19話 触れない方が良い話
「浩之って読める事、沙織は知ってるのか?」
「多分気付いてないよ。でも...」
僕の問いかけに純玲はやや言い淀み
「浩之君は、多分気付いてる」
......そうなの?!とんでもない事を...と思いながら僕は純玲に、何故知っているのか聞いた。
純玲曰く、
(浩之君が小さい時)母が添い寝中、度々「こうすけさん」と言っていた事
最初は寝言だと気にしておらず、一人部屋になってからは忘れていた
入社1年目の社員旅行で母と沙織叔母さんが飲み潰れており、二人同時に寝言で
「耕にぃ」「こうすけさん」
と言った時...幼少期を思い出し、気になって私に電話で訪ねてきた事
そして私がお兄ちゃんの事を語った時...
「だから、僕の名前は【浩之】なのか」
浩之君が小声で溢しながら電話が切れたあと、私も気になり調べたら浩之(こうすけ)とも読めると知った事
純玲とそんなやり取りをしていたら純玲と恵子さんが帰ってきた。純玲は立ち上がり
「...だからこの事は内緒にしといてね」と言うので「あぁ分かった」と僕は答えた。
「私も行ってくるね」「いってら〜」
純玲とすれ違いざま言葉をかわす沙織と手を振る恵子さんに、僕は声をかける。
「おかえり」「「ただいまぁ〜」」
二人の返事を聞いてからさっきのやり取りが頭をよぎり、なんとなく恵子さんを見てしまった。
「......あと30分程したらでないとね〜」
さっきのやり取りを思い出したのか、白々しく言い距離を取る恵子さん...
だが丁度良いかと思い僕は沙織に話しかける。
「沙織、さっきの事だけど」「うん」
そう言って切り出すと恵子さんも僕の視線の意味を察してくれたのか、うつ伏せになりこっちから意識を遠ざけてくれたようだ。
近づいてきた沙織に僕はポツポツと語った。
生まれ変わった時、僕の意識は無かったが感じてはいた事
セシルが強い感情を抱いた時、それが危険だった時のみ自分も何かしら動いていた事
セシルが考え事をしていた時、自分も一緒に考えていてセシルがそれを実行したりしていた事
「...だから、僕はセシルと一緒に生きてきたから...彼女の事は自分事のように感じるんじゃなくて、そのまま自分事なんだよ」
僕の言葉に驚く沙織に、僕は言葉を続ける。
「だから【あんな女】って言われると...沙織なら、分かってくれるよね?」
僕の言葉に沙織は「う〜〜〜〜〜ん・・・・」と唸ってから
「セシルが喋ってる時、耕にぃはどうなってるの?」
と聞いてきたので僕は素直に答える。
「魂の中で観ている感じかな?」「観てるだけ?喋ってないのね?」「まぁ、そうだね」
すると沙織はまた「う〜〜〜〜〜ん・・・・」と唸ってから
「だったら無理!あの女はあの女よ!!」
「えぇ......?!」「アハハハッ!」「......はぁ」
不服そうな沙織の物言いに僕がぼやき恵子さんは笑い、いつの間にやら戻ってきていた純玲も嘆息した。
「お姉ちゃん...は仕方無いとして、恵子お姉ちゃんは笑いすぎ」
「......」「はぁ〜い」
純玲の言葉に沙織はムスッとして、恵子さんは仰向けのまま返事をしてそっぽ向いた。
「純玲?私は貴方たちが来る前に散々あの女と喋ったけど、耕にぃとは絶対別人よ?!て言うか!」
沙織が言葉を切って僕を見ながら
「耕にぃ!あの女が話してる時、見てるだけなんでしょ?!自分で動いてないって、さっき言ったやんか!」
「うっ!」「うっ!じゃない!」「でも...」「でもじゃなぁ〜〜〜い!!!」
どうやら沙織とセシルは馬が合わないらしい。僕は沙織に両手を上げて降参のポーズを取り言葉を続けた。
「分かったよ。沙織の言う通り確かに別人かもしれない」「かもじゃなくて別人です!」「分かった分かったから」
沙織の拒絶を受け入れながら僕は更に
「でもこれだけは分かって欲しい。僕はセシルと一緒に、あの世界で育ったんだ」
「「えぇ!?そうなの?!」」「...ん?」「...あっ?!」
僕の言葉に純玲と恵子さんが驚き、沙織は...
