第十六話『方針』
さてさて 、美枝子から正式に資金の提供を貰えることになったので早速今後の方針を煮詰めることにした 。
美枝子と蛍は仲良く王妃様の御茶会に呼ばれていった 。
なぜか王宮からの迎えに王太子殿下がやって来たが 、王子よ暇なのか ?
仕事しろ仕事 ! そんな若い頃からサボってどうする 。
タブレットとしても使える薄型パソコンをアンティーク仕様のローテーブルの上で起動して立ち上げる 。
ソファーの座面とあまり高さに違いがないのでやりずらいが 、とりあえずなら問題ないだろう 。
電波は飛んでいないのでネットに繋ぐことはできないが 、ケーブルと赤外線を駆使すれば 、使用する分には問題ない 。
始めに考えていた相互貿易は魔素の濃度差の関係で現時点ではほぼ不可能な事が判明している 。
後々はそれも可能かもしれないが 、物資の行き来は地球産の物に限られてしまっている 。
タマ様のようにこちらから地球へ行くことも可能ではあるが 、リスクがデカ過ぎる 。
前職を生かして旅行の斡旋も考えたが 、一度に地球人をこちらへ入れすぎては秩序が保てずにこちらの世界に悪影響を及ぼしかねないだろう 。
人数を制限するのは大前提だ 。また世界を渡る為の条件付けは必須だろう 。
俺が知らない間に無断で異世界に渡りたがる無謀な奴や 、便乗しようとして足元を掬いに掛かる奴も必ず出てくるからな 。
また企業登録なんかも地球の金銭を動かすならば手続きしなければならない 。
まさかこの歳で自分が起業するとは考えてなかった 。
基本的には個人経営になるからまぁ家族で頑張って自転車操業だろう 。
事務を雇うまでは美枝子に経理をしてもらうことで話をしようと決めた 。
一先ず今後の方針としては一定の人数を異世界に短期で受け入れて地球の金銭を稼ぐかな 。
その上でこちらの世界での行動に制限をかける 。
安全性はタマ様の腕輪があればなんとかなりそうな気がするし 、少し改良して貰って地球人で無謀な奴やヤンチャする馬鹿がいたら俺の判断で強制送還できるようにすればいい 。
あちらかの出入りには俺と美枝子の出入りは自由で良いだろう 。
蛍は……う~ん 、保留だな ……王太子殿下に現を抜かして学校を疎かにしかねない 。
暫くは俺か美枝子が一緒か許可がなければ通れないようにタマ様に設定してもらおう 。
ワードに思い付いた内容をパチパチとキーボードに入力していく 。
構想としては大金が動いても不自然では無いもの 。
旅行会社に勤めていた時に使っていたパンフレットを捲りながら 、目についたのは海外挙式を希望するお客様のために作ってあった見積書だった 。
お客様の希望は確かヨーロッパでの挙式で比較的豪華な挙式の計算だった 。
内訳としては挙式費用で約九十五万円 、挙式パック料金で約五十万円 、衣装は購入だったから約四十万円 、そういえばレンタルのが高かったなぁ 。
ヘアメイクで約五万円 、旅行費用約百四十五万円 、旅費百三十万円 、現地滞在費十五万円に何だかんだのオプション四十五万円 、現地パーティ費十五万円 、ビデオ・アルバム代金で三十万円 、合計で約二百八十五万円と自分で他社のプランを調べて絶句した 。
流石お祝い価格 ! まぁ 、日本で挙げても似たような金額だったからなぁ 。
恐るべしウエディング商戦 。
新婚旅行も兼ねてならこんなもんだろう 。
物価の差があっても比較的安価なグアム・サイパン挙式でも計算してみれば合計で約百七十七万円もする 。
まぁ 、異世界で結婚式なんてまず他社では扱えないだろうからなぁ 。
独占禁止法に引っ掛かりそうで怖いけど 。
取り合えずヨーロッパ価格で設定してみよう 。
親族や友人はおいおいだな 。
新郎新婦の礼服はこっちに腐るほどあるだろうから貴族連中からもう着ないドレスを買い取るか 、陛下や王妃様の衣装を下げ渡してもらおう 。環境に優しいリサイクルだ 。
あとで地球の新作ドレスが掲載された雑誌を王妃様に進呈しよう 。
現物を持ち込むのは簡単だけどできればあまり持ち込みたくない 。
地産地消を基本にして厳選しながらこちらに持ち込んでいきたい 。
どこまで言っても地球の物はこちらの世界にとって外来種だ 。
くぅ 、駄目だ !考えても仕方ない 。俺の頭ではそんな先の問題はなしだ 、なし !
考えすぎて頭痛がし始めた頭を左右に振りながら 、すっかり冷めてしまった地球から持ち込んだインスタントコーヒーを一気に煽り飲み干した 。
俺は紅茶よりもコーヒー派なのだ 。
「さて 、それじゃあ昨日のリベンジに行くかな !」
デジカメを首から紐で吊るして俺は屋敷を出た 。




