169 公爵令嬢は魔女と会話出来ない
新入生歓迎パーティが無事に終わり、いつも通りの生活に戻った。
一クラスしかないためクラス替えはなく、先生も繰り上がりで担当されるため、本当に何も変わらない。
強いて言うなら、座学に魔法陣や魔法科学の授業が増えたくらい。
やっと魔法使いらしい事が出来るとあって、俺的にはワクワクが止まんねぇ!
自由研究も、班別ではなく個人でする事になってるし、魔法科学の研究とあって、どこから手を付けようか迷っちゃう。
武術は相変わらず基礎トレだし、魔法実技は毎回ゲンコツをくらうけど、とても充実した毎日を送っている。
生徒会は相変わらず暇だった。
他の三人は剣技部に行っちゃったから、私は図書館で本を借りて中庭でゆっくり読むことにした。
お気に入りのベンチに腰かけようと向かったら、先客がいた。
一年生のダークヒロイン、ローズ・シュヴァルツ。
ゴスロリ系超絶コミュ障。
俺に勝るとも劣らない。
今日もポツンと一人でいた。
この子、俺的にはどうも他人事に思えない。
勇気を出して、声をかけた。
「こんにちは、隣いい?」
「はい。」
「どうぞ」ではなく「はい」かぁ……
よっぽど人に興味が無いのかなぁ。
私が隣に座ることに嫌悪感を抱いてる訳では無いみたいで、私が本を読み始めても席を立つ様子はない。
横目で見た感じでは、光の消えた瞳でボーッと一点を見つめてる様な雰囲気。
「どこを見てるの?」
「中庭全体を。」
こちらをチラリとも見ることなく、姿勢を変えずに返事をした。
「ここは陽がよく当って気持ちいいわよね。」
「はい。」
「ここはよく来るの?」
「いいえ。」
「いつもはどこにいるの?」
「特定はしてません。」
やっぱり話が続かねぇ!
うーん、会話するのが苦手とかじゃなく、嫌いなのかな?
「私が色々と話しかけるのは、迷惑だった?」
「いいえ。」
嫌とかではないのか。
「本は読む?」
「はい。」
「どんな本を読んでるの?」
「小説です。」
「へぇ、どんな内容が好き?」
「……いい話です。」
少し溜めた後に答えた。
そうか、つまり、ハッピーエンド的な小説か。
「私、ジャンル問わずに沢山本を読むの。
今度一緒に図書館で本を読まない?」
「……はい。」
よし、少しだけ距離を縮められたかな?
丁度私も本を読み終えた。
「じゃあ、また出会えたら声を掛けるね。」
「はい。」
っはぁー、なんか物凄く疲れたぁ!
でも、情報は多少なりと掴めた。
読書をするし、いい話が好き。
よし、今度ケンが来る時にいい話の本を沢山持ってきてもらおう。
うーん、俺も大概コミュ障だけど、これ程会話にならなかったっけ?
仕事のやり取りは必要最小限で、普段の会話は「いや」「別に」「どうも」で大概何とかなってて……
あれ、俺の方が愛想悪い?
どうやってやり取りしてたかわかんねぇ!
じゃあ、転生後にリッカと会話出来たのは、フランの高いコミュ力のおかげか?
そもそも、俺は他人が関わってくるのが好きじゃなくて、ローズさんは別に嫌ではないってところで、最初からベクトルが違うんだよ。
あぁ、俺って人付き合いに関しては全く役に立たねぇなぁ!
「そんな事ないわよ?
テルユキさんはとてもお喋りしやすいわ。」
そりゃ、リッカにはツッコミどころしかないから、自然とそうなっちゃうんだよ。
「それはフラン様だって同じじゃない。
テルユキさんがフラン様をツッコミする様に接していけばいいでしょ。」
それは私に対してとても失礼だわ!
それに、ローズさんのどこにツッコミどころがあるんだってば!
「『どうして目が死んでるの?』とか『その縦ロールは自前?』とか、色々あるでしょ。」
そんな事言えるわけねぇだろ!
はぁ、リッカに相談した俺が間違ってたよ。
「それはお前が一番知ってるんじゃね?」
ロナウド、それどういう事?
「初めて俺らが会った時って、俺は取っ付きやすかったか?」
あー、そう言えば昔のロナウドは自己顕示欲が強くてワガママだったな。
「あの時と同じようにすれば?」
つまり、ローズさんと喧嘩してボロカスに泣かせてから仲良くなれって事?
いやいやいや、ロナウドみたいに突っかかってきたり、あからさまな嫌悪感を出してきたりしないのに、どうやって喧嘩するの!?
あの時はロナウドをバカにしてもネタになってたけど、今回はシャレになんないって!
「ほぅ、やっぱりバカにしてたんだ?」
あーもう、口が滑って余計面倒な事になる!
「フラン様なら、どんな方とでも仲良くなれますよ。」
そ、そうかな?
「両親が亡くなって、私が初めて心を開いたのはフラン様ですもの。
フラン様と仲良くならなかった方はいらっしゃらないのでは?」
いや、私を利用しようとしたウノ君とアル君とは仲良くなってないけど。
「それに、今でもどんどんライバルを増やしていますし。
むしろ、この辺で留めておいて欲しいくらいですよ。」
リリーちゃん何の事言ってるの?
ダメだ、誰の意見も参考にならない。
もう、地道に声掛けしていくしか方法はないかな?
あ、噂をすればローズさん。
「また会ったわね。
今日はこれから用事?」
「いえ。」
「じゃあ、一緒に図書館に行かない?
私のおすすめを教えてあげる。」
「はい。」
相変わらず顔を見て会話してくれないし、いつも通り目が死んでるけど、一緒に図書館に着いてきてくれるってことは、少しは警戒心を解いてくれてるのかな?
図書館に着いて、早速おすすめの本をローズさんにどんどん渡していった。
持ち出しは五冊までだけど、館内での閲覧は無制限だからね。
机の上に山のように溜まっていく本を気にもとめず、淡々と本を読んでいくローズさん。
私ほどじゃないにしても、中々ペースが早いじゃない。
「おい、図書館の本を独占すんじゃねぇよ。」
あっ、ジョニー先生!
今いいとこなんだから、邪魔しないで!
「何がいいとこだ、他に読みたい人がいたらどうするつもりなんだ?」
それまでに読み終わって、元に戻せばいいじゃない。
「口答えも程々にしとけよ。」
脳天チョップを白刃取り、出来なかった。くそぅ。
気を取り直して。
「何かいい本は見つかった?」
「はい。」
「へぇ、どの本?」
「これです。」
ふむふむ、『魔女と賢者』という小説か。
村人から除け者にされていた魔女に賢者が手を差し伸べて、二人で世界を救っていく、という内容のものだったな。
確かに、これは中々の感動モノだった。
「私もこの話好きよ。
借りていくの?」
「いえ、持ってます。」
おぉ、既に愛読書だっのか。
「他にいい本があったら、私にも教えてね。」
「……はい。」
私がおすすめしたのに、いい本教えろって、変な言い方だったかな?
まあ、会話は少なかったけど、ちょっとだけ距離感が縮められたかな。
まだまだあと一年あるんだし、慌てずゆっくり仲良くなっていこう。





