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0032 幼馴染みと大阪デート(2)

 在来線で新横浜駅まで移動し、そこから博多行きの始発新幹線に乗り込む。

 

 取ったのは自由席。朝が早いためか席はガラガラで選び放題だった。


 通路を挟んで2列シートと3列シートに分かれている中、「こっち側は富士山が見れるらしいよ」とのつーちゃんの先導で2列シートに腰かける。


 車内ではつーちゃんお手製の朝食を食べながら雑談に花を咲かせた。しばらく見ないうちに学食が値上がりしていたとか、放映中のドラマが面白いとか、そんな他愛もない話だ。

 

 旅の高揚感からか眠くなることもなく、新大阪駅についたのが八時半。

 

 右並びのエレベーターに戸惑いながら現地の在来線に乗り換え、水遊館についたのが九時過ぎ。


 チケットを買っているとちょうど九時半の開館時間を迎えた。


 入館し、まずは『マリンゲート』と呼ばれるトンネル型の水槽をくぐる。海の中を散歩しているような気分にさせられる空間だ。

 

 そこを抜けるとエスカレータで一気に最上階の八階まで移動、スロープを下りながら下へ下へと見学するのが正規の順路になっているらしい。

 

 

 ――ただの水族館と侮るなかれ。ここは世界最大級の水族館だ。――

 

 八階建てという衝撃のスケールや趣向を凝らしたエンターテイメント性は他と一線を画しており、全国はおろか海外からも観光客を集めている。飼育展示されている生き物の数は約六百種。それらを常に斬新な手法や企画で楽しませてくれる魅力の宝庫、それが水遊館だ。


 

 ……といった話を新幹線の中でつーちゃんから聞いた。いつからそんな水遊館大好き人間になったのだろうか。

 

 とはいえその前情報、誇大ではなかった。

 

 日本の渓流・森林の水辺を再現した八階。

 ここでカワウソとの戯れを前座とし、アリューシャン列島、モンタレー湾、パナワ湾、等々……。


 世界中の海を模した箇所で飼育されている生物達に癒しと興奮をプレゼントされる。


 楽しくないわけがなく、つーちゃんとの会話も弾み、来てよかったなと心から思った。

 

 そして階も中盤、時刻はお昼ごろ。


 いよいよ水遊館のシンボル、ジンベエザメと対面した。


 階をぶち抜いているという巨大な水槽は太平洋を模しているらしく、そこで悠然と泳ぐジンベイザメの存在感にしばし圧倒される。


 ジンベイザメの周りではエイが優雅に回遊し、目の前に広がる空間があまりにも神秘的で、なんだか言葉も出ない。


 それはつーちゃんも同じようで、これまでキャッキャと騒いでいた私たちに訪れる、しばしの沈黙の時間となった。

 

 ジッと水槽を眺めていると、吸い込まれて溶けて、自身も水の一部になったかのような錯覚に陥る。水琴って名前だけにね、と。くだらない冗談はさておくとして。


 ふと、私の手が暖かいものに包まれた。これは錯覚じゃない。

 

 視線をやると、やはり。つーちゃんが手を握っていた。


「ねえ、みーちゃん」

 

 忍び寄るように口を開いたつーちゃんは、私に問いかける。


「なーに?」


「みーちゃんがここに来たのって何回目?」


「えーと、初めてではないような気がする」

 

 目の前に広がる神秘的な光景を、以前も見た気がするのだ。

 

 でも、いつだっただろうか? 

 

 記憶を探ってみるが、空振りばかりでなにも掴めない。


「ジンベエザメ、なんとなく見覚えあるんだけどなあ」


「……修学旅行?」


「ああ、そう! 小学校の修学旅行だ!」

 

 ひとたび記憶から引っ張り出せば、あとは芋ずるのように次々と情景が思い起こされる。

 

 今から約五年前、小学六年生の頃にも私はここでジンベエザメと対面していた。


「懐かしいなあ」

 

 小学校の修学旅行は一泊二日の日程だった。一日目は京都・奈良で歴史的建造物を巡り、二日目は海遊館。うって変わって楽しいテーマパークへ来られたことで、あのときも心を踊らされた。


「今日が修学旅行以来の水遊館なの?」


「うん。そもそも大阪まで来る機会がないし。だから水遊館に来るのは二回目だね」

 

 空いている方の手でピースサインを作り『2』をアピール。

 

 すると、それを見たつーちゃんが「ふふふ」と笑う。どこか得意げでなんだか優越感に溢れている、状況を鑑みれば『なぜここでそんな風に笑う?』と首を傾げたくなる不思議な笑みだ。


「あのときも、こんな風に二人きりで回ったよね?」


「ああ、そうだったね。手も繋いでたっけ? あれ、繋いでなかったっけ?」

 

 さすがにそこまでの詳細は思い出せない。繋いだ時間もあったような気がするし、繋いでなかった時間もあったような気がする。だからつーちゃんに確認してみたのだ。


「ふうん……」

 

 しかしつーちゃんはため息に似たそんな呟きを漏らすだけで正解をくれない。


 優越感に溢れた笑みが萎み、おまけになぜか握る手を強めた。痛いくらいに握りしめられている。


「つ、つーちゃん?」


「みーちゃん、そろそろお昼だしお腹すかない? 4階にカフェがあるらしいよ」


「ああ、うん。じゃあそこに行こうか……」

 

 グイっと手を引っ張られ、私たちはこの場から移動した。


ご覧頂きありがとうございます。

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