第四十四話『お仕置きじゃ』
ポチの背中に揺られながら屋敷にたどり着いた頃 、どうやら街へ逃げた男子生徒二人も無事に保護されたようで 、最初に保護された三人と同様に縄で縛られていた 。
蛍と美咲ちゃんは無事に美枝子と合流できたようで 、屋敷の外で俺たちの帰りを待っていてくれたようだ 。
しかし 、どらちゃんと一緒に夜空の空中遊泳に行った二人がまだ戻ってきていない 。
街に向かった二人は案の定闇の奴隷商人に捕まっていたそうだ 。
アルフォンスさんが見つけなければ 、異世界の果てにでも売り飛ばされていたことだろう 。
娼館のムチムチしたお姉さんの誘いにホイホイ乗ったらしい 。
「この縄を早く外しやがれ 、警察に被害届出すぞこら !」
「こんなことして良いと思ってんのか ? あぁん ?」
はやくも女性で痛い目にあったようだが 、どうも今ひとつ反省が足りないなぁ 。
いくら凄んでいてもここは日本じゃない 。
日本では彼らは未成年として保護される立場にあるが 、ここは慢心や軽率な言動が死に直結する世界だ 。
今回は協力してくれた皆のおかげで命を救われたようなものだけど 、守られる事が当たり前になってしまっている彼らには 、それがどれ程ありがたいことなのか分からないかもしれないな……
彼らはきっとこのまま日本へ帰しても同じような事を繰り返す だろう、さてどうしたものか……
暫く思案していると空からピンクのどらちゃんが舞い降りてきた 。
着地する寸前で両足に掴んでいた少年らを放したために地面に叩き付けられ 、悶絶している 。
人間優位な日本では熊や鹿などに遭遇する事は滅多にない 。
平和で良い反面 、危機意識が薄れてしまうのが困り者だ 。
自分よりも圧倒的な自然界の強者である 、どらちゃんによる夜間の空中遊泳は余程の恐怖を彼らに与えたらしい 。
彼らの下半身から腹部にかけては 、失禁で汚れてしまっているし 、恐怖で失神してしまっている 。
命綱なしで体ひとつで空中に放り出される恐怖は身を持って体験したからな 。
思い出しただけで冷や汗が…… うん !
彼らに実際に体験してもらうのも良いかもしれない 。
最初の三人は既に幸広の制裁を受けて反省しているようだし 、翼君と一緒にいた子達は伸びてる 。
翼君はどらちゃんよりもポチの背中にくくりつけたほうが懲りそうだな…… よし !
「どらちゃん ! 折角来て貰った所悪いんだが 、この二人も頼めないかな ?」
「はっ !? 一体なにいってやがんだよ 、このおやじはよ !」
「こんな架空の生き物に言葉が通じるわけないだろうが 、馬鹿じゃないの ?」
「いい加減にして !」
ヘラヘラと悪態をつく彼らを怒鳴りつけたのは蛍だった 。
振り上げた手は美咲ちゃんによって掴まれているため振り下ろされることは無かったが 、その間も蛍は男子生徒を睨み付けている 。
「あなたたちの勝手な振る舞いがどれだけの人に迷惑をかけたと思ってるの !? 元はと言えば 、あなたたちみたいな高校生にもなって善悪の分別すらつけられないお子ちゃまを連れてきた私が悪いのよ !」
「連れてきたことにあなたたちが私を批判するのはわかるし 、受け入れる。 だけどパパや助けてくれたみんなへの侮辱は認めない ! 絶対に絶対に認めない ! あなたたちが今無事でここに居られるのは誰のおかげだと思ってるの !? みんなに謝れバカァー !」
「蛍……」
普段の蛍からは信じられないほどの激昂に先程まで悪態をついていた生徒が黙る 。
「蛍 、まずはお前が皆さんに謝罪しなさい」
「……はい…… 皆さん申し訳ありませんでした」
自分の過失を理解でき 、素直に謝罪できるようになっただけでも成長したかもしれない 。
蛍は自分勝手な振る舞いで多くの命を危険にさらしたのだ 。
同じ過ちを繰り返すことがないように 、きちんと罰は受けなくてはいけない 。
「どらちゃん 、蛍と美咲ちゃんも同じでお願いします 。 ポチは翼君を頼む」
どらちゃんは器用に男子生徒を左右の前足で一人ずつ掴まえると羽を広げて宙へ舞い上がり 、男子生徒の片足を掴んで後ろ足へ持ち替えると逆さ釣りのまま空高く飛んでいった 。
夜空にひびく男子の絶叫に蛍と美咲ちゃんの顔色が優れない 。
「蛍の父ちゃん ! 一生のお願い ! 俺もドラゴンにしてくれ ! なぁ !」
「ダメだよ翼君 、それじゃあ罰にならないでしょうが 。ポチ 、ゴー !」
ポチは翼君の服を噛んで持ち上げると 、一気に跳躍した 。
「犬は嫌だぁぁぁぁあああ !」
おしい 、ポチはフェンリルっていう種の狼だから犬じゃないよ 。




