104 公爵令嬢は鍋を食べる
秋も終わって、肌寒い風が吹いてきた。
フィアンマ男爵領は、他の領土に比べれば冬でも暖かい地域なんだけど、それでも日照時間は少なくなったし、潮風が冷たくなった。
しかも、温暖な気候に慣れている領民にとって、短い冬は特に寒く感じるらしい。
観光客はロングTシャツなのに島民はダウンジャケット着て震えてるっていう日本の南島でよくある光景に近いものを感じる。
ちなみに、私は寒く感じる派。
と言うより、俺の頃から寒いのが苦手。
栄養失調で筋肉も脂肪もない身体は高い体温を保てる訳もなく、常に体温は三五度台だった。
中でも耳や鼻が凄く冷えるので、ニット帽と耳あてとネックウォーマー(鼻まで被る)は必需品だった。
私は私で、春から秋まで過ごしやすいこの男爵領に身体が馴染みすぎて『冬いらない』って感じになってきた。
こんな季節はシチューとか美味しくなるよねー。
シチューはこの世界にもあった。
具材は地域によって違ってて、野菜が多い地域や肉たっぷりのもの、男爵領では魚介類がメインの具材になっている。
シチューにパンを浸して食べたり、チーズを乗せて焼いてみたり、日本ではシチュー丼とかしてたなぁ。
ホワイトシチューの隠し味にコーンスープの素を入れると、コクが出てより美味。
なので、冬の男爵領は海鮮クリームシチューか豚汁(具沢山味噌汁)が常に食べられている。
やっぱり身体を温めるのはスープ系だよね。
でも、忘れてないか?
冬に食べるものの代表作を!
そう、NA・BE☆
みんなでコタツに入って鍋を囲む、冬の定番じゃあないか!
俺は高校の頃を最後に一人鍋に変更せざるを得なかったけど、やっぱりみんなで食べる方が楽しくて美味しいんだよ!
家族だったから直箸とか全然気にせず鍋奉行やってたけど、それもいい思い出だ。
こっちでも鍋やりたいなぁ。
じゃあしよう。
やりたいんだから仕方がないね。
「今度は何を始めるおつもりですか?」
何をって、ご飯作るんだよ。
「最近特に忙しいのですから、空き時間が作れたのなら少しでも休憩なさってください。」
確かに、最近は今までの仕事に加えて引き継ぎ作業とかあるからめちゃくちゃ忙しいんだけど、だからこそストレス発散させてよ!
ここんところ全然実験とか研究出来てないんだから、余計にパァッと新しい事したいんだってば!
「……仕方ありませんね。
しかし、料理にどうしてこのような小さな小屋が必要なのですか?」
雰囲気から楽しみたいんだよ!
いいじゃんかその位!
「でしたら、魔法でどーんと一気に建ててしまえばいいじゃないですか。
なぜわざわざ大工を呼んで木造建てを?」
だから、雰囲気から入りたいんだって!
てか、魔法も結構体力使うんだからね?
ここ数年の建設業の反映で大工はめちゃくちゃしっかり育ち、足場や道具なんかで私も手伝ってるから、掘っ建て小屋を丸一日で作り上げちゃった。流石!
基礎部分は後で魔法でどうにでも出来るし、問題ないね。
「結局魔法は使うんですね?」
はい、その通りでございます。
次は、囲炉裏とコタツの作成。
まずは囲炉裏から。
床に穴をくり抜いて、その穴の大きさの炉を鉄板で作ってはめ込んで、囲炉裏框で抑え込む、吊り下げ式の簡単なタイプ。
砂利を敷き詰めて、釣具を付ければ完成。
次に、コタツ。
囲炉裏の隣に掘りゴタツを作った。
火鉢を穴に入れたあと蓋をして、足が火鉢に直接当たらないようにする。
一酸化中毒にならないように、火鉢を置くスペースから屋外へ抜ける煙突を作っておこう。
あとは、テーブルに大きめの布団をかけて天板を載せれば、コタツの完成。
舞台は整った。いざ鍋!
