0012 お弁当は愛の証
ダラダラと授業を聞いているといつの間にか昼休みが始まって。
その途端、つーちゃんは教室を飛び出してどこかへ向かってしまった。
どこに行ったのだろう?
いつも一緒にお弁当を食べているので、取り合えず待ってみる。
すると十分もしないうちに戻ってきた。
「みーちゃんお待たせー」
ランチトートバッグを提げてやって来るつーちゃんは、なんだかとっても嬉しそう。
「どこ行ってたの?」
「そ、れ、はー、ちょっとだけ秘密」
ちょっとだけ秘密? 不思議な言い回しだな。
しばらくしたら教えてくれるってこと?
「楽しみにしとくよ」
「うん。してて」
深く追求する気もなかったので軽く流す。つーちゃんは空いていた前の椅子の向きを変え、私の正面に座った。
さて、いよいよ待ちに待ったお弁当の時間だ。
いつもお母さんが作ってくれるお弁当だが、今日は陽菜が作ってくれた。
陽菜のお手製弁当は何気に初めて。休み時間の度に中身を見てみたくなったが、そこはグッと堪えてお昼休みの楽しみに取っておいた。
期待を抱き、オープン!
「……げっ⁉」
蓋を開けた瞬間、身体中に電撃が走ったかのような衝撃に見舞われ、思わず変な声が飛び出した。
それはそれは陽菜の気持ちがよーく伝わる中身だったからだ。
一面、ハート。
ハンバーグもハート、卵焼きもハート、にんじんもハート型にくり抜かれており、白米の上にはハート型に整えられた桜でんぶが存在感を示している。
これは、すごい。
まさかお弁当でこうも真っ直ぐに気持ちを伝えられるとは思いもしなかった。
「みーちゃんのお弁当、なんだかいつもと違うね」
冷たい声に今度は身体が震えた。
顔を上げると、そこにはハートまみれのお弁当にじとりとした眼差しを向けるつーちゃんが。
怖い顔になってますよ、笑顔をどこに置いてきたの?
「は、ははは、そうだね、いつもと違うね……」
「それ、もしかして陽菜ちゃんが作ったの?」
「うん。そうだよ……」
「ふうん」
つーちゃんの表情が一層険しくなった。一種の敵対心のようなものを込めてお弁当を睨み付けている。
食べ物に向ける目じゃないと思うんですけど。
「ねえ、味見していい?」
「えっ、いいけど……」
了解すると、みーちゃんはハート型のハンバーグを真っ二つに引き裂くように箸を入れ、口へ運んで咀嚼した。
一噛みがやけにじっくりとした咀嚼は、まるで怨念を込めているような様だ。食べ方が怖い。
「……おいしい」
そして苦虫を噛みつぶしたような表情。
顔と台詞が合ってない。
「悔しい。負けてられない」
「え?」
なにをするのかと思えば、つーちゃんはランチトートバックからお弁当箱を……⁉
なんと二つ取り出した。なぜ?
「実はわたしもみーちゃんのためにお弁当作ってきたんだ。食べて」
「ええ⁉ でも私にはこのお弁当があるし……」
「前から思ってたことだけど、みーちゃんは運動量が多いからお弁当一個じゃ絶対足りないよ。それに……これからは夜にベッドの上で使う体力も考えなきゃいけないし。きゃ、言っちゃった! 恥ずかしい!」
夜にベッドでなにさせるつもり⁉
「は、ははは、でもさすがにお弁当二つは……」
「んー?」
「なんでもないです」
お断りの言葉は途中で遮られた。
ずいっと前に迫ってきたつーちゃんが『拒否は許さない』と圧力を放ってきたからだ。
さっきから色んな意味で幼馴染みが怖いよお。
「さあ召し上がれ。みーちゃんの大好物ばかり入れてあるからね」
「い、いただきま~す……」
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