217 公爵令嬢は王妃になる
エレメント魔法学校を卒業して、しばらくフィアンマ伯爵領の引き継ぎ作業を行っていた。
私が領主でなくなる為に、領主補佐だったケンが代わりに領主になることになった。
長年領主代行を務めてくれていたアデンに領主を頼もうかと思っていたけど、「そういう大事な事は若い者がすればいい」とケンにその座を讓渡、今後は補佐をしながらのんびり生活をしていくのだと。
ただ、あの有名なフィアンマ伯爵領での補佐の仕事がのんびりできるとは私は到底思えないけど。
卒業前から引き継ぎ作業を行っていたため、スムーズに作業は終了。
これで、私は伯爵領の領主を完全に辞めた。
私の人生の半分を過ごした伯爵領、思い入れは勿論多い。
ただ、これからは伯爵領だけを見るわけにはいかない。
私は、王妃になるのだから。
結婚式まであと一週間、その生活は怒涛を極めていた。
結婚式、結婚披露パーティのドレスに食材の調達、来客のもてなしに記念品の制作等、一分一秒も惜しいほど切羽詰まっていた。
勿論、魔法研究専門機関へは当分お休み。
久しぶりのフィアンマ公爵邸での生活に、のんびりする余裕は微塵もなかった。
お父様やお母様、お兄様、義姉のマリア様まで、招待客の管理や当日の準備に大忙し。
大きくなった姪のスカーレットが唯一の救いだった。
「ふらんおねいしゃまのどれしゅ、しゅてち!」
あぁもう、君の笑顔の方がしゅてち!
そんなドタバタに塗れている私の元へ、ケンとポスカ君が大きな荷物を持ってやって来た。
二人は元々、ヤークン家の養子と執事長・メイド長の息子という繋がりで、仲が良かったんだよね。
「結婚式までに渡したいプレゼントがあります。」
「絶対に喜ぶと思うから、早く見て!」
出会って早々挨拶も雑に済まされて、重たい袋を渡された。
中に入っていたのは……なんと米!
「これ……どうしたの……?」
「極東の島国との貿易で、最近仕入れたものです。
フラン様がお喜びになると思い、急いで持ってまいりました。」
「お米の育て方も教えてもらったから、ヤークン侯爵領の農家にお願いして、田んぼも作ったんだ。
だからこれからは、お米も食べられるようになるよ!」
「「ぜひ、この食材で美味しい料理を作ってください。」」
私が転生した頃から切望していたお米。
それが遂に、手に入ったのだ。
「二人とも、ありがとう!
ずっと欲しかったものが、やっと手に入ったわ!
これで、美味しい料理をどんどん作っていくから、楽しみにしててね!」
まずは精米機を作成。
糠がまだ着いたままだったので、精米機に入れてジャラジャラと精米。
うん、中々綺麗に精米出来たみたい。
そのお米を、水でしっかりと洗う。
日本の精米機程の性能じゃなかったから、お米が割れないように気をつけながら僅かに着いている糠をとるためにお米を研ぎ洗い。
研ぎ汁が透けるようになるまで何度も水の入れ替え。
水が透明になったら、お米を綺麗な水にしばらく浸す。
透明な水が白濁したら、浸水完了。
続いて釜戸と釜を作成。
浸水させた水ごと釜にお米を入れて、中火で沸騰するまで火にかける。
強火で6分(地球時間で10分)程加熱したら、鍋の中身が噴いてくるので、そのまま噴くのが収まるまで火にかける。
収まったら火を止めて、余熱でしっかりと蒸らす
この時蓋は外さない。
はじめちょろちょろ中ぱっぱ、赤子泣いてもふた取るなってやつだね。
6分(10分)程蒸らせば、炊きたてご飯の出来上がり!
炊き上がったご飯で最初に作るのは、もちろんこれしかない!
手を濡らして塩をつけたら、三角に握る。
炊きたてだからめちゃ熱い!
あーでもこの感覚、すごく懐かしい。
握ったご飯に海苔を巻けば、三角おにぎりの出来上がり!
