180 公爵令嬢は魔女を実験台にする
ローズさんは今、とても大変な過去を私に打ち明けてくれた。
自分が闇属性持ちで生まれたために、両親からはそれを利用され、姉たちからはそのせいで虐げられてしまう。
どんどん成長する魔法によって、家族の自分に対する邪悪な心を読んでしまい、遂にはその心を操ってしまった。
とても過酷な人生だっただろう。
なぜこの世界のヒロインは、とても素晴らしい魔法を与えられていながら、自分の魔法のせいでこれほど酷い人生を送らなくてはならないのか、理不尽でならない。
私なんて見てご覧よ。
悩んだ時もあったけど、基本的に平和で楽しくて時々ゲンコツ食らう程度に幸せなんだから。
今のリリーちゃんも随分楽しく過ごせてるようだし、ローズさんにも幸せになってもらわなきゃ!
「ローズさんは、闇属性魔法で他には何が出来るの?」
「……影の中に無機物をしまい込むことが出来ます。」
「そ、それは、容量はどの程度?」
「認識できる範囲なら無限に。」
な、なんですって!?
異世界もののチートスキル、『アイテムボックス』が使えるの!?
「す、素晴らしすぎるスキルね!
これさえあれば、普段手ぶらで生活できるし、荷物をひったくられることもないわ!」
「はい、それを利用して、大商屋の荷物運びをしていました。」
「そんな小さな事程度で収まらないわ!
もしかして、その影の中では時間が止まってたりするの?」
「影に入れた時の状態で取り出せます。」
「本当に素敵!
じゃあ、いつでもどこでも揚げたてのポテチを食べられるじゃない!」
「……」
「ねぇねぇ、他にはどんな事が出来るの?
重量を操れるのなら、空も飛べちゃうの!?」
「一応……」
「素敵ね!
私、熱気球を作って操作も一通り可能なんだけど、まだ魔法で空を飛べないの!
私も頑張って、飛行型ゴーレムを作って、自在に空が飛べないかしら!」
「……」
「ねぇねぇ!
心の闇を聞いたり操ったり出来るのよね!
つまり、嘘発見器や尋問が使えちゃうのよね!
すぐにでも国営魔術団に就職できそうだわ!
あ、じゃあ、心の闇を消すことも出来るの!?」
「……それはやった事がないので……」
「じゃあ早速、実験してみましょ!!
ほら、あそこに魔法技術の先生がいるでしょう。
あの先生、私の顔を見るなり、私が悪事を働いてると思い込んでいつも殴ってくるの。」
「なんだと!?
どんな言いがかりだ!!」
「ほら、今にも私に殴りかかろうとしてるわ!
闇魔法で、ゲンコツ先生の心の闇を消し去ってちょうだい!」
ローズさんは戸惑いながらも、魔法技術の先生に何やら魔法をかけると、魔法技術の先生の周りからフッと闇が散った。
「おや、私は一体何を……?」
「やった!大成功だわ!!
ローズさんが常に一緒にいてくれれば、私はこれからずっと、ゲンコツ先生から一撃も受けることなく魔法を使う事が出来るわ!」
「何をしょうもない事考えてるんだ!」
結局ゲンコツを食らう。くそう。
「他にも色々と試しておきましょう!
来週には海事研究もある事だし、色々と魔法で出来ることが多い方が有利に動けるわ!」
試験休みの残り二日を使って、二人で模擬野営をする事にした。
案の定、というか、もちろんの如くリッカとレベッカちゃんが着いてくるけど。
まずは森までの移動。
必要な荷物は影の中に閉まってあるから手ぶらで楽チン。
移動は、私はゴーレムに乗って、ローズさんは無重力散歩。
魔法の練習で今日から二日間無重力生活を実践してみるらしい。
何それ楽しそう。
まず森へ入って食料調達。
そこでちょっと実験。
「ねぇ、闇魔法って毒感知とか出来る?」
「……やったことがありません。」
「じゃあ早速試してみましょ!
ここに二つのよく似た植物があるの。
片方はシャキシャキの食感が美味しい野菜なんだけど、もう片方は十日間嘔吐下痢を催す美味しい毒草。
どっちがどっちか分かる?」
そう言うと、二つの植物をじっと見つめていると、片方の植物に手をかざして何やら真剣に念じていると、植物から緑色の液体が出てきた。
「毒の抽出が出来ました。
こちらが元毒草です。」
な、な、な、なんて素晴らしすぎるのローズさん!
毒を見抜くだけでなく、抽出までしてしまうなんて!
重力魔法でふよふよ浮いている毒を錬金魔法で作ったビンに入れ、毒抜きされた植物の毒検知をしてみる。
完全に毒抜き成功。
ただの美味しい植物になってしまった。
「どうして毒検知だけでなく毒抜きまでしようとおもったの?」
「フランドール様なら、毒抜きして毒精製までしてしまうと思ったので。」
ローズさん、恐ろしい子!
狩りのノウハウをリッカに教わっていたけど、どれも直ぐに習得。
その際に、私が言っていた影縛りとかの魔法も試していた。
もちろん、自分の能力の一部にして。
レベッカちゃんから野営料理のイロハと怪我の際の応急処置方法を習って、こちらももちろん習得。
ついでに、体内の毒素や老廃物を抽出する実験もしていた。
もちろん、自分の能力の一部にして。
「リッカ様もレベッカ様も、とても優秀なお仕えの方ですね。」
二人の実力を呼吸のように取り込むローズさんこそ優秀の極みだよ。
一家に一人、ローズさんが欲しい。
影人形とゴーレムで見張りをして問題なく一夜を過ごせ、
翌朝から寮に戻る準備をした。
「あの、フランドール様……」
「どうしたの?
何かあった?」
「この数日間、とても楽しく過ごせました。
ありがとうございました。」
「私もとても楽しかったわ。
ローズさんの魅力が沢山知られたんだもの。」
「……私、今まで怖かったんです。」
「え?」
「五歳の時からずっと、私の魔法は悪いことにしか使えないのかと思っていました。」
話で聞く家族の元でなら、それも仕方の無い話だ。
「でも、フランドール様と過ごした、たったこの数日間で、考え方が全部変わりました。
純粋に楽しんでくれて、褒めてくれて、一緒に研究してくれた私の闇属性魔法。
……初めて人の為に役立てそうだと思えました。」
「当たり前じゃない。
世の中、役に立たないものなんて何一つないもの。
そもそも、ローズさんの魔法の技術力と性能と順応性はピカイチだわ。
世界中が貴女を羨んでしまうわ。」
そう言うと、ローズさんは泣いてしまった。
「……私、フランドール様と出会えて……
本当に嬉しいです……!
ずっと、ずっと、お慕いします……!!」
そう言って、以前のように言葉をつまらせてしまったローズさん。
私は彼女を抱きしめた。
「私もよ、ローズさん。
貴女のような素敵な女性に出会えて、本当に良かった。
ずっと、私の自慢の友達よ。」
そう言って、ローズさんが泣き止むまで抱きしめていた。
最近、魔法実技の先生は『ゲンコツ先生』と呼ばれるようになった。
命名早々、私は早速鉄拳を頭で受け止めるしか為す術が無かった。





