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0030 告白の返事は…

 どちらが先か、どちらが後か。


 私にとっては不毛にも思える争いも、彼女らにとっては重要らしく、なんと一時間弱も揉めていた。


 その末に決まり手となったのはジャンケンだから、『時間を返して』と文句の一つでも言いたくなる。本当に勘弁してほしい。

 

 結果、来週の日曜はつーちゃんと、再来週の日曜は剣さんと、再々来週は陽菜とお出かけすることに。


 貴重な日曜が私の意見を取り入れる間もなく埋まってしまった。


 これは泣きたくなるよ。ぐすん。

 

 順番を決めた後は、実際どこへお出かけするかの計画を練ることに。


 計画、というと少しは冷静沈着で知的に聞こえるが、つーちゃんと剣さんが抱く各々の願望を、私にぶつけるだけの時間だった。


 二人ともが競うように案をポンポン出してきたので、私は困惑しっぱなし。


 結局、なにがしたいのか、どこに行きたいのかが明確に伝わってこなかった。

 

 そうこうしているうちにようやく日が暮れた。

 

 家の前に黒塗りの高級車が停まり、剣さんは帰宅。

 

 同時につーちゃんも『もっと一緒にいたいけど、お義母様にマナーのなってない子と思われるのは嫌だから』という理由で家に帰っていった。

 

 嵐のような時間はこうして幕を閉じた。

 

 二人を見送ったあと、思わず嘆息する。とにかく、疲れた。

 

 今日という日はもうすぐ終わるが、残ったのはヘドロのようにまとわりつく疲労感。


 体も頭も重く、唯一オフの日曜にここまで疲労を溜めてしまったらそのうち過労で死んでしまうのではと危惧する。


 それと、疑問も残った。


 頭で渦を巻くその疑問は、『どうして私がこんなにも好かれているんだろう?』『きっかけとかあるのかな?』という根本的なものから、陽菜に対する些細なものまで大小様々。


 もう夕方だというのにソファーで昼寝を始めたお母さんを風景にしながら、使用した食器の洗い物を陽菜と二人で行っていたとき、小さく些細な方を当人にぶつけてみた。


「そういや陽菜はずっと黙ってたよね。二人はあんなに喧嘩していたのに」

 

 そう、どっちが先かを決める言い争い、行き先願望の投げつけ、この二つに陽菜は加わってこなかったのだ。

 

 それどころか『あたしは最後でいい』『まだ決めてない』と一歩引いた立ち位置で結末を見守るような姿勢を見せていた。

 

 一体どうしたことだろうか? 

 

 まさか恋心が冷めたとか? 私に対する恋愛感情が消えたとか? 

 

 もしそうなら、悩みが一つ払拭されたことになる。喜ばしい限りだ。

 

 うん……喜ばしい限りだ。

 

 問いかけから少し間をおいて、陽菜が口を開く。視線はこちらではなく、蛇口から落ちる流水に向けられていた。


「だってお姉、すごく困った顔していたから」


「……え? 困った、顔?」


「うん、あたしが加わればもっと困るだろうなと思った。だから黙ってた」


「陽菜……」

 

 想像した答えと違ったが、胸がいっぱいになった。陽菜の優しさに抱きしめられるような感覚に浸る。私の方が姉なのに、立場が逆だ。

 

 いい子になったなあと、感心した。嬉しくなった。

 

 そして、一瞬ほっとした。


 最後の感情がどこに起因するのかは、自分でもよくわからなかった。

 

 そのうち洗い物も終わって。

 陽菜は恥ずかしくなったのか、私と顔も合せず逃げるように立ち去ろうとする。


「陽菜」


 呼び止めて、私から歩み寄る。陽菜は反抗することなく、立ち止まってくれた。

 

 至近距離まで近づいて、手を伸ばす。背を向けたままの陽菜の頭をポンポンと撫でた。


「陽菜はすごくいい子だね」


「バカお姉。子ども扱いしないで」


 おっと、ご機嫌ナナメかな?

 

 言われるがままに手を下ろす。立ち去るのかと思いきや……。

 

 陽菜はクルッと振り返って私の手を取り、


「やっぱりもっとして」

 

 少し充血した上目づかいで、そう言った。


「はいはい」


 クスッと笑いたくなるような微笑ましい感情とは裏腹に、自身の心音は弾けるように主張が強い。これもまた、よくわからない。


 とりあえず、陽菜が満足するまで撫でてやる。


 可愛くて思いやりに溢れている自慢の妹は、目線を私のお腹あたりに固定して、いつまで経っても動こうとしない。私に対して抱く想いも、同じように不動なのかな?

 

 そんな陽菜の想いにはできるだけ応えてあげたいが、それは無理。

 

 だってこの子とはいつまでも姉妹でいたいもん。

 

 少しシスコンの私だから、この関係は壊したくないんだ。


 陽菜は私が好き。私も陽菜が好き。言葉を浅く掬うと同じ好きだけど、深くを掴めばその意味はまるで異なる。私の感情に恋愛という危なっかしいものは存在していない。

 

 あるのはただ、大切な妹を喜ばせたいとか、悲しませたくないとか、そんな純粋な妹愛で。

 

 とにかくいついかなる時だって、私は姉妹関係の持続を目指し、その上で陽菜が満足する最善手を取りたい。


 

 

 だからそのために――。


 


 今後の指針が決まった。


 


 つーちゃんにも、剣さんにも、もちろん陽菜にも、告白の返事はまだしない。


 


 陽菜の方から『他に好きな人ができた』と報告してくるまでお茶を濁すつもりでいる。


 じらしちゃうけどごめんね。


 告白を受け入れる気はないし、振って悲しませたくもないから、こうするしかないじゃん。来週からのお出かけは私が決断を下すために計画したらしいけど、答えなんか出さないよ。

 

 陽菜の好き。私の好き。同じ好きでもすれ違う。陽菜の好きを受け入れてしまったら、私の好きは粉々に砕けてしまう。

 

 だからお願い、今すぐにとは言わないけど、いつかは私以外の人を好きになってね。


ご覧頂きありがとうございます。

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