最初に食べてもらうのは、お米を用意してくれたケン、お米を生産してくれるポスカ君、そして今まで一番お世話になっているリッカ。
「フラン様、これは……」
「おにぎりだ、食べたかったんだろ?」
「……はい。
ありがとうございます……」
目を潤ませながら、ご飯にかぶりつくリッカ。
「……やっぱり、おにぎりって美味しいですね……」
そう言って、遂には涙を流してしまった。
食べさせてやれてよかったよ、リッカ。
他のふたりも大満足。
お礼を言われたけど、こっちこそ本当に感謝しかない。
遂に始まった結婚式。
国内最大の教会で、婚姻の儀を行う。
これは、王族や上級貴族が行う事で、私とロナウド、教皇以外の参列者は居ない。
その代わり、結婚披露パーティで派手に結婚をお祝いするというのが、この世界でのやり方。
勿論、私はそれに味付けをする。
教会でのやり取りは仕方ないにしても、王宮でのパーティでもう一度結婚式をするのだ。
新国王陛下誕生の場でもあり、実は私の誕生日でもある今日、国中の名だたる貴族やエレメント魔法学校で知り合った人達の多くが招待されている。
まずは婚姻の義を教会で終わらせて、教会から王宮へパレード。
フィアンマ伯爵領の領民もわざわざパレードの見学に駆けつけてくれた。
ブロッサム商会で売っている地球の民族衣装を着た人や、プリキュンやマジカルレンジャーのコスプレをした人達までいた。
私とロナウドは、参列者へ手を振る。
絶え間ない人の並をかき分けるようにして、馬車は王宮へ向かった。
王宮へ着いたら、まずは急いで衣装替え。
着替えたのは、ウエディングドレス。
会場には、既に多くの招待客とロナウドが待っている。
フラワーガールは勿論スカーレット。
私のドレスとお揃いのワンピースを着て、花を撒きながら先導してくれた。
そして、私はお父様と共にロナウドの元へ向かう。
ロナウドの隣に立ったら、パートナー交代。
これで、私はフィアンマ家の娘からアースフィールド家へ嫁ぐのだ。
この時点で既に涙でぐしょぐしょのお父様。
嗚咽を鳴らしながら、お母様の隣に帰って行った。
そして、ここで国王陛下が登場。
ロナウドへ王位継承が成される。
これで、今日からロナウドが国王陛下になった。
続けて結婚式に戻る。
なんと、国王陛下に神父さんの役目をしてもらうのだ。
「新郎ロナウド・アースフィールド、そなたはをフランドールを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓うか?」
「誓います。」
「新婦フランドール・フィアンマ、そなたはロナウドを夫とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓うか?」
「誓います。」
「これにて誓いが交わされ、二人は夫婦となった。
誓いの印に、互いの指輪を交換せよ。」
元々婚約者や恋人へ指輪を贈ることはあっても、この結婚指輪ってのはこの世界には無い文化。
お互いの薬指に、治癒魔法の効果の着いた魔宝石をあしらった指輪をはめる。
「では、誓いのキスを。」
そして、私とロナウドが口付けをして、結婚式は終了。
このまま結婚披露パーティに突入する。
「フラン様、ロナウド王子、でなく陛下、とても素敵な結婚式でした!」
「私、感動して泣いてしまいました。」
「リリーちゃんもローズさんも、ありがとう。
すごく嬉しいわ。」
「二人の結婚式、俺が神父やってやろうか?」
「ぜひ!
私達も半年後に結婚するので、フラン様にお願いしたいです!」
「フランにかよ!」
「わ、私はまだお相手が決まってないので……」
「まだレオと例の少年のどちらかに決めてないの?」
「い、いえ、その、私が選ぶだなんてそんな、烏滸がましいですから……」
と、噂をすればセシル様、レオ、例の少年が。
「先程の結婚式、とても素敵でした!
是非、僕たちの時にはフランさんにお願いします。」
「お前もフランかよ!」
「ローズさんの時も私がやってあげるわよ?」
「マジっすか?
