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0027 幼馴染みvsライバルvs妹(2)

「みーちゃんに会いたくなってふらっと来てみたけど本当によかったよ。危うく金持ち女の毒牙を見逃すところだった」

 

 2階に上がって、ここは私の自室。

 

 つーちゃんが柔らかな口調と目元が引きつった笑顔で鋭いビーンボールを繰り出した。


「剣さん、だっけ? なんであなたがここにいるのかなあ?」


「こちらの台詞ですわ。穴吹さんと約束したのはわたくしです」

 

 つーちゃんと剣さんが向かい合って座り、さっそくバチバチやりあっている。

 

 私は二人の間、仲介人のようなポジションに座らされ、戦況を見守る。


「約束とか知らない。以前、放課後はたしかに譲ったけど、日曜を譲った覚えはないよ」


「日曜は言わずもがな自分のものとでも? 傲慢すぎて笑えますわ」

 

 あの……お願いだからもう少しだけ融和にできませんかね?

 

 私の冷や汗は留まるところをしらない。

 

 自室にいて居心地の悪さを感じたのは初めてだ。だれか助けてよ。

 

 

 そのとき、願いが届いたのか、ドアが開く。

 おお、救世主か⁈ ……そんなわけがなく。

 

 現れたのは戦況をより一層混沌とさせそうな人物だった。陽菜だ。

 

 大きなお盆にシュークリームとジュースの入ったコップを『四人分』載せてやってきた。

 

 あ、これ自分も居座る気だな。

 

 案の定、陽菜はそれらを配り終えたあと私の正面に座した。仲介人がもう一人増えたかのような菱形の構図になっているが、こちらも立派な参戦者である。


「あの、陽菜さん」

 

 剣さんが柔らかな笑みを浮かべて話しかけた。

 

 そういや彼女は陽菜が私にどんな感情を抱いているのかをまだ知らない。


「初めまして。剣麗華と申します。先程は読書の邪魔をしてしまってすみません。ご迷惑でしたよね。ですがわたくし、できれば陽菜さんとも仲良くなりたいですわ」

 

 歩み寄ろうとする剣さんだったが、陽菜はガン無視。目もくれずジュースに口を付ける。


「ご、ごめんなさい、馴れ馴れしくしちゃって。えーと、えーと、どうすれば……」


「剣さん、いいこと教えてあげようか?」


 疎ましそうな表情で話に加わったのはつーちゃんだ。


「あなたの恋敵はわたしだけじゃない、この子もそうだよ」


「……え? どういうことですの?」

 

 言葉の意味が掴み切れず首を傾げた剣さん。

 

 陽菜はジュースを置いて、そんな剣さんをギロリと睨む。

 

 ビクッと、大きな体が怯んだのもお構いなしに、口を開いて言い放つ。


「そのままの意味。お姉と付き合うのはあたしだもん。あんたらなんかに渡さない」

 

 おお、直球だな。でもその重くて速い球、私は受け止めきれそうにないよ。そんなの捕ったら、壊れちゃう。


「えっと……陽菜さんは穴吹さんの、妹ですわよね?」

 

 剣さんは困惑を表情に浮かべて私と陽菜を交互に見る。言葉の意味は掴めたが、信じられないとばかりの様子だ。そうだよね、私だって信じられないもん。


「うん、あたしとお姉は姉妹だよ」


 そんな中、陽菜ははっきりと言い切る。


「お姉の彼女になりたいの。悪い?」

 

 その瞬間、剣さんの表情が目に見えて変わった。


 かろうじて保持していた柔らかな笑みは完全に消え去り、困惑と、動揺と、そして敵対心と、様々な感情が入り混じった顔がそこに現れる。


「もう、陽菜ちゃんも強欲だなあ」

 

 次に口を開いたのは、ジュースを飲んで一息ついたつーちゃんだ。


「既にみーちゃんと家族という羨ましい立場なのにまだ望むの? 彼女のポジションはわたしに譲ってよ」


「誰が譲るか。あたしは恋愛感情が絡んだ関係にお姉となりたいの」


「一歩も引く気ないんだね。ぶれないなあ」


「どっちが」

 

 つーちゃんは「ふふふ」と怖すぎる笑みを浮かべてシュークリームを食べる。


「これ美味しい。みーちゃんも食べたら?」


「えっ、ああ、うん」

 

 誘われるがままにシュークリームを一口かじるが、緊迫感のせいか味なんか感じられない。できればもっと落ち着いた状態で食べたかったなあ。


「本当に美味しい。どこのお店で買ったの?」


「甘々堂っていう有名なお店らしいよ」


「わあ知ってる! いつも行列作っているところだ! そんな貴重なものを出してくれるなんて、あとでお義母様にお礼言わないと!」


「あっ、買ってきてくれたのは剣さんだよ」


「点数稼ぎが露骨すぎ。とっても不快」

 

 うん、つーちゃんは態度の変貌ぶりが露骨すぎだよ。

 

 あとお母さんのことをお義母様っていうのやめて。


「ねえ剣さん、あなた行列に並ぶような人じゃないよねえ? 小狡い手を使ったんじゃないの?」


「小狡い手とは心外ですわね。甘々堂は剣コンツェルンが傘下に置いていますので、そのつてを使ったまでです」


 なるほど、そうじゃないかと思っていたけどやっぱりそうだった。


「あれあれ、会社の力を使わず正々堂々と恋を成就させるんじゃありませんでしたっけ? 発言と行動が矛盾しているよ」


「そんなことは申していません。『恋敵を蹴散らすなら正々堂々と』と申したまでです。すなわち、権力を行使しての妨害は致しませんが、わたくし自身のアピールならばその限りではありません。会社だろうがなんだろうが使える手はすべて尽くします。そもそも、剣コンツェルンの令嬢という立場もわたくしの魅力の一つと捉えていますから」


「はあ~聞いて呆れるような詭弁だね。恥ずかしくないの?」


「持ってる力はすべて出し切りたいですの。それに旧知の仲といえど、アポイントも取らずに家に押し掛ける方が、よほど恥ずかしい行為だと思いますけど」


「減らず口だねえ」


「ご自身が、ですか?」

 

 お願いだからもう少しだけ仲良くしてぇ!

 

 にらみを利かせあい、口を開けば挑発と応酬を繰り返す。

 

 部屋の雰囲気はどんどん悪くなるばかりだ。

 

 居ても立っても居られなくなり、私は一計を投じる。


「み、みんな、人生ゲームでもする?」

 

 ボードゲームで遊べば少なくとも今より空気が悪くなることはないだろう。

 

 それに時間も潰せるし。


ご覧頂きありがとうございます。

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