133 公爵令嬢は海事研修をする3
目が覚めると、昨日見た低くて狭い天井(以下略
私もちょっと疲れてたのかな、いつもより少し遅めの起床になった。
とは言っても、起床時間よりは早いんだけど。
外を覗いてみると、ビクター君はちゃんと見張りをしていた。
「おはよう。
凄いわね、流石冒険慣れしてるだけあるわ。」
「あ……フラン様、お、おはようございます……」
「いつから狩りをしてたの?」
「も、物心ついた、時には……」
「そんなにも経験があるの?
もう、立派な冒険者じゃない!」
「あ、いや、フ、フラン様の方が、凄いから……
ボク、は、初めてで、これ程熟せる、人、み、見た事ないから……」
「うーん、私の場合は夜更かしが得意で魔法慣れしてるからね、他の人よりは有利かも。」
「そ、そこが凄いです……
ボクなんて、勉強も、魔法も、得意じゃないから……」
「でも、体力はとてもあるじゃない。
昨日の狩りだって、尊敬しちゃったわ!」
「ボ、ボクの場合は、経験だけ、だから……」
真っ赤になりながら答えてくれたビクター君。
いやぁ、ビクター君の新たな才能を発見してしまった。
「あ、起床の時間ね、二人を起こしてくるわ。」
……二人とも爆睡。
本当に、初めてで疲れてるんだろうけど、少しはビクター君を見習いなさい!
朝食は昨日獲ったうさぎ肉と野草のサラダ。
今日は肉だから、昨日よりお腹いっぱい食べられた気がする。
さあ、ここからが地獄の始まり。
砂浜でのランニングや筋力トレーニング、武器術や水泳をやっていく。
水泳は得意だからいいけど、他は勘弁願いたい。
みんなクタクタの身体に鞭を打ってトレーニング。
この私よりもヘロヘロの人が何人かいた。
元気なのは、リリーちゃん一班と、ロナウドとセシル様、そしてビクター君くらい。
普段は体力自慢のアンリさんもウッディ君も、今日のトレーニングには全力を出しきれてないようだ。
そして、この地獄のトレーニングは、学校に帰る日前日まで続く。
せっかくフィアンマ男爵領にいるのに、目の前にある娯楽や料理を何一つ触れることが出来ないまま、帰りを命じられる。
みんなの身体だけでなく、心すら打ち砕く仕打ち。
「「「これ程残酷な仕打ち、まさにゲスの極み!
地獄の所業だ!!」」」
意外とリリーちゃんが平気そう。
「昔の逃亡生活に比べればなんともありません。」
成る程、そう言えば彼女も過酷な人生を送ってたね。
さぁ待ってました、お昼ご飯。
今度は私が食料調達。
『領主がわざわざ足を運んで買い物をする』となると、どの領民も「何でも持っていけ」状態になる。
それも悪いので、一応値切って買わせてもらった。
カツオとペリカドロスの卵とうどん麺と食パン一斤で、総額小銀貨二枚(日本円で二百円程)
いや、みんなサービスし過ぎ。
遠慮なく頂くけど。
と言うことで、私達の昼食はカツオと溶き卵のうどん。
パンは明日の朝ごはんにしよう。
一班から四班までの贅沢な料理に、他のみんなはヨダレを垂らしている。
が、がんばれー。
昼食後からは水泳の時間。
私は、水を得た魚のように華麗に泳いでみせた。
「「「あ、あれ程ポンコツな運動神経の持ち主が、これ程までに優雅に泳ぐだなんて……」」」
いくら本当の事だからってポンコツとか言うな!
フィアンマ男爵領で海水浴に慣れている人達はいくらか泳げるみたいだけど、私ほど上手く泳げる人は誰もいない。
ハッキリ言おう。
カ・イ・カ・ン。
「……お前がこんなに水泳が得意だなんて、普段のお前からは想像も出来なかったぞ。
見直した。」
そう言って頭をなでなでしてくる。
だから、子供扱いすな!
夕方の調達係は、初日に手ぶらで帰ってきたウノ君と、一気にお小遣いの六分の一を使ってしまったアル君。
さて、今日はどうなるかな?
……はい、予想通り獲物はなし。
別にいいよ、カツオとうどんの残りがあるから。
今日の晩ご飯は、カツオの海鮮焼きうどん。
……この二人、何も出来ないくせに、料理だけは一丁前に食べるんだから。
と言うことで、見張りはこの二人が中番になった。
ビクター君が最初、私が最後という順番。
最近筋肉痛は出なくなってきたけど、今日は訓練でガッツリ疲れたから、しっかり休もう。
で、私の番になったので交代しにいくと……ウノ君今日も寝てた。
それ、見張りの意味あるのか?
朝まで見張りをしていると、夜明け前くらいにビクター君が起きてきた。
「おはよう。
こんなに早く起きて、どうしたの?」
「も、もうすぐ、日が登るから、ちょっと、狩りに……」
まぁ!なんて素晴らしい!
二人にビクター君の爪の垢を煎じて飲ませたいわ。
ビクター君のファインプレーもあり、朝食は野鳥のマヨネーズ炒めと食パン。
はぁ、うめぇ!
ご飯の時間だけ元気になる二人を見て、ビクター君と私は完全に呆れていた。
この地獄のような日々の繰り返しを十六日間も続けて行って、帰りは再び乗合馬車と徒歩。
「大体初めての野外活動はみんなバテバテになるんだけどなぁ、お前ら五人は凄いわ。」
リリーちゃん、ロナウド、セシル様、ビクター君、そして私は、ジョニー先生のお眼鏡に叶ったようだ。
そしてまた私の頭をクシャクシャと撫でる。
だーかーらー!
一班の三人も元気だけど、完全にリリーちゃんの善意のおかげだからね。
やっと学校に帰ってきた私達には、地獄の生活が待っていた。
それは、翌日から休日もなく普通に学校生活が始まる事。
みんな目が完全に死んでいた。





