0016 ドライブデート(1)
つーちゃんと別れ、剣さんに案内されたのは学校をぐるりと回った裏門付近だった。
夜も遅く大通りに面していないため、人通りは皆無に等しい。そんな場所で闇に紛れるように、黒塗りの高級車が一台停まっていた。
剣さんは躊躇いもせず後部座席のドアを開ける。
「どうぞ」
「ああ、やっぱり剣さんの車だったのね……」
「はい、わたくしがいつも登下校の際に使用する車ですわ」
こんなので登校して目立たないのかな?
なんて疑問に思ったが、白百合女学園は超お嬢様学校だから、そんな人ざらにいるのだろう。海帝山高校にこれで登校しようものなら一週間は話題をかっ攫うことになる。
勧められるまま車に乗り込んだ。シートはフカフカで座り心地抜群。左ハンドルの運転席には品の良さを感じさせる初老の男性が座っている。お抱えの運転手ってやつだろう。
くぅ、さすが大金持ち。
格差社会を見せつけられているなあ。
「では出発してください」
「かしこまりました、お嬢様」
おお、いかにも主と使用人って感じのやりとりだ。
私の隣に座った剣さんが指示を飛ばし、車は走り出す。
ところで私、これからどこに連れて行かれるのだろう?
「どこに行くの?」
「海です。二十分もあれば着きますわ」
「海? この季節、こんな時間に?」
「別に泳ごうとしているわけではありませんわ」
剣さんはクスッと微笑みを向けた。
神奈川県民の私にとって海は馴染みが深い場所。だけど泳ぎもしないのに海に行った経験はあまり覚えにない。あ、釣りでもするのかな? 夜釣り。
釣りに興味がないわけでもないので少しワクワクした。
「この季節ってなにが釣れるのかなあ?」
「釣りをするつもりもありませんわ」
「ええ……じゃあなにするの……?」
「んー、回答が難しいですわ」
今度は子供のような無邪気な笑みを向けた。らしくない表情に私も肩の力が抜ける。
「なにそれ変なの」
追求する気も無くなり、完全に身を委ねることにした。
その後は特に会話のない車内だったが、だからと言って居心地の悪さは感じなかった。高級車に乗って夜のドライブなんて普段できることじゃない。窓から見える景色、目に入ってくるものが全て新鮮に思えた。
私達を乗せた車は走り続け、やがてどこかの門を通ったかと思えば、スピードを緩める。
そこから見えた景色が、また圧巻だった。
大量のコンテナが積まれた巨大な貿易船。眩しいほどに煌々と輝く明かりが、高く伸びたクレーンやいくつも連なる倉庫を照らしている。
たしかに海だ。でも私は、夏に海水浴場になるような砂浜のある海を想像していた。
それがまさか、埠頭に連れてこられるとは……。
これらの船やクレーンは、美しさを目当てに作られた物ではないだろう。けれども今そこに見える景色に、心惹かれる自分がいる。
「わあ……」
思わず声を漏らし、見入ってしまう。
しかし、ふと思う。
……ちょっと待って、ここでなにするの?
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