0011 幼馴染みの攻め(2)
終始つーちゃんのペースに押されっぱなしのまま登校し、着いた。数分もすれば朝のホームルームが始まる、遅刻ギリギリの時間だ。疲弊した心を休ませる暇もない。
「みーちゃん、今日は生物の宿題の提出日だけど、やってる?」
「あっ、忘れてた」
ちなみにつーちゃんも同じクラス。自席に着こうとした際、宿題について聞かれた。
隅に張られた時間割表を一瞥する。生物は二時間目だ。
よし……間に合う!
「つーちゃん、見せて」
「もう、しょうがないなあ」
自慢じゃないが私はよく宿題を忘れる。そのたびにこうやって助けてもらっており、つーちゃんの文字を模写するのはお手の物だ。迅速に、そして隠密に事を実行できる。一時間目のうちに終わらせてしまおう。
「はい、どうぞ」
つーちゃんは笑顔で宿題のプリントを貸してくれた。
「いつもありがとう」
「ううん、いいの。だってこれからもずっと助け合いながら一緒にいたいもんね」
「う、うん。そうだね……」
昨日までなら『友達だもんね』と軽く受け止められていた言葉も、今日なら重圧を感じてしまう。
つーちゃんは私と友情を超えた親密な関係を築き、その上でずっと一緒にいたいのだろう。
「……ん?」
ふと、プリントのとある箇所に目が留まった。一番上の名前欄。
「どうしたの?」
「ここ、穴吹紬って書いてあるんだけど……」
「あっ、やだあ、わたしったら早とちり」
つーちゃんはお茶目な感じにテヘペロした。
私としてはとてもじゃないがそんな余裕は持てない。
友情を超える親密な関係、文字にして突き詰めると、こういうことなんだろう。
幼馴染みだから、付き合いが長いから、わかってしまう。
つーちゃんは、いつかは羽ノ浦という名字を捨て、穴吹を名乗りたいと本気で思っている。
「未来を見据えながら宿題してたらそうなっちゃった」
「見据えすぎだよ」
「わたし、もっと本格的に生物の勉強をしてみたいんだ。それこそ大学の研究室とかで」
あれえ? 意外と真面目な未来?
「人間の生殖に関して研究したいことがあってさ」
「……はあ」
なぜだろう、寒気がする。
これは真面目な話、だよね?
チャイムが鳴った。
ワイワイガヤガヤと騒ぐクラスメイト達の声と混ざり、教室は喧噪を極める。
そんな中、つーちゃんは私の手を取り、言った。
「IPS細胞って知ってる? 女の子同士でも赤ちゃんができるかもしれないんだよ?」
どうしよう、幼馴染みが見据える未来が怖い。
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