192 公爵令嬢は恋をする
王都に着いた私達五人は、王宮へ向かった。
客間で暫くの休息を貰って、国王陛下との謁見がある。
私達が政府からの救助活動要請があってから今朝被災地を出発するに当たっての詳細を伝えた。
私が、意識も朦朧に街の半分以上を一人で救助していた事に対して、国王陛下は改めて驚いていた。
「魔力、体力共に限界を超え、意識すらない状態でそれほどの事をやり遂げてしまったとは……
フランドール、本当によく頑張ったな。
そなたが無事で心より安心した。」
リリーちゃんとローズさんが私への回復を止めたことに対して、国王陛下は深く追及することは無かった。
二人もまた私と同じく、魔力はなくなって、体力も限界だったからだ。
そんな状態で私のサポートなんて出来るはずもない。
完全に、私が暴走していただけだった。
今回の災害救助で一番の収穫は、闇属性魔法の活用。
影魔法の亜空間収納、重力魔法での飛行移動は、闇属性持ちの中でも限られた人しか出来ない事らしい。
なかでも、毒魔法という新しい闇属性魔法の発見は、魔法の歴史の中でも革命的な出来事だという。
もっと早く国王陛下や魔法機関に報告すべきだったのかな。
これらの件で、私達五人は国の一部の地域を救出したとして二ツ星勲章を与えられることになり、更に私は男爵位から伯爵位へ陞爵する事になった。
フィアンマ男爵領は、褒賞式後には伯爵領になるのか。
アデンやケンはなんて言うだろう。
褒賞式はそつなく行われて、その流れで祝賀パーティへと移る。
勲章を受賞した私達は、祝賀会で改めて挨拶をし、パーティが開始された。
でも、私はいつも以上にパーティに乗り気でない。
今回の災害で、私の欠点が浮き彫りになったと思う。
無我夢中になると、我が身を顧みない。
これは俺の欠点でもあった。
俺も、実験に夢中になり過ぎて過労で死んでしまっている。
フランドールの中には俺も私もいるのに、お互いが欠点を助長しあっている。
それにストップをかけてくれたのがロナウドだった。
ロナウドがいなかったら、今頃私はどうなってたんだろう。
「フラン、ちょっと二人で話しないか?」
ロナウドから声を掛けられた。
二人でバルコニーへ向かった。
慌ただしい一日は時間が過ぎるのも早く、すっかり日が暮れた晴天の夜空には、満天の星が散らばっていた。
「俺さ、この災害救助で分かったことがあるんだ。」
無数の星を反射するロナウドの蒼い眼が、憂いを持ってこちらを見ている。
「あっちに着いてすぐ、フランの様子がおかしかったのはすぐ分かった。
それなのに、直ぐに俺はフランを止めることが出来なかった。
もっと早くフランを助けてあげれば、あんな辛い思いをする事も、させることもなかったんだと思う。
本当にごめん。」
「謝ることは何も無いわ。
ロナウドが止めてくれなきゃ、今頃私はどうなってるか。
本当にありがとう。」
「俺さ、本当に怖かったんだ。
今までずっと一緒にいたフランが、もう目を覚まさなかったら……
一緒に話したり、美味いもん食べたり、ダンスの練習したり、みんなと一緒に遊んだり……
それがもう二度と出来なくなるんじゃないか……
そう思うと、気が狂いそうになったんだ。」
いくら謝っても、足りない。
私のせいでロナウドを苦しめてしまった。
「その時初めて気づいたんだよ、俺はフランに恋してたんだって。」
真剣な顔のロナウドの姿に、胸がキュッと締め付けられた。
「前にフランが言ってただろ?
『恋が何か分からない』って。
俺は、フランを失うかもしれない、そう思った瞬間、悲しみや悔しさだけでなく、愛しさと恋しさを感じたんだ。
こんな時に自分の気持ちに気づくなんて、今更遅すぎる、とか思ったよ。
でも、俺の中でフランの存在は、本当に大きなものだったんだよ。」
私の手を取るロナウド。
バルコニーの手すりを触っていたその掌は、手すりに熱が奪われて少しひんやりしていた。
「きっと初めて会った時からだったんだ、フランに恋をしたのは。
ずっと、俺にとって特別だったんだ。
他の誰でもなく、俺の事を見ていて欲しいと思ってたんだよ。」
握りしめた手に力がはいる。
初めて出来た私の友達。
俺を思い出してからの記憶には、ロナウドはいつも居た。
出会いは喧嘩から始まったけど、仲直りして、二人でお饅頭を作って。
セシル様やポスカ君、ケン、レベッカちゃん、リリーちゃんと出会って、友達が増えて、みんなで遊ぶようになった。
それでも、私の中ではロナウドは何故か『特別』だった。
その時の『特別』が恋か愛かと言われれば、きっとまだそういったものではなかったと思う。
でも、いつでもロナウドは私の『特別』だった。
それは今も同じ。
恋や愛が何か分からず模索したこともあった。
その時にはまだ、この気持ちには気付けてなかった。
でも、今ならはっきり言える。
私は、ロナウドに恋をしている。
そう意識した途端、身体が急に熱を帯びる。
全力疾走した時のような、いやそれ以上に潰されそうに苦しくなる胸。
早くなる鼓動。
焦りと恥ずかしさでいっぱいになって、思わず涙が滲み出る。
「フラン?」
ロナウドに呼びかけられて、ふと我に返る。
「な、何?」
焦りで裏返りそうになる声を懸命に落ち着かせて返事をする。
すると、ロナウドは私の前に跪いた。
「もう二度と、フランを手離したくない。
俺にとってフランは特別な人であるのと同じように、フランにとって俺が特別な人でありたい。
婚約者としての今も、将来結婚してからも、これからずっと俺の恋人でいてくれないか。」
まるでプロポーズのような愛の告白に、思わず見とれてしまった。
心から色んな気持ちがどんどん溢れてくる。
嬉しい。
大好き。
愛してる。
しあわせ。
「こちらこそ、心よりお願い致します」
差し出された手を取ると、さっきよりずっと暖かくなっていた。
握られた手の甲にキスをされる。
ドクドクと強く、早くなる鼓動。
立ち上がり私を見つめ返すロナウドの顔は、赤くなっていた。
言葉なく、ただ見つめ合う。
この時間に、堪らなく幸せを感じる。
「あ、こんな所にいたんですね。」
セシル様の声で、現実に帰ってきた。ただいま。
舌打ちが聞こえた。
ロナウドも帰ってきたのね、おかえり。
「お二人共、何をなさっていたんですか?」
「国王陛下がお呼びですよ。」
厳しめな視線を向けるリリーちゃんとローズさん。
べ、別にいやらしい事してたとかじゃないのに。
ふとロナウドの顔を見る。
さっきまでの赤ら顔はすっかり元通り、いつものロナウドに戻っていた。
目があって、ふっと思わず笑い合う。
「じゃあ行くか。」
「そうね。」
私達は再びパーティ会場に戻った。
いつもご覧頂きありがとうございます。
作者が体調不良のため、更新を一週間ほどお休みさせて頂きます。
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次回更新は2月1日を予定しています。
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