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第二十三話『酒場ががら空きな理由』

さて教会から王城へ戻るために出てきました 。


もうこちらの世界へ出入りするつもりはないしなぁと考えながら 、馬車が来るのを待たずに教会から城下町へ出た 。


まだ顔を覚えられては居ないようで誰にも停められる事なく城下町の散策を楽しめるのはありがたい 。


商店街となっている通りは活気に溢れ 、滅びの危機に晒されているようには思えなかった 。


しかし 、魔素が不足する事による出生率の低下の影響か 、まったくと言って良いほど子供の姿が見当たらない 。


やはり魔素がこの世界に及ぼす影響は計り知れないだろう 。


パンを焼く良い匂いに 、自分が空腹なのを思い出す 。


腕時計を見ればもう既に夕方の五時半を過ぎていた 。


朝早くから屋敷を出てきたのに 、思ったより随分と時間が経過していたらしい 。


目の前見えた酒場の看板を見つけてなにか食べさせてもらおうと店内への扉を開た 。


中には身体の大きな逞しい男性が音をさせながら食器を下げているところだった 。


「すいません 、もしかしてもう営業時間終わりですか ?」


「ん ? なんだ御客かい 。 今日はもう誰も来ないんじゃないかと思っていたんだが 、良いよ入んな」


店員さんに許可を貰ったので店内に入ると 、まるでカウボーイでも出てきそうな雰囲気を醸し出した酒場である事がわかった 。


「ありがとうございます 。 何処に座れば ?」


「そうだな……カウンターに座ってくれや」


対面式のカウンター席を示されたので腰を下ろすとクッション性が一切ない木材その物の固い感触がする 。


手触りの良いこの椅子は長年大切に使用されてきただろう 、艶々とした飴色に変わっておりこの店の歴史を感じさせる風格がある 。


「エールかい ?それとも葡萄酒 ?」


「あっ 、エールでお願いします」


客席からまだ手をつけられていない料理を下げた店員さんに飲み物を聞かれたので、ビールに似た飲み物であるエールを注文した 。


残念ながら地球の物より炭酸の刺激は少なく常温で出てくるが 、これはこれで旨いと思う 。


「その料理はどうされたのですか ? 時間的に酒場が混雑しているかと覚悟してやって来たんですが……」


周りを見回しても客はおらず 、大量の食べ掛けらしい料理と 、中身が入ったままのコップが客席であるテーブルに置かれたままだった 。


「ん ? 御客さんうちの店は初めてかい ?」


この店と言うか 、そもそも初めて異世界の酒場に入った訳だが 、曖昧に頷いておく 。


「しかし 、凄い料理の量ですね 。 みんな美味しそうな料理ばかりなのにもったいない」


次々と下げられる料理に食べ物を粗末にするともったいないオバケが出るのだと幼い頃から刷り込まれたもったいない精神が顔を出す 。


「あのーその料理 、良ければ買い取らせて頂きたいのですが ?」


俺の申し出に眼を見開いた店員さん 。 はてそんなに変なこと言ったかな ?


「いや 、食べるのか ?」


「そりゃぁ勿論食べますよ ? 美味しそうなのにもったいない」


俺の言葉に店員さんが次々と下げた皿のまだ手付かずの物をこれでもかと並べだした 。


三皿目を並べた時点で焦りが 、食べきれるか ? かなりの量だぞこれ 、一体何人前だよ 。


五皿目の時点でまだ並べようとする店員さんに流石に待ったを掛けた 。 ちょっと流石にこの量は厳しいぞ ?


一体どこのフードファイターの食事量だよ 。


何食分だこれ ! しかも俺が今持っている手持ちの硬貨で払えるだろうか 。


異世界で無賃飲食で警邏の世話になるなんて俺は 、ごめんだぞ !?


「あのうすいません 、流石にこの量は食べられませんし 、お金も……」


「金はとらないよ気にするな 、料理人として誰にも食べられずに棄てられるのは忍びないんでな 。 あんたが良ければ好きなものを摘まんでくれ」


豪快に盛り付けられた料理は野趣に富む豪快な盛り付けが魅力的だ 。


日本では決して見ないだろう大胆さ !


「この料理は全て貴方が ?」


「ん ? あぁ 、俺はこの店の店主をしているサントスと言う 。 まぁ 、店主兼料理人だな 。 本当は妻のパメラと一緒に切り盛りしているんだが 、城下で問題が持ち上がったらしくてな 、今は出払ってるんだ 。 その料理はその問題の野次馬をしに行った奴等の残しものだよ 。 遠慮なく食ってくれ」


「そうですか 、ではありがたく頂きます」


骨付き肉を焼いた一品を手で鷲掴み 、噛み付くと肉の旨味が口に広がる 。


香草で味付けがなされていて塩味が効いて中々に旨い 。


「しかしあんた旨そうに食うなぁ」


「俺が旨そうに食べてるんじゃなくてサントスさんの料理が旨いんですよ !」


「ははは 、それはよかった 。 まだまだあるからなどんどん消費してくれや」


さらに皿を増やされた 。


「流石に無理ですって 、それよりも問題ってなにかあったんですか ?」


パイのように見える料理を切り分けると 、中からホロホロと挽き肉と野菜が出てきた 。


スプーンがあったので救って食べればこちらも絶品だった 。


口に広がる肉汁と野菜の旨味 ……やべぇ 、旨すぎる 。どんどんいけるぞ 。


「あぁ 、教会の連中が魔石の使用を止めるように言われて反発したらしくてな 。 それで救世主様の不興を買っちまって 、ご自分の世界へお帰りになるってんで国中大騒ぎしてんだよ 。 全く 、魔石なんて高価なものいまだに使い続けてるのはお偉いさんだけだってのにな」


あれ 、どうやらもしかしなくても俺が原因か ?


エールを口に含み 、料理ごと飲み込んだ 。


「しかも王城と教会に殴り込みだとよ」


二口目に含んでいたエールはサントスさんの物騒な言葉によって 、気管に入り込み俺は盛大に噎せ込んだ 。

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