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0026 幼馴染みvsライバルvs妹(1)

 兎にも角にも思ったより平穏に事が済んでよかった。それがなによりの結果だ。

 

 あとはこのまま波乱なく過ごせることを祈るのみ。

 

 まあ、もう不安要素は取り除けたから波乱なんて起こりえないと思うけど。

 

 祈る必要もないな、こりゃ。

 

 このとき、私は完全に油断していた。


 これで一週間に一度しかない完全オフの日を平穏に過ごせる。

 

 あとは自室でシュークリームを食べジュースを飲みながら剣さんとダラダラ会話してたらいい、と。

 

 しかしそんな緩い展開――私には用意されていなかった。

 

 もしも、祈り続けていればなにかが変わったのだろうか?

 

 いや、そんなことはない。祈ろうが祈らまいがなんら変わらない。

 

 女の子三人から告白を受けたあの日、びっしりと根付く悩みの種を宿されたと同時に――。


 私は逃れられない波乱と隣り合わせを宿命づけられてしまったのだ。

 

 ピンポーンと、またチャイムが鳴った。


 お母さんがモニターで対応する。

 

 もしここであの子が来るようなことがあったら大変だな。

 

 劉備、曹操、孫権が揃って真っ青になるレベルの三つ巴の戦いが起こるぞ。


 まっ、勘繰りすぎだけどね。約束もしてないのに来るわけないじゃん。どうせ宅配便が、それともなにかのセールスか……。



「あら紬ちゃん久しぶりね!」


 

 お母さんがテンション高めの声を発し、私は腰砕けの変な体勢で駆け出す。


 モニター対応したお母さんより先に玄関を開けた。


「あっ、みーちゃんやっほー」

 

 うわ本当にいる⁈ なぜに⁈


「や、やっほー。……どうしたの今日は?」


「来ちゃった」


「いやテヘペロされても」

 

 つーちゃんは唐突な訪問を悪びれもせず、むしろ楽しそうだ。

 

 嫌な予感が見事に的中してしまって戦々恐々としている私の身になってほしい。


「紬ちゃーん、いらっしゃい!」

 

 私の背後からひょっこり登場したのはお母さん。この人も楽しそうだ。私の味方はどこにもいないのか?


「わあ、お義母様。ご無沙汰です」


「あらやだ、おかあさまだなんて。水琴と結婚して紬ちゃんも私の娘になる?」

 

 ひいいい、他の二人を焚きつけるようなこと言わないでぇぇぇ!


「なります~!」


「やった~! 娘が増えた~!」


「「いえーい!」」

 

 つーちゃんとお母さんは仲良くハイタッチ。私そっちのけでなにやってんのこの二人は⁈ 

 

 てかお母さん、つーちゃんは『ガチ』で言ってるからその気にさせないで!


「なんであんたも来たの?」

 

 廊下の先から冷たい声がした。陽菜だ。


「こら陽菜、なんて口きいてるの」


「いいんですよお義母様、こういうのも可愛いじゃないですか」


 陽菜の顔に一層険が出る。ピキッ、と効果音が聞こえてきそうだ。


「おかあさまぁ? あんた何様のつもりなの?」


「ふふふ、相変わらずつっけんどんだなあ。……ところでさっき『あんたも』って言ったよね? 『も』ってなに?」

 

 おお、つーちゃん、欲してもない勘の鋭さを発揮してくるねえ。勘弁して。


「どうしてあなたがここにいるんですの?」

 

 そして剣さんは登場しないで。

 なんとか上手い訳を考えて、君の存在を気づかれる前に帰ってもらおうと思ってたのに。


 楽しそうにしていたつーちゃんも、これには表情を変えた。


「っ……! それはこっちの台詞だよ。この展開はさすがに驚きだなあ」

 

 つーちゃん、剣さん、陽菜。三名が一堂に会し、皆揃って臨戦態勢だ。怖い。


「あら、紬ちゃんと麗華ちゃんもお友達同士だったの。ちょうどいいじゃない。みんなで楽しく遊べるわね」

 

 お母さん呑気すぎない? もっとちゃんと状況見て、バチバチだよ。取っ組み合いの喧嘩が起こってもおかしくない雰囲気だよ。

 

 楽しく遊べるような仲だったらどんなに嬉しかったことか。私は緊迫感に圧倒されて、ため息すら吐けず、冷や汗が額から垂れた。


「わ、私、自主練とか行ってもいい?」


「ダメだよ、みーちゃん」


「行かせませんわ、穴吹さん」


「ありえないから、お姉」

 

 さあ、穴吹家を舞台にした現代版三国志、大変不本意ながら開幕します。


ご覧頂きありがとうございます。

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