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0028 三つ巴の人生ゲーム(1)

 私の提案とあって異議を唱える者は誰もいなかった。


 二階にある納戸から数年ぶりにボードタイプの人生ゲームを引っ張り出し、部屋に持ってきて真ん中に広げる。


 仮想の紙幣を並べて、車型の駒にピンを一本挿したら準備完了だ。


 ちなみにピンは赤色、青色、小ぶりの黄色と三種類ある。それぞれ女性、男性、子供を見立てているのだろう。


 今回はプレイヤーが全員女性とだけあって、皆赤色のピンを自身の駒に挿していた。……あれ? 剣さんだけ手が止まっている。


「そういや剣さん、人生ゲームやったことある?」


「ありませんわ」

 

 おお、さすがお嬢様。こんな王道のボードゲームをやったことがないとは。


「じゃあルール教えるね」


「ありがとうございます、手取り足取りお願いしますわ」

 

 その瞬間、つーちゃんと陽菜の二人が剣さんを鋭く睨んだ。相変わらず怖いなあ、たかが人生ゲームのルール説明で手を取ったりしないから安心して。


「手取り足取りってほど難しいゲームじゃないよ。ルーレットを回して止まったマスの指示に従う。最終的に一番お金持ちの人が勝ち。ね、簡単でしょ?」


「一番お金持ちの人が勝ち、ですか?」


「うん、そうだよ」


「わたくし、そうは思いません。お金を持っていたとしても、埋められない心の隙間は必ず存在します。大事なのは物の豊かさよりも心の豊かさ。好きな人と一生を添い遂げられた人が一番の勝者ではないでしょうか?」


「うん、そういう議論はきまって答えがでないからまた今度にしよっか」


「わたし、不本意だけど剣さんに賛成かなあ」


「あたしも」

 

 おお、賛成多数で答え出ちゃったよ。みなさん好きな人と一生を添い遂げられたら勝ちだと思っていらっしゃる。なるほどなるほど、ちなみに好きな人って誰かな? ははは、はあ……。


「と、とりあえず人生ゲームはそういうルールだから始めようか」と強引に押し切りゲームスタート。

 

 序盤は淡々と進む。お金が動いたとしても少額で、皆のテンションも特に変わらない。

 

 しかし――。

 

 ゲームが進むにつれ、とあるマスが登場し、皆異様な執着を見せるようになる。

 

 最初にそのマスに止まったのは、つーちゃんだった。


「やったー。結婚だー」

 

 そう、ゲーム中盤の差し掛かりに設置された結婚マスだ。


 プレイヤーはどんな目が出ようともここで強制ストップ、だから一旦は全員が結婚を果たすことになる。


「つーちゃんやけに嬉しそうだね」


「もちろん。だって結婚だよ、結婚」

 

 熱を帯びた目が私に向けられる。どうやらゲームと現実の区別がついていないようだ。


「は、ははは、結婚おめでとう。ほら、追加のピンを挿して」


「おめでとうだなんて他人行儀だなあ」

 

 頬を膨らませたつーちゃんが手に取ったのは赤色のピン。


「……普通青色取らない?」


「え? どうして?」


「だってそれじゃあまるで女の子同士で結婚しているみたい……」


「んー?」


「ピンの色は性別に見立てているだろうから青色の方が自然……」


「んー?」


「……まあ、ピンの色なんて好き勝手でいいか」

 

 とは言いつつ、赤色が二本挿さったつーちゃんの駒から得も言われぬ圧を感じる。まるで私になにかを訴えかけているようで思わず目を背けてしまった。

 

 続けて剣さん、陽菜の順に結婚マスでストップした。


 二人共が当たり前のように赤色のピンを取っていることに狂気を覚えたが、ここでツッコミを入れても、居心地が悪くなるだけだから見なかったことにしてスルーした。

 

 最後に結婚マスに止まったのは私。


「ふう、ようやくだよ」

 

 そう言って青色のピンを取ろうとした瞬間、


「みーちゃん」

「穴吹さん」

「お姉」

 

 皆から妙な圧力を送られ、否応なしに赤色のピンを取らされた。

 

 なにこのゲーム。不用品と化した青色のピンが泣いてるよ。


ご覧頂きありがとうございます。

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