鍋料理には色んな種類があるけど、今回は寄せ鍋にする。
出汁は昆布とカツオと貝類、味付けは今回新しく作った醤油がメイン。
具材は、魚介類をベースに、ペリカドロスの柏肉、豆腐、囲炉裏で炙ったはんぺんや竹輪、野菜、他にもウインナーや卵焼き等入れたいものがあるなら何でもアリエッティ。
いい感じに火が通ったら、寄せ鍋の出来上がり!
うーん、ホカホカの湯気が暖かい。
こうして、男爵館のいつものメンバーを呼んで鍋パーティーのお誘い。
アデン、ケン、レベッカちゃんは案の定かなり食いついてきた。
リッカも前のめりに参加すると宣言したが「あくまで配膳担当として」だそうだ。
いや、普通に食べていいよ。
掘っ建て小屋の中に入ると、目の前の囲炉裏には吊るされた鍋にフツフツと湯気をたてる寄せ鍋、その周りを囲むように、フィアンマ男爵領名産の魚が串に刺さって炙られている。
飲み物は暖かい緑茶とホットワインを用意した。
そして、その囲炉裏の隣には、コタツとミカン(がなかったのでそれに近しい柑橘類)。
「何だか、この小屋の中だけ別世界のようですね……」
でしょうね。
なんせ日本の昭和初期をイメージしてるからね。
「この小屋は土足厳禁ですので、靴は脱いでください。」
この言葉に全員が驚く。
「人前で裸足なんてはしたない!」
いや、タイツや靴下履いてるじゃんか、細かいことは気にしないでよ。
みんなを囲炉裏の周りに用意した座布団に腰掛けさせて、寄せ鍋を取り分けてあげる。
「フラン様、それは私が」
もう、いいからリッカもお客さんやっててよ。
フワッと香る醤油と海の幸の匂い。
「わぁ、湯気だけで美味しい。」
レベッカちゃん、その例えは嬉しいけど、そんなひもじい事しなくても遠慮なく食べていいんだよ?
「ほぅっ、これ程までに具材が詰め込まれているにもかかわらず、一つ一つがあっさりとした出汁と合わさって優しい美味しさが口の中に広がりますねぇ……」
いつも素晴らしい食レポありがとう、リッカ。
「はぁ、この寒い時期の冷え切ったからだに染み渡るこの出汁たっぷりのスープと、異国情緒溢れるこの不思議な空間が、多忙な昨今の心も身体も癒してくれる……」
だよねえ!これを味わいたくてわざわざ小屋から作ったんだよ!
流石ケンは分かってるゥ!
「んー、これはホットワインにも緑茶にも合う、素晴らしい食べ物ですねぇ。
囲炉裏で炙った魚とも相性抜群ですな。」
あと一年で成人になるから、アデンと早く鍋をつつきながらお酒を飲み会いたい。
今は緑茶で我慢ガマン。
「こんなに何でもかんでもごちゃ混ぜに入れてるのに、すっごく美味しい!
流石フランちゃんだね!」
レベッカちゃん!褒めてるのか貶してるのかどっちなんだい?
さあ、具材の無くなった鍋に投入しますのは、ジャジャーン、うどん。
追いご飯も美味いんだけどお米ないから、今回はうどんにするよ。
「「「「!!このうどん、色々な具材の出汁がしっかり染み込んで、素晴らしく美味しい!!」」」」
でしょう。
鍋は最後の一滴まで美味しく頂きましょうね。
ご飯の後は、コタツをエンジョイ。
率先して私がコタツでゴロゴロー。
「フラン様!これは裸足どころじゃない程はしたないですよ!」
もぉー、みんなもコタツに入ればこの気持ち分かるから、試してごらんよ。
「ファー、体の力が抜けていくぅ……」
「いい感じに酔いも回って、極楽極楽。」
「コタツとハリンカ(ミカンもどき)って、相性抜群。
酸っぱ甘くて喉が潤う〜。」
「全く、仕方ありません、今回だけですよ」ゴロゴロー
結局みんなダラダラしちゃうんだよね、コタツって。
噂を聞いて男爵館の従業員がこの掘っ建て小屋を使いたいと言う意見が殺到、毎日行列の出来る施設になりましたとさ。
もう少し私にも使わせてよう!





