友情って、体がポカポカして、胸がドキドキするものなんだ。
友情って、相手が他の人と育もうとするのを見ると、苦しくなるんだ。
なんかこう、平常ではいられなくなるから、大変だなあ。
少しの違和感はあったが、なにせそれを払拭する手立てがないため、これが友情というものなんだと自分の中で簡単に受け入れた。そして友情という感情に心労を覚えつつも、悪い気はしなかった。
そんな心情で幼少期を歩み、小学校に進学した。
今までと比べて多くの人と接する機会が与えられたわけだが、わたしはみーちゃん以外友達がいなかった。だがその状況に不満はなにひとつとしてなかった。
だってみーちゃんは変わらず傍にいてくれるし。それだけでわたしの心はいっぱいだもん。
みーちゃんさえいれば、他には誰もいらない。
いやむしろ、わたしとみーちゃんの傍には誰も近寄らないでほしい。
わたしたちの友情は、わたしたちだけのものだから――。
忘れもしない三年生の秋頃だった。
年上の兄弟がいる人をきっかけにクラスで修学旅行の話題が上がる。
輪の端で会話を耳にして、そのとき知ったことは……。
木刀を買えば先生に没収される。昼食にカツカレーが出る。初日は歴史的建造物を巡り、二日目は打って変わって水遊館で遊ぶ一泊二日。そして、その日程で毎年固定。
木刀やカツカレーなんてどうでもよかった。
頭に強く響いたのは後の二つで、同じく輪の端にいたみーちゃんに話しかけた。
「水遊館、わたしと二人きりで回ろうね」
「え?」
少し遠い未来の話を振ったせいか、みーちゃんはついていけず首を傾げた。
「三年後にあるわたしたちの修学旅行の話ね」
「ああ、そういうこと」
理解してくれたみーちゃんはひとつ頷き、
「いいよ、二人で回ろうか」
そう言っていつもの人懐っこい笑みをわたしだけに向けてくれた。
こんな簡単な口約束。だけど私は三年先もみーちゃんを独り占めできると確信して有頂天になった。
いや、三年先だけじゃない。その先も、ずっとずっとみーちゃんを独り占めしたい。
想いは揺らがず萎まず、むしろ大きく膨れるばかりだった。
しかし、二年後――。
小学五年生になったその頃、思わぬ事態が起こり始める。
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