160.5 国王陛下は公爵令嬢を想う
魔法学校に入学して、卒業まで会えないと思っていたフランドールは、功績をあげる度王宮へ来てくれている。
本当に嬉しい限りだ。
多少大人びた雰囲気は醸し出しつつも、昔と全く変わらず愛くるしい姿でいる。
フフっ、再来年から彼女に毎日会えると思うと、思わず頬が緩んでしまう。
入学後、最初にここへ来たのは、算盤という計算機を作った時。
天一地四玉算盤と百玉算盤の二種類を持ってきていたが、今では文官たちが計算をする時に大いに役立っていると聞いた。
儂も両方の算盤を使ってみたが、実に素晴らしいものだった。
初めの頃は百玉算盤でコツを掴み、慣れた頃に四玉算盤を使ったが、暗算よりも計算が早く、筆算のように無駄な紙を要しない。
それに何より、面白い!
計算に合わせてパチパチとリズム良く鳴る音、球を弾く心地良さ、御破算の際にズラリと五玉を弾く爽快感。
これは演算が楽しくなるに決まっている。
これは、商業施設の、ひいては国民の算術技能を大きく発展させるであろうものだ。
フランドールは、学校生活でも新しい発明をしていくのだと実感させられた。
これだけではまだ終わらない。
とある農村へボランティアへ行った際、新たな品種の麦を発見し、それを料理にしたという。
それが、餅という料理。
醤油に浸した餅にかじりつくと、醤油の香りが口いっぱいに広がり、噛みごたえのあるモチモチとした食感を楽しむ。
このような食べ物、この歳になって初めて知った。
齢五十をとうに過ぎておるが、歯を丈夫に保ちつつまだまだ長生きせねばならんな。
そう言えば、この餅という料理、とある国では毎年年明けに食べる習慣がある馴染み深いものだが、毎年多くの死人を出しているそうな。
そして、それを助けるために吸引型掃除具を使うと聞いた。
……なんとも命懸けな美食だ。
フランドールの言いつけ通り、しっかり噛んでから飲み込むとしよう。
この二つはまだまだ序の口。
なんと、フランドールは空を飛ぶ道具まで作ってしまった。
今まで、空を飛べるものは儂を含めて風魔法が使える極僅かな人のみの特権だったが、この発明は全ての人間に空を与えられるものだった。
フランドールが持って来た時はまだ試作段階だったが、魔法専門機関に依頼をし、気球の完成を急がせた。
結果、現在は魔法石がないため常用は難しいらしいが、訓練された火属性と風属性の魔力持ちがいれば遊泳可能な乗り物となった。
これはとんでもない革命だ。
自在に空が飛べるとなると、馬車の乗り継ぎや徒歩移動などが不要になり、かなりの速度で遠方の目的地まで行き来出来てしまう。
これを戦争に用いられてしまえば大変危険な道具だが、それ以上に利便性の高い道具として利用されるだろう。
この世の常識を覆されたと言っても過言ではない。
常識を覆すと言えば、フランドールはこの世の魂の存在のあり方すら疑わしいと言っていたそうだ。
なんでも、野外実習の際にオモカゲと出会したらしく、その原因がイキリョウではないかと言うものだった。
イキリョウとは、命がある状態で魂が肉体から離れている様子だという。
魂が肉体から離れるだと?
そんな常識離れした話、儂ですら信じられるはずがない。
しかし、フランドールの言うことは至極妥当。
むしろ、その見解以外で言い正すことが出来ない事実だった。
オモカゲの元となった魔猿が生きていた事、その魔猿が瀕死状態だった事、そしてそのオモカゲは身体から離れる事で潜在能力が遺憾無く発揮されていた事が最たる所以。
誰もが想像もし得なかった事実。
この話は魔法専門機関ですら肝を抜かせた程だった。
魔物研究の最先端にいるはずの彼らでさえ出し抜いてしまうフランドール、その思考能力の末恐ろしさに身の毛がよだつ。
そう言えば、フランドールがいた学校祭は、いつも以上に楽しかった。
歴代制服の展示物だなんて、かなり手のこった出し物をしていた。
このクオリティの高さは流石フランドールの一言しか見当たらない。
あと、何故息子は儂の黒歴史を暴露しておるのだ?
あれは後で説教確定ルートだ。
プリキュンという舞台劇も拝見したが、とても可愛らしい劇だった。
魔法使いが愛嬌のある振る舞いで悪を退治する話は、以前観たマジカルレンジャーを彷彿とさせた。
マジカルレンジャーはフランドール監修だと聞いていたから、プリキュンもおそらくフランドール監修であろう。
午後のエキシビジョンマッチは、初めてフランドールの戦闘を観る機会となった。
以前にこの教師と戦って負けたそうだが、今回こそは勝ってくれよ!
鉄粉に泥が飛び散るド派手な戦いは、とても愉快で楽しい戦いだった。
なんと言っても、フランドールの鉄ゴーレムの放つ技が面白い。
後ろ向きに仰け反り頭を打ち付けたり、足で踏み台を作ったゴーレムへ飛び乗り落下しながら体当たりしたり、両足を掴みあげてぐるぐる回してぶっ飛ばしたり……
今まで見た事のない愉快な技のオンパレードに、腹がよじれる程笑ってしまった。
そして最後の殴り合いが決め手となり、フランドールの勝利。
思わず立ち上がって「ブラボー」と言いながら拍手をしてしまった程。
魔法対決と言えば、学校内武闘会も面白かった。
音魔法と相手とは相性が悪く、何度もピンチにあっていたフランドールだが、相手の隙を着く技が盛り沢山で、固唾を飲んで見入ってしまった。
無事にフランドールが勝つことが出来、速攻で聖女が耳を治してくれていたが、もし聖女がいなければ、儂は騎士団長とその息子を処刑していたかもしれない。
これ程の偉業を成し遂げたフランドールだ、生徒会長になるのは至極真っ当。
生徒会に入るなり、いきなり作り上げた新発明、タイプライター。
四苦八苦手探りで作り上げたというそれは、儂に衝撃を与えた。
なんと、文字を書かずに文字が書けるという代物。
素早く記録でき統一された文字は重要記録書に使うに持ってこい。
試しに使ってみたが、算盤同様とても面白い。
カチカチとキーを押す音、改行の際になる鐘の音、まるでオーケストラで楽器としても使えそうな美しい音を奏でる書類記録道具。
たった一台しか貰えなかったのは残念だが、フランドールならいつか大量生産してくれるだろう。
一番最近此処に来た時は、今まで聞いたものと同じ、いや、それ以上に衝撃的なものだった。
なんと、二人掛りで副属性魔法を使ったという信じられない業績を上げてしまった。
儂だってそんな話、見た事も聞いたことも無い。
だが、実現してしまったのだ、そう、フランドールならね。
先ず、二人がかりで複合魔法をしようという発想が常識を逸脱しすぎている。
しかも、それを成功させたと言うではないか!
本人達曰く、まだまだ成功とは言いきれないと申していたが、実際には複合魔法を発生する事が出来ておるのだ。
早速王宮に呼び出して実践させてみたが、本来の姿とは程遠い形ではあるが見事に成功していた。
実に妙妙たる結果だ。
まぁ、あの音魔法に関しては早急に改善を願いたいが。
こんな素晴らしい女性が儂の息子の婚約者だと言うことは、今でも夢のようだ。
一刻も早く卒業して王家に嫁いで欲しいと切に願っている。