「ソコんトコ...説明してないや♪」
驚く二人に舌を出し誤魔化そうとする沙織。それより僕は
「今まで良く会話が成立してたな。二人は僕とセシルを何だと思ってたの?」
二人は顔を見合わせてから
「三歳君の中に別人格が生まれてお兄ちゃんも居る...みたいな?ソレを小説にした〜とかなんとか...」
「私、もっと酷いよ...『耕にぃとセシルに会えるから来て!』みたいな?」
純玲と恵子さんの説明?を聞いて僕は驚くと同時にふと疑問を口にする。
「沙織?成績良かったよな?どうして...」
なんと聞こうか迷っていると何故か沙織は自信満々
「生まれ神童、20歳過ぎれば凡人♪」
と言い切った。
「ソレ、自慢にならないって」「...はぁ」
恵子さんに突っ込まれ、純玲には呆れられたが沙織は何故かドヤったままだった。
まぁいいか...そんな事を思いながら時計を見ると
「...4:45」
僕が小声でボソリと言った瞬間、恵子さんが飛び起き振り向きながら迷惑にならない程度に叫ぶ。
「もう出ないと!」「そうだね!」「はいはぁ〜い」
純玲が賛同し沙織は間延びしながら同意する。
「耕助さんロビーで!」「うん。分かった」
恵子さんの気遣いに僕は頷き着替えに戻った。
ロッカーを出て浴衣を返却し、支払いを済ませにロビーに向かおうとして
「財布以前の問題だ」
よく考えたら僕はセシルに頼り切っている事に、今更ながら気付いた。
男性用の更衣室から出て、ロビー近くにあったソファに崩れ落ちるように腰掛けて項垂れていると
「耕にぃ、のぼせた?」
沙織が声をかけてきたが僕は首を振り
「沙織ごめん。今更だけどお金稼がないと今回みたいなの、もう出来ないわ」
「どうして?」
男として立つ瀬が無いと思っていると、沙織が不思議そうに聞き返してきた。僕がどう答えようか迷っていると
「そうか!耕にぃは現代を知らないんだった!」
そう言って笑い出した。そんな沙織を不思議そうに見ていると純玲がやって来て
「お兄ちゃん、今の時代男女平等になって、賃金格差とか大分変わってきたから【男が奢る】みたいな事は無くなってきたのよ」
恵子さんの方を見ながら言ってきた。僕もそっちを見ると恵子さんが丁度支払いをしている所だった。
僕は頭を抑えながらまたも俯向くと、沙織と純玲はクスッと笑ってから僕に手を差し伸べてきた。
「「ほら!行くよ!耕にぃ♪」」
二人に手を引かれエントランス方向に進むと
「ちょっと!支払いさせてこれから送って行こうって人間を置いていくとはどう言う了見よ!」
「すみません。恵子さん」
僕が謝るも沙織が
「下着代のが高いからソレでチャラで良いよ♪」
「!...納得いかない」
ここの支払い分以上の出費はしたと言い張り、恵子さんが不服そうにしてると
「恵子お姉ちゃんありがとね♪ついでにお姉ちゃんも」
純玲が一人勝ち宣言をして
「「!...納得いかないんですケド!!」」
「アハハハハハッ!ありがとーお姉ちゃんたち♪」
純玲の勝利宣言に二人とも肩を落とす。
駐車場に向かうなか、何一つ役立ってない僕は何も言えず
『申し訳ない』
と恵子さんに心の中で謝り続けた。
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