第十八話『教皇様は前任者だったらしい』
「救世主様!」
駆けつけた中から先日の夜会で紹介された教皇の御老体を見つけて頭を下げる。
「教皇様、昨日はご訪問出来ず大変申し訳ありませんでした。 実は今日は改めて教会の確認と、昨日お祝いを述べる予定だった新郎新婦のご夫婦に改めて昨日の謝罪とお祝いの言葉をと思っていたのでこれからお伺いしようかと思っていたのですが、どちらにお住まいかご存知ですか?」
「救世主様、それには及びません。 すぐに呼びにやりましょう。 実は教会も昨日から混乱の渦中にありまして……実は聖女が現れたんです!」
内緒話でもするように手招かれて近寄れば教皇様の話は突如現れた聖女……うちの奥さんネタでした。
「世界的な魔素不足で他者の命を自身の命で救えるほどの魔力を持つ娘が現れるなど前例の無い珍事でございます! これも救世主様! 貴方がこの世界へいらしたことで世界が好転した証です!」
先程までの小声は一体どこへやら次第に感情が高ぶり感極まって男泣きを始めた教皇様に続きひれ伏しだした教会関係者達に困惑するなと言う方が無理だろう。
「教皇様! ちょっとまっ! えーい!」
傍らに寄り小声で聖女の正体を告げると目を見開きこちらを凝視した。
「そういうことです」
絶句していた教皇様の肩をぽんぽんと優しく叩く。
「会わせてください!!」
「近い近い! 先日会いましたよね? また会わせるのは構いませんが、とりあえず落ち着きましょう?」
ぎりぎりと肩を握り潰されんばかりに押さえつけられ血走った目で詰め寄る教皇を押し返し、とりあえず場所を移すことにした。
案内されたのは教会関係者が居住区として使用している一角で10畳程の応接室だった。 白と黒を基調にした一見質素に見える部屋へ入るなり、教皇様は大司教らしい3人以外の人物を全て部屋から追い出すなり一斉に土下座を始めてしまう。
「ちょっと、教皇様!一体何を!」
「救世主様! どうか、どうか我らの主神をお助けください!」
「「「お助けください!」」」
えっ、あのぅ、この国って神様って実在するんですか?
「とりあえずお話を聞かせて頂きますし、できうる限り協力は惜しみません、ご説明いただけますか?」
ぽつりぽつりと説明しだした内容としては、主神となるのはこの国で生まれた男女の双子らしい。 教皇様が奉るこの国の代表的な宗教を双太陽神教と言うらしい。
季節がら今は地球と同じく太陽は1つだが、数年に1度2つになるらしく、そこから双太陽を崇めているらしい。
太陽が2つって流石は異世界!
なんでも数百年前に現れた聖女が奉ったと伝えたそうで、内容としては世界を創った神様がお姫様と王子様の双子神にこの世界の統治を託し治めていたが、地上に降りた姫神が人と恋に落ち、子を授かるが、双子の王子神に地上に降りることを禁じられてしまう。
ただ神の国に住むことが出来ない半神半人の子供を地上に残して全く会えなくなってしまうのは可哀想だと感じた王子神は、年に1度だけ親子で過ごすことを許したそうな。
常に出ている太陽が生者の国を統治する王子神、数年に1度に7日間のみ登る太陽が死者の国を統治する姫神。
姫神が登る季節は神が地上に降りるため、その年の善行と悪行でもって次の年の豊穣や幸福、災厄等を決定するとされている。
また、姫神の太陽が出ている7日間は死後の世界へと旅立つ季節であり、死後の世界では生者の世界での行いによって待遇が違うという宗教。
うむ、ところかわれば宗教もかなり違うもんだ。
基本的に宗教に対する意識が低い、ある意味なんでも教な俺としては宗教に忌避感も、強い思い入れもない。
伊達に八百万もの神様がいるイベント大好きな島国で育ったわけではないのだ。
その時々で自分に都合の良い神様を奉じるのは当たり前なのだ。
正月には神社で初詣だし、仏閣で除夜の鐘を鳴らす。
お盆や葬儀は仏閣だし、結婚式は十字架の前で讃美歌を歌い愛を誓った。
クリスマスに恵方巻、節分、娯楽提供されている本やゲームではいろんな神話に出てくる神々がごちゃ混ぜだ。
まぁ、八百万もいるからなぁ神様、今更1人2人増えてもあんまり変わらないだろう。
神様の使いとして男女の双子が生まれると祝福がなされ、特に魔素の強い双子が主神として大切に育てられるらしい。
成長するとそれぞれが王子神の教皇、姫神の教皇に就任するらしいのだが、当代の双子の教皇様が揃って病に倒れてしまったらしい。
しかし年々魔素の影響で双子どころか赤子すら生まれにくいご時世にそうそう代わりの人材なんているはずもなく、引退した前教皇様が王子神の教皇、姫神の教皇を再任されたらしい。
ちなみに教皇様を筆頭にそれぞれ教皇>枢機卿>大司教>司教>司祭>助祭>神父>信徒の順番で階級が分かれており、双太陽神教を信仰している国の皇族の誕生、死去、立太子式や戴冠式は必ず大司教以上の神官の承認が必要となるそうだ。
「歳を重ねるごとに公務が厳しくなり、このままでは死ぬに死にきれません! 是非とも彼らをお助けください! お願いいたしますぅ!」
あまりに必死な様子にたじろぎながらも、妻に聞いてみますとだけ告げて症状を聞くことにした。
発症したのは1年半ほど前で初めに症状が出たのは王子神の教皇だったらしい。
その1年後姫神の教皇も同じような症状で倒れた。
突然顔中が内出血で紫色に変わるほど強い嘔吐に見舞われ、生死の境を彷徨ったらしい。 教会は当時、毒物による暗殺の可能性を挙げて、徹底的に調べたらしい。
教皇から下男下女まで、食事の内容に大きな差異はない。
発症した日に教皇の食べた食品は毒物混入の可能性が強かったため、教皇の使用した皿と残されていた食物は教会内で捕獲したネズミに摂取させるなどしたが、何も変化はなく皿まで綺麗に舐めとるように食べきっていたそうだ。
ヒィヒィゼェゼェとした喘鳴と喉を詰まらせたような呼吸困難、そして腹痛、差し込み、嘔吐、下痢などを引き起こし、口元や、顔面、首筋、咽喉に走る血管は浮腫を起こし、そのまま意識不明になったそうだ。
症状は回復に向かったものの、回復後も同様の症状で倒れる、時折全身に赤く出る皮膚炎と繰り返される痒みに身体を掻き毟り仕方がなく拘束せざるを得ないそうだ。
思い当たる病気……。
それは毒などなく人を殺せる病、そう地球でも時折情報番組で取り上げられ、食事を提供する店では質問されることが増えてきたあれ。
「思い当たる病気があります。 教皇様、えっと……「リブロじゃ」リブロ様、今の教皇様方に会わせていただけますか?」
俺が聞くなりリブロ様はすぐに教会の奥深くへと案内を始めた。
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