0029 三つ巴の人生ゲーム(2)
その後もゲームは着々と進み、またもつーちゃんが最初に人生の節目を迎えることとなった。
「やったー。子供ができた」
そう、今度は子供誕生マスだ。
このマスはゲーム中盤以降の様々な場所に散りばめられているが、強制ストップのルールはない。
要はプレイヤーによって子供ができるかまちまちというわけだ。
場合によっては子供無しでゴールするし、また場合によっては子沢山でゴールすることとなる。
「ねえみーちゃん、赤ちゃんの名前なににしよっか?」
嬉々として黄色のピンを挿すつーちゃんが問うてくる。
「え、えーと、太郎とか、花子とか?」
「もう、わたしたちの子供が一生使う文字なんだよ。真剣に考えて」
何度でも言おう。幼馴染が見据える未来が怖い。
「ふん、調子乗ってなに言ってるんだか」と陽菜がルーレットを回す。そんなこと言いながら陽菜も結婚マスで赤色のピン挿してたよね。
ちなみにルーレットの目は五。どれどれどんなマスかな?
「……パートナーに借金が発覚。肩代わりして一千万円失う」
衝撃だったのか声色を変えて読み上げる陽菜。そしてパッと視線を上げて私に言う。
「もう、お姉ったらほんとしょうがない人。でも大丈夫、あたしが一生養ってあげるから」
陽菜こそなに言ってるの⁈ お願いだからゲームと現実の区別はつけてね⁈
「皆さん落ち着きまして」と今度は剣さんがルーレットを回す。そして止まったマスで、手と声を震わせた。
「……パートナーの浮気が発覚。離婚する」
マスに書かれた文字をぼそりと読み上げた直後、ぐすんぐすんと鼻水をすする音が聞こえてきた。
え? ちょっと待って、この流れはもしや……。
「ふえぇぇぇん、わたくしのなにがいけなかったと言うのですの、ふえぇぇぇん……」
「あー泣かないで! 誰よりも落ち着いて!」
「穴吹さん、わたくしに至らないところがあれば直しますから仰ってください、ふえぇぇぇん……」
「じゃあとりあえず泣くのをやめて! あとこれはゲームだから!」
泣く剣さんを疎ましそうに眺める二人の視線を感じながら、私は必死に慰める。
やがて泣き止み、なんとか再開できたはいいものの、その後もゲームと現実の区別がつかない者たちの一喜一憂は終わらない。
「やったー。もう二人目が生まれた。みーちゃんたら積極的だなあ」
「パートナーが逮捕⁉ お姉なにやってんの⁉」
「あっ、子供誕生マスに止まりましたわ。……ただしパートナーがいる場合に限る⁈」
ルールが頭に入っているのかと問いたくなるほど皆お金に執着していない。その代わりにパートナーや子供といった面には異様に食いつく。それも現実に見立てて。
こうして地獄のような人生ゲームは終わりを迎え、最終集計。
一位は剣さんだった。ゲームでもお金持ちになるとはさすが。
二位は陽菜。そこそこ稼いでゴールイン。ちなみに剣さんとはかなりの開きがあった。
三位は私。陽菜と僅差で惜しくも、といったところだった。
そして、最下位はつーちゃん。なんと十億以上の借金を背負ってのゴールだった。
「つーちゃんの借金すごいね、ま、ゲームなんだし気を落とさないで」
「みーちゃん、最高のゲームだったね」
「え? なんで?」
つーちゃんは不思議と喜色満面。そして口を開く。
「だって離婚もせずにパートナーとゴールできて、子供も四人も生まれたよ。お金はないけど、幸せだなあ」
「わたくしは結局再婚できずに独りぼっちでゴールしましたわ。お金はあっても寂しいですわ」
「あたしも途中で離婚しちゃった。最悪。もうこんなゲームしたくない」
圧倒的最下位のつーちゃんが一番満足気で、ワンツーフィニッシュの剣さんと陽菜は微妙な表情。
みんな、やっぱりルールが頭に入ってないんじゃない?
「ふんふふーん、子供が沢山、わたしもいつかそうなれるかなあ。ねえ、パパはどう思う?」
幼馴染が過去最大級に怖い問いかけをしてきた。震えが止まらない。
「ちょっと羽ノ浦さん、たかがゲームで調子に乗らないでもらえます?」
「そのゲームで泣いてたのはどこのどなたかなあ? きっとこの人生ゲームは各々の未来を暗示しているんだよ」
もしそうならつーちゃんは十億以上の借金を背負うことになるけどいいの?
「そんなわけありませんわ。ゲームでは負けましたが、現実では勝ってみせます」
いやいやゲームは勝ってるよ。しかもぶっちぎりだよ。
「なに言ってんの。わたしが勝つ」
「わたくしですわ」
「わたし!」
「わたくし!」
つーちゃんと剣さん、二人は立ち上がって口喧嘩を始めた。
ところでその現実の勝ち負けはどうやって判断するのかなあ? もしかして、いや、もしかしなくても私次第?
「みーちゃんはわたしのもの!」
「いいえ、わたくしのものですわ!」
やっぱり私次第だよね! だったら困惑する当人の目の前で喧嘩しないでくれるかなあ!
「ではそろそろ……穴吹さんに決めて頂きましょう。わたくしにいい案があります」
え? 決める?
な、なんかおかしな展開になってきたぞ……。
「いい案ってなに?」とつーちゃんが尋ねた。
「今日のように一同に会しても埒があきませんわ。だから順番に来週の日曜日から、一人ずつ穴吹さんとのお出かけを提案します。自身の番じゃないのに介入するといった邪魔だては無論禁止。各々割り振られた一日でアピールをし、それをもとに決めて頂きましょう」
「ふうん、まあ今日みたいに断りもなく日曜を取られそうになるよりましだね。面白い、乗った」
え? え? 面白くないと思うけど。
着々ととんでもない計画が進んでいる。ちなみに私に発言権はないようだ。
「それでは来週はまずわたくしから」
「いやいや勝手に決めないで。わたしが先にみーちゃんとデートする」
いやいや先とか後とかどうでもよくて……。
もしかしてこれ、私が唯一完全オフになる日曜の予定を勝手に埋められている⁈
ちょっと待って勘弁してえ⁈⁈⁈
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