0033 幼馴染みと大阪デート(3)
4階のカフェに移動。
水槽が並ぶ場所とはうって変わって店内は明るく、壁やテーブルが白で統一されており、大きな窓からは大阪湾が一望できる。白と青のコントラストはまるで空を飛んでいるかのような開放感だ。
そこで魚型のカマボコを挟んだホットドッグを注文。
食後のデザートとしてラムネ味とバニラ味のミックスソフトクリームも食べた。こっちも白と青。2色が螺旋を描くソフトクリームはジンベエザメを模しているらしい。
ラムネの爽快さとバニラの強い甘さの相性も抜群で、見た目と味の両方において、なかなか優れた組み合わせだなと舌鼓を打った。
「みーちゃんの美味しそう、一口頂戴」
「同じのだよ」
食べかけのソフトクリームを見てつーちゃんが言った。なお、あちらの手元にも同じ2色のソフトクリームがある。
違う味同士でするやつだよね、このやりとり。
食事が終わった後は残るルートを満喫。痛いくらいに繋がれた手はずっとそのまま。
可愛いアザラシを見ても、イルカに水しぶきをかけられ大声を出しても、つーちゃんが私の手を離すことは片時もなかった。
この行為にはどのような意図が込められているのか?
ただ『好きだから』ではないような気がする。聞こうにも聞けない。
そして家族と部員達へ土産のお菓子でも買おうと最後に立ち寄ったショップでは、こんなことを切り出してきた。
「ねえみーちゃん、これお揃いで買わない?」
指さしていたのはクラゲのストラップだ。
ガラスのような作りをしており、どれも透き通るように綺麗だった。様々な種類の色がある。
「いいね、私は青がいいかな」
「相変わらず青好きだね。じゃあわたしも青にする」
「つーちゃんも青好きだったっけ?」
「うん。みーちゃんの好きな色だからわたしも好き」
「ははは……」
お菓子とクラゲのストラップを購入し、水遊館を出た。
その後は大阪の中心地、難波に移動し道頓堀をブラつき、本場たこ焼きや串カツなど大阪グルメを満喫。
食い倒れの街と呼ばれる所以をこの身で体感し、お腹いっぱいになって帰りの新幹線に乗ったのが午後七時を過ぎた頃だった。
行きは自由席だったが、帰りは混んでいるだろうと指定席を取った。案の定ホームでは人がごった返しており、この選択が間違いではなかったことを感じさせられた。
二列シートに並んで座り、新幹線は出発。
数分すると京都駅に停車し、次の停車駅である名古屋までは少々の時間を要する。車内ではアナウンスもない静かな空間が出来上がり、疲れもあってウトウトしていると、
「あの、みーちゃん」
つーちゃんから囁くような声がかかり、乗車にあたり一旦は離れた手を再度繋がれた。
ぎゅううっと、強い。そして驚くべきほど熱い。
私はすっかり目を覚ました。
「どうしたの?」
隣に視線をやると、つーちゃんは真っ赤な顔でうつむいていた。
ああ、なるほど。
次の展開に予測が付く。
「返事、もらえたりする?」
ほら、やっぱりこれだ。つーちゃんは告白の返事を欲している。
そして、今日の日帰り旅行で私が決断を下したんじゃないかと期待している。
でも――。
「ごめん。まだ決められないや」
私の答えはこの日帰り旅行が始まる前から決まり切っていた。
陽菜が他に好きな人を見つけるまで、結論は出さない。
出さないというのが、答え。
陽菜と付き合いたくないし、陽菜を振りたくない。
この二つを両立させるためには、こうするしかないのだ。
つーちゃんと剣さんには悪いけど、それまで我慢してほしい。なんならウジウジしてると見損なって、気持ちが冷めてくれたらいいのに……。
「わかった。でもわたし、待ってるから」
待つんだ、まだ待っちゃうんだ。
「みーちゃんが振り向いてくれるその日まで、未来永劫待ち続ける」
わあ、そんなに。
「……ごめんね、ほんと」
本心から出た謝罪の言葉だった。
つーちゃんとのみ向き合って答えを出すべきなのに、陽菜のことしか考えてないから。
「みーちゃんが謝るようなことじゃないよ。それよりも手、このまま繋いでいていい?」
「うん、もちろん」
二つ返事で了承した。好意をくれる人ときちんと向き合えない私に断る資格なんてないと思ったからだ。
こうして新横浜駅につくまで手を繋いでいた。
その間、つーちゃんから『次は沖縄に行ってみたい』『北海道もいいよね』『思い切って海外』なんて次の旅行の話を振られた。人生ゲーム終わりに計画されたこの旅行の話とは違って、一言一言を噛み締めるように訥々と語る。
私はそれを、どこに存在するかわからない遠い未来の話として受け止める。
いつからこんなに温度差が生まれるようになってしまったのか。
どんなときでも同じ目線で楽しめる相手だったはずなのに……。
「海外に行くとしたらみーちゃんはどこがいい?」
「私? 私は、どこでもいいかなあ」
「そう……なんだ」
「うん……そんな感じ」
新横浜駅から在来線に乗り継ぎ、自宅付近についたのは夜十時をとっくに過ぎた頃だった。
つーちゃんと手を振りあって別れ、玄関の前で一息ついた。
陽菜はまだ起きているはずだ。床に入るような時間じゃない。
日帰り旅行とだけあって随分と帰宅が遅くなってしまったが……。
実は新幹線に乗り込む直前、つーちゃんがトイレに行った隙を利用してこっそりと帰りの新幹線の時間とそこから予想される帰宅時間を陽菜に連絡したのだ。
だから前のように時計を抱きしめながら居眠り、なんて風邪をひかないか心配になるようなことはないはず。玄関を開けた。
「あ、ただいま」
目の前には陽菜がいてくれて、いつもの言葉を私に告げるべく口を開く。
「おっそい」
玄関の前で仁王立ちし、ジト目を向ける最愛の妹だ。
安心感とばつの悪さで私は苦笑いした。
次回、つーちゃん視点で過去編いきます。




