190 公爵令嬢は災害救助をする3
村での活動に時間がかかり、随分と日が傾いてしまった。
後のことは村人たちだけでも何とか出来る、と言われたので、再び中心街へ向かう。
村からそう離れていなかったので、20分程で到着。
現地は、本当に酷いものだった。
見渡す限り瓦礫の山で無事な家屋はほぼ見当たらず、道端には多くの怪我人やご遺体で溢れていた。
「瓦礫に埋もれて動けない、助けてくれ!」「家族が家の下敷きに……」と言う声があちらこちらから聞こえてくる。
時折聞こえる、瓦礫の崩れる音。
身の毛がよだった。
私は早速、現状を通信用魔法陣で政府に報告。
村での救助活動の件も同時に伝えた。
次に、避難者が多く集まる場所へ仮説避難所を作り、リリーちゃんに怪我人の治療をお願いした。
避難所へ支援物資を置いたあと、私とローズさんで人命救助。
サーモグラフィーで人影を探し、ローズさんの重力魔法で瓦礫を浮かせ、瓦礫で作った石ゴーレムで被害者を救出。
これを繰り返して、無事だった被災者はリリーちゃんの元へ、残念ながら亡くなってしまった方達は広場に作った慰霊所へ並べて熱魔法で零度まで熱を奪う。
夏が終わりかけという暑い季節、このままご遺体を放置してしまえば疫病の原因になってしまう。
これを、体力の限りひたすらに続ける。
夕暮れ間際にロナウドとセシル様も到着して、五人で救助活動開始。
日が完全に落ちてしまったけど、リリーちゃんの光魔法で街を照らして救助活動は継続中。
稼働できる瓦礫ゴーレムをどんどん増やして、瓦礫の撤去と人命救助、魔法陣による現状の報告を休まることなく続ける。
中心街とあって、どれだけ活動しても無くならない瓦礫に増えるご遺体。
気が狂いそうになるこの現状を、リリーちゃんの状態異常回復魔法で精神安定させ、疲れの溜まった身体をローズさんの毒魔法で疲労物質を排除してもらいながら、只々只管に救助活動をしていく。
「おい、フランいい加減休め。
救助しに来たこっちが身体壊しちゃ本末転倒だろ?」
ロナウド以外の三人にも休憩を勧められたけど、どうしても私には出来なかった。
身体がどうしても動いてしまう。
時刻は間もなく五時、地球で例えるなら深夜零時。
四人は交代で仮眠を取っている。
でも、私は休めなかった。
「「お願いします、少しだけでも休んでください!」」
リリーちゃんとローズさんは、遂に私の回復を止めて、この言葉しか言わなくなってしまった。
それでも休むなんて、私には無理。
体力はとうに限界を超えて、魔力ももうほぼ空っぽ。
それでも、そんな身体を酷使して、気合いだけで動いている。
もう夜が明けて空が薄明るくなった頃、意識は朦朧として、私はとっくの前から身体が勝手に動いているだけの状態になっている。
「いい加減にしろ!
フランに何かあったら、みんながどう思うか考えられないのか!?」
ロナウドが私の両肩を掴み、動きを封じた。
「……目の前にいる、助かるはずの命が、私が止まったせいで助からなくなるなんて、耐えられない……」
さっきまで温もりのあった人影が、目の前でどんどん冷えていく。
そんな光景をずっと目にしている。
これ以上、私の目の前でもう誰も死なないで。
それが例え、見ず知らずの人だとしても。
「っフラン!」
次の瞬間、ロナウドが私を抱きしめていた。
「フランがもしも、これ以上自分を酷使し過ぎて最悪の状態になった時、俺達が何も思わないと思ってるのか!?」
その言葉を聞いた瞬間、冷静になった。
俺が死んだ時、その後何があったかは分からない。
でも、残された家族からすると、ショックな出来事だったに違いない。
不幸にあったのが自分の事だから分からなかった。
でも、自分の周りの人に、こんな辛い思いをさせてはいけない。
そう思った瞬間、身体がガクガクと震えて、涙が止まらなくなった。
「俺がいる。
セシルやリリー、ローズだってここにはいる。
無事だった被災者だって、救助活動を始めてる。
もうじき、騎士団だって到着するだろう。
任せられる人がここには沢山いるんだ。
お願いだから、もっと、俺を頼ってくれ!」
そう言われて、えも言われぬ感情がぶわっと大きく湧き上がる。
「……お願い、みんなを、ここにいるみんなを、助けて……」
「任せろ。
フランの望みは、俺の望みだからな。」
ロナウドの返事を聞き終えた瞬間、私の意識は途絶えた。
目が覚めると、見慣れない広くて低い天井があった。
少しも疲れの溜まっていない身体を起こして、辺りを見回した。
「ここは……?」
「フランドール令嬢、目を覚まされましたか!」
女性騎士団の一人が私に声をかけてきた。
「ここはフランドール令嬢が作られた仮設避難所です。」
仮設避難所の一番奥で、私は眠っていたのだ。
「私はどのくらい眠っていたの……?」
「我々が到着して三日程、眠っていらっしゃいました。」
「みっ、三日間!?」
やってしまった。
たった半日無理したせいで、三日間も寝込んでしまっていたなんて……
「街はっ、みんなはどうなってるの!?」
「我々騎士団が到着するまでに、人命救助はほぼ終わっていました。
フランドール令嬢、多くの人を救って下さり、心より感謝致します。」
それを聞いて、少し安心した。
ロナウドやみんなが、頑張ってくれてたんだ。
みんなにはしっかりとお礼を言おう。
「「フラン!!」」
声をかけてきたのは、ロナウドとお兄様。
一足先に駆けつけてきたロナウドに、力強く抱きしめられた。
「良かった、本当に良かった……
いつまでも眠ったままだから、このままずっと目を覚まさないんじゃないかって本気で怖かった……」
初めて出会った時以来に見るロナウドの涙。
これ程に心配をかけてしまったのだと、酷く後悔した。
「っ……ゴメンなさい……
もっと、みんなの声をしっかりと聞いておけば、こんな事にならなかったのにっ……」
ロナウドの背中に手を回して、力を込める。
抱きしめあっている私とロナウド二人をお兄様がそっと抱き寄せた。
「フランは昔から無茶をしていたけど、これほどの規模になるとは思ってなかったよ。
これからは笑い話になる程度に収めてくれよ?」
冗談ぽく言うお兄様だけど、手が震えている。
お兄様にも迷惑をかけてしまっていた。
「ゴメンなさい、お兄様……
次からは程々にします。」
「ははっ、よろしく頼むよ。」
少し力なく笑ったお兄様は、姿勢を改めてロナウドへ跪いた。
「ロナウド殿下。
騎士団小隊長として、この街の多くの命を救って下さり、心より感謝申し上げます。」
「この街を救ったのは、殆どがフランだ。
夜明け前まで自らを酷使して、彼女たった一人で街の約七割近くを救ってくれたのだ。」
意識が朦朧としてて気付かなかったけど、それだけ出来てたんだ。
自分でも驚いた。
「そして、フランドールの兄として、僕の大切な妹を守ってくれて、本当にありがとうございます。」
「ああ、このような事態になってしまい心配をかけたが、彼女は小隊長の妹であり、俺の妻に、王妃になる女性だからな。」
ロナウドの言葉に、心を強く打たれた。
そうだ、ロナウドと結婚をすれば、いずれ王妃になるだろう。
そうなれば、目の前のことだけではなく、全体を見て行動しなければならない。
一時の感情に振り回されては行けない、と心から反省した。
それと同時に、私はロナウドへの気持ちが大きくなるのに気付いてしまった。