じゃー俺チョー頑張っちゃお!」
自分だって負けない!と例の少年も気合が入っている。
そんな二人の様子に、ローズさんは真っ赤っか。
しばらくして、アンリさん、ウッディ君、ビクター君、カーネル元生徒会長、ミラ元副会長、エリックがまとまって私たちのところへ来た。
「結婚おめでとうございます。」
「二人とも、とても素敵でしたよ。」
「ボク、感動して、泣いちゃった……」
「実に貴方達らしい結婚披露パーティですね。」
「フランドール嬢、本当に美しいよ。」
「ったく、人前で……キス……とか、恥ずかしくねえのかよ。」
エリック、『キス』の言葉だけで照れるとか、どれだけ初心かよ。
卒業後、アンリさんは国営魔道士団、ウッディ君はエリックと同じく国営自衛団、ビクター君は近衛騎士団に就職先が決まった。
そして私は王妃、ロナウドは国王。
こうしてみんなと集まれるのも、もしかすると今日が最後かもしれない。
「いえ、お二人にお子様がお生まれになった暁には、また私達をパーティに誘って下さればいいじゃないですか!」
それ、ナイスアイデア!
てか、もう子供の話!?
「いや、至極真っ当な話だ。
二人の子供なら、さぞかし可愛いだろうな。」
生まれてもない私達の子供を想像し、既にデレているミラ元副会長。
パーティ会場には、私が今まで作った料理の数々が用意されていた。
そしてその中に、おにぎりも並んでいる。
不思議な形をした食べ物に一瞬こそ手を取るのを躊躇っていた招待客だったけど、私の料理の美味しさに安心感があったのか、すぐさま手を伸ばす。
「な、なんだこのモチっと甘い食べ物は!?
麦とはまた全然違う食感だ!」
「ほんのり効いた塩加減がいい塩梅で、口の中で握られていた粒がホロホロと解けていく!」
「ダメだ、次から次へと手を伸ばしてしまう!
なんて恐ろしい食べ物なんだ……!!」
でしょう!
お米は本当に美味しいんだよ、用意してくれたケンとポスカ君に改めてお礼を言った。
「麦のような粒が、あれ程甘く美味しいとは知りませんでした。
フラン様の料理の腕前があってこそです。」
「こんなに美味しい食べ物なんだもん、どんどん作っちゃわないと損だよね!」
ポスカ君は相当気に入ったみたいで、秋まで収穫が待てず魔法で作っちゃおうかと言わんばかりの勢いだ。
結婚披露パーティは大盛り上がり真っ只中。
衣装替えに部屋に戻ると、リッカとレベッカちゃんが待っていた。
「フランちゃん、今日は本当におめでとう。
私も結婚式見たかったわ、残念。」
「おめでとうございますフラン様。
この日が来た事に、心からの喜びを申し上げます。」
「ふたりとも、ありがとう。
でも、今日からが私達のスタートよ。
王妃は今までとは比べ物にならないくらい忙しいらしいわ。
覚悟しないとね。」
「えぇ?
あんなに忙しかった今までより、更に働くつもりなの!?」
「フラン様、お妃様がお忙しい立場というのは承知ですが、程々にお休みくださいね。」
衣装替えを終わらせると、ロナウドの迎えが来た。
再び、パーティの会場へ向かうのだ。
「これからも、俺の恋人として隣に立っててくれるか?」
「もちろんよ。
ロナウドも、いつまでも私の隣にいてね。」
そしてキスをして、二人でパーティ会場へ。
私達の人生は、ここから始まるのだ。
長らくのご愛読、ご閲読ありがとうございました。
今後、番外編として不定期に連載するかもしれませんが、フランが公爵令嬢ではなくなったのでここで一旦終了させていただきます。
途中体調不良で半年程お休みを頂いたこともありましたが、ここまで毎日書いてこられたのも、読者の皆様のおかげです。
面白かった、続きが読みたいという方からの、ブクマ、評価、感想、レビューをお待ちしております。
大変ありがとうございました